第二十話 そのころの元パーティー③
ノエルだけは絶対に殺す。
あの裏切ものめ。許せない。当たり前の理屈でパーティーを追放されたのに、逆恨みしやがって。殺されない限り、俺の邪魔を続けるに違いない。
たった二日で冒険者ギルドやエネルを味方につけていた。ノエル一人だけなら簡単に殺せるが、味方、特にエネルがやっかいであった。この街において唯一、1対1の戦いで俺を殺せる奴かもしれん。
くそっ。今度は誰にも知られずに、ノエルを襲撃する必要がある。
証拠さえなければ街中で殺してもかまわない。さて、どうするか……。
街の中心地にある家に帰っていた。
周辺のどんな家よりも大きく豪華だ。S級冒険者なのだから、当たり前のことである。俺は人の上に立つ資格があるのだ。
俺こそ選ばれた人間だ。他の人間には雑魚しかいない。
一流の職人に作らせた椅子に座りながら、爪を噛む。
前回は怒りにとらわれて、冷静さを失っていた。もっと完璧に立ち回る必要がある。俺には輝かしい将来があるのだ。ノエルごときで、つまずいてたまるか。
「ねぇ、やっぱり闇討ちが一番じゃない? 誰にも知られずにすむよ?」
隣にいるレイナが言う。
笑顔の中に、少しだけ恐怖の感情が浮かんでいる。そうだ、この表情だ。他の冒険者が浮かべるべきなのは、恐怖の表情なのだ。
「面白くないな。雑魚どもが調子に乗るだろう」
今日の夜あたりに、ノエルのボロ小屋に襲撃をかければ簡単に終わる。ノエル一人だけならば、いつでも殺せる。負けるなどあり得ない。
簡単だ
簡単だ……が。
それでは俺の気がすまねえ。
ナメた態度を取った冒険者ギルドとエネルにも思い知らせてやりたい。二度と逆らわないように恐怖を叩きこむ必要がある。今はまだ手を出せないだけになおさらだ。
ダンジョンを制覇した時には、全員殺してやるが、今は駄目だ。
「とりあえずクズどもに、ノエルを監視させるか」
街での犯罪に使ってやっているチンピラども。
使い捨ての連中である。スキルさえ使えない完全なるクズ。だからこそ使いようもある。
失敗したらしたで、斬り捨てればいいのだから。
「さすがグェントだわ。頭がいい!」
「はっはっは。そうだろ。俺は最強だからな」
完璧な策である。
少し時間がたてば、ノエルの弱点もみつかるだろう。後は、いかに残酷に殺すかだけである。
よし、飯でも食いに行くか。
普通の冒険者が通うレストランではない。俺にふさわしいのは、超一流のレストランだけだ。服も家具も、家も一流こそが俺にふさわしいのだ。
突然、レイナが叫び声をあげた。
「ノ、ノエル!?」
「なに!?」
慌てて窓の方に視線を向けると、確かにノエルが立っている。
一瞬、俺より先に襲撃にきた、との考えが頭をかすめるがありえない。ノエルは雑魚なのだ。雑魚が襲撃にきても返り討ちにあうだけだ。
「てめぇ! ノエル何しにきた!! 殺されにきたのならば歓迎してやるよぉ!」
「……お前に1対1の決闘を申し込みにきた」
「あ!?」
1対1の決闘だと!?
こいつ頭が狂ったのではないか? 雑魚が俺に勝てるはずがないだろう!?
ノエルは決意に満ちたような顔をしてやがる。
いつもの優柔不断な表情ではない。むかつく。顔をみているだけで怒りがわいてくる。
「冒険者ギルドも承認した。正式にお前との1対1の決闘が行われる。そこでならば俺を殺しても、誰も文句は言わないぞ。どうだ、受けるか?」
決闘? 決闘だと!?
愉快な気分になってきた。
自分の顔に笑みが広がってくるのがわかる。
こいつ、自殺するつもりか。
自ら死ぬつもりなのだ。しかも俺にとっても都合がいい。ノエルを殺すには理想的な処刑場だ。
誰も手出しできないし、ギルドの連中に恐怖を植え付けることもできる。
「くくっ。受けてやるよ。お前をなぶり殺しにしてやる」
そうだ。
これこそが本当の世界なのだ。
何もせずとも、世界は勝手に都合よく動いていく。
なぜなら、俺こそが選ばれた人間なのだから。
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