第百九十八話 はじめての冒険③
大きな機械が震えだす。
ゆっくりと機械が壊れていく。
あれだけゴーレムちゃん(仮)たちが叩いても壊れなかったのに。私のスキルを使えば、あっという間に解決することになった。
スキルを使えば、魂のない物質は何でも操れる。魔力が続く限り何度でも。
ご主人様は私のスキルを神に選ばれた特別なものだといっている。
正直、私は心から信じてはいなかった。だってそうでしょう? 元奴隷の私が神に選ばれるなんて。信じる方がおかしい。でも。
神に選ばれたスキル。
その実感が……今少しだけわいた。
機械が壊れて、表面に大きな傷が走り出した。
すきまから、たくさんの魂が飛び出してきた。
「わぁ!」
思わず声が出てしまった。
こんなにたくさんの魂。
とてもきれい。まるで花火が上がったかのよう。
魂は人によって色や形が微妙に違う。
それがよくわかる。生きていた人生が魂の形を決めるのかな、それとも生まれつきで魂の形は決まっているのかな。
今更だけど、私なんかが他人の魂をみてもいいのかな。神の領域に手をつっこんでいる気がする。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
私の使命を果たさなければ。
ダンジョンのボスは長年魂を集めてきたようだった。
その魂たちが今、解放された。
魂たちは天へ昇っていく。ああ、そうか、ほとんどの魂には体がもうないんだ。
天に昇れば、また生まれ変われる……のかな。
できれば次は誰かに殺されることなく、幸せな人生を送って欲しい。
……いや、ただ魂たち見上げている場合じゃないよ。
王立騎士団の魂を取り戻さなくちゃ。
「あ、あの! 皆さんの中に王立騎士団はいますか? 迎えにきたのですけど! ご主人様が体を取り戻しました! 今ならば元の体に戻れます!」
魂の群れの中から4つだけこちらへ近づいてくる。
手を上げると、大人しく乗ってくれる。なんとなくわかる。これは王立騎士団の人たちの魂だ。魂だけでも私の言葉は聞こえるんだ。
「はぁ、良かった」
これで私の使命は果たせた。
王立騎士団の人たちが天に昇ってしまったら、ご主人様に顔向けできないよ。
私のスキルは魂を複製するだけでなく、空中にある魂もある程度は操れるみたいだ。魂に関してはすごく便利だ。
あとはご主人様の元へ帰るだけ。
使命を果たしたと報告したらきっと喜んでくれる。
そう考えると、体に力がわいてくる。さあ、帰ろう。
ゴーレムちゃん(仮)の魂を回収する。
「よくやってくれたね。ありがとう」
ゴーレムちゃん(仮)とは会話できないけど、感謝を伝える。
私自身だけど感謝を伝えるのは大切だ。よし、急いで帰ろうか。
帰るための一歩だけ踏み出した時であった。
ふと、気がついた。
たくさんの魂がまだ機械に周辺に残っている。
「どうしたの? あなたたちはなぜ天へ向かわないの? 生まれ変わりたくはないの?」
答えてはくれない。
魂はしゃべれないのだった。
……。
もしかして。
あまりにも長い間閉じ込められていたせいで、天への戻り方を忘れてしまったのかな。
あるいはもう自分というものが消えてしまっているのかも。
そう考えると、なんだが魂たちがさびしそうにみえてくる。
このまま私が去ったら、この魂たちはずっとここに残っているのかな。
残された魂はどうなってしまうのか。モンスターにでもなってしまうのかな。それとも永遠に魂のまま?
このまま残す……わけにはいかないよね。
私にできること、それは。
「……じゃあ、私と一緒にくる?」
手を伸ばすと、残された魂が集まってくる。
不思議と不安はなかった。本能が魂たちを取り込めると、私に告げている。
暖かい。
魂が私の中に入ってくる。
ずっとこの場に残っているよりも、私と一緒に生きようか。きっと寂しくはないよ。
さあ、みんなで帰ろうか。
頭の中で誰かの声が響いた。
「「魂複製」スキルがレベル2になりました」
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