第百九十五話 巨大ゴーレム
「じゃあ、最終決戦をはじめようか!!」
どこまでも気楽に名もなき科学者が宣言をする。
これからはじまるのは、命をかけた真剣勝負のはずなのに。
こいつは自分の消滅を恐れてはいない。どこか楽しんでいる風さえある。
俺の理解が追いつかない。強いのか弱いのかすら判断できない。
魂のない人形……ではなく、こいつ自身の性格の問題である。
俺がわかっているのは、ただ1つだけ。
殺さなければ殺されるということだけだ。
「……お前は1人で戦うのか?」
名もなき科学者はたった1人で現れた。
俺の感覚ではこいつに戦闘能力は存在しない。ならば別の切り札を隠し持っているのだろうか。
いずれにしろこの余裕。人間の子供と戦うようにはいかないに違いない。
すでに戦いは始まっている。
これが最終戦。勝てば俺たちの勝利が確定する。
「ハハハッ。まさか僕は学者さ。学者は戦わないものさ」
パチリッ。
名もなき科学者が指を鳴らす。
ズシンッ! 地面が揺れはじめる。これは。足音か?
巨大な何かがこちらに来る。
現れたのは……巨大なゴーレムであった。
見覚えがある。
あれは……冒険者たちが制御不能になり、無理矢理ダンジョンへとぶち込んだゴーレム。
できそこないのゴーレム。失敗作のゴーレム。
名もなき科学者は制御不能のゴーレムでさえ改造できるのか。
信じられないが、可能にするだけの技術を名もなき科学者は持っていた。
「どうだい!? すごいだろう? 大きいだろう?」
名もなき科学者が無邪気に胸をはる。
その一瞬だけは、本物の子供のようにみえる。
「僕のゴーレムの最高傑作。特別製さ!」
見上げるほど大きいゴーレムであった。
表面にいくつもの魔法陣が浮いている。
目の前に立たれているだけで威圧感がある。
冒険者たちが作ったできそこないのゴーレムとは次元が違う。
歩くたびに地面が揺れる。力はもちろんのこと、それなりの機動力もありそうだ。
このゴーレムこそは敵の切り札。それ以外にも能力を持っている可能性もある。
間違いなく強敵である。
冒険者としての勘ですらない。
一般人がみても、理解できるほどの強さを持っている。
モンスターで例えるならば、かつて戦ったドラゴンよりも強そうだ。
「あわわっ」
少しずつソフィーナが後ろへ下がっていく。
実際に戦ってこそいないものの、ソフィーナだっていくつもの戦いを体験している。そのソフィーナにしても、目の前のゴーレムは圧倒的にみえるのだろう。
「ソフィーナ。大丈夫か? 気を強く持て」
最初から敵に飲まれては、勝ち目がなくなる。
自分より弱い相手にさえ……だ。
実力を発揮するのにも、気力が必要。
ダンジョン内で弱いモンスターにやられる冒険者を何人もみてきた。
強い気持ちで敵と対峙しなければならない。これも戦うものの基礎である。
「だ、大丈夫です。私はやれます」
震えるソフィーナ。
今が緊張の頂点であろう。
一度戦いがはじまってしまえば、緊張などとはいってられなくなる。
緊張している余裕など消し飛んでしまう。
「そ、そうだ! 私のスキルを使えば、あの大きいゴーレムだって……」
「……君がするべき使命をおぼえているか?」
ソフィーナにしかできない使命がある。
それは王立騎士団の魂を取り戻すこと。おそらく俺たちの中でソフィーナにしか魂を認識できない。ソフィーナがやるしかないのだ。
そして。
魂はこの最下層。機械の群れの中に保管されているはずだ。
魂を取り戻すには今しかない。
今なら名もなき科学者からの妨害も最小限。そもそもソフィーナのスキルも知られていない。ずっと隠し通してきたことが生きてくるはずだ。
「今こそ君の使命を果たす時だ。ゴーレムちゃん(仮)たちを連れて行ってくれ。君を守ってくれるはずだ」
「で、でもこのゴーレムは……」
「このゴーレムは俺が遊んでやる」
名もなき科学者を殺せば、魂は解放されるはずだ。
その場合、王立騎士団の魂を取り戻せない可能性もある。
俺自身が戦うしかない。
ソフィーナに笑いかけてやる。
「俺を信じろ。この程度のモンスターは何度も戦った経験がある。S級冒険者の称号はだてじゃない」
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