第百九十三話 一番乗りへ
ダンジョン捜索は順調に進んでいた。
予想していたよりもはるかに。
ダンジョン内では大量のゴーレムが警備をしているが、今のところ一度たりも戦わずに進めている。
俺が他の冒険者たちと比べて、ダンジョン捜索の腕が特別優れているわけではない。
少なくとも圧倒するような腕はない。隠れるためのスキルも持っていない。頼れるのは自分の経験だけ。
ただ、今回だけは俺にとって非常に有利な点があった。
それはモンスターのかわりにゴーレムが配置されていること。
ゴーレムのことならば、俺の方が他の冒険者よりもくわしい。名もなき科学者の作ったゴーレムはあくまでも俺の作ったものを基礎としている。
運動性能自体ははるかに上でも、敵を認識する方法は似ているものがあった。
認識する方法がわかれば、隠れながら進むのも難しくはない。
そんなわけで、俺たちのダンジョン捜索はかなりの速度で進んでいた。
わざわざゴーレムを倒す必要もない。いちいち倒していたら身が持たない。
ゴーレムの視界にさえ入らなければ問題ない。
そしてダンジョン内には身を隠す場所がたくさんあった。
90階層を超えても完全に戦いを避けられている。
階層が進むにつれ、ゴーレムの数は増えていく。それでも特に問題はない。
これまで道中には、他の冒険者たちがゴーレムと戦った形跡はいくつか存在した。ただ、形跡はあっても死体はない。
やはりゴーレム自体は冒険者が苦戦はしても、死ぬほどまでは強くない。
量を優先すれば質が落ちる。
名もなき科学者にも限界があるということだ。超一流の学者でも、短期間で10000体のゴーレムを作るのは簡単ではなかったのだ。
「よし、いいぞ。進もうか」
数体のゴーレムがダンジョンの先を通り過ぎる。
もう最下層に近い。まずますゴーレムの数が増えている。
もし1体にでもみつかれば、即座に数十体に取り囲まれるだろう。そうなったら逃げるのにも苦労するに違いない。
俺とソフィーナたちは岩のかげに隠れながら、ゆっくりと前進する。
隠れながら進むというのは、独特な重圧がかかる。単純に戦うのとは別の精神力が必要だ。
「ハァ…ハァ…」
ソフィーナの足取りがふらふらしている。
焦点も定まっていない。顔色も良くない。
「どうした? 疲れているのか?」
「い、いえ、大丈夫です」
声も小さい。
明らかに体力の限界に達している。
無理もないな。
ダンジョンに入ってから丸3日以上たっている。
休憩をはさんでいるものの、いつ襲われてもおかしくない状況は精神を削る。特にソフィーナははじめてのダンジョン捜索。
消耗の速度も激しいに違いない。
「よし、安全な場所をみつけて休憩しようか」
「ま、まだ私はやれます! だって私はまだ何もしていないです。ご主人様の後ろをついてきただけ……」
俺はソフィーナの頭に手を置く。
くすぐったそうにソフィーナが目を細める。
「いいから。もう最下層も近い。本番で倒れられた俺が困る。困るというか、王立騎士団が死ぬことになる」
ソフィーナは初心者である。
自分の限界を知らない。無理に無理を重ねてしまう。
動けなくなる直前までがんばってしまうのだ。ある程度は俺が制御しなければならない。それもまたパーティーのリーダーの役目である。
がんばるれるのは、間違いなくソフィーナの良い点ではある。
だが、体調管理もまた、一流冒険者の条件。
いずれソフィーナも身につけられるはずだ。
たき火を囲んで休憩している。
すでにソフィーナは眠そうだ。目がとろんとしている。
やはり休憩をとって正解だった。
今が昼なのか夜なのかわからないが、仮眠をとる必要がある。
周囲の警戒はゴーレムちゃん(仮)たちがしている。
ゴーレムは眠らない。まさに警戒はぴったりな役割である。
もっともゴーレムといえどもあまり稼働しすぎると、動きが鈍くなる。これは人間と同じだ。定期的な修理が必要となる。
このままソフィーナを寝かせてやりたいが、その前に一言だけいわなければならないことがある。
「ソフィーナ。おそらくこの速度で進めれば、俺たちが最下層へ一番乗りになるぞ。覚悟しておいてくれ」
ゴクリッとソフィーナがのどをならす。
「……私たちは勝てるのでしょうか?」
「そんなことを心配する必要はない。負けた時は死ぬ時だ」
それが冒険者の宿命だ。
負けてもパーティー外の誰かが助けてくれるわけでもない。
運がよければ逃げることができるが、常に逃げられるわけでもない。ギルドが問題にするほど冒険者の死亡率は高いのだ。
「俺たちは勝つよ。俺たちはこんなところで死んではいられない。まだまだつかむべき栄光が残っているからな」
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