第百九十二話 モンスターから隠れるのも冒険者の仕事
「それじゃあ、がんばって僕のゴーレムを倒してね。ダンジョンの最下層で待っているよ。一番乗りの冒険者は僕自身が直接戦ってあげる」
あっさりと名もなき科学者の声は消えた。
一方的に言葉を伝えただけだ。最初から俺たちと会話する気はなかったらしい。
自分のゴーレムを自慢したかっただけにみえた。思えば最初から名もなき科学者はこんな態度であった。自分のやりたいことだけを追求している。
戦略性の欠片もないが、その分行動が読みづらい。
合理的な面は従者であるエレノーラが担当していた。そのエレノーラがいない今、名もなき科学者の趣味が全開になっている。
俺たちがそこにつけ込めるか、勝負だ。
「ご主人様。これからどうするのですか?」
ソフィーナが不安そうに聞いてくる。
10000体のゴーレムがダンジョンにいると聞かされたのがきいているようだ。
ソフィーナだけではない。一般人ならば、誰でも不安になるに決まっている。
俺にとっても名もなき科学者がゴーレムを作ったことは予想外だった。
性能は認めるとしても、ゴーレムを作るなんて根本的に不合理である。いくら強くとも俺たちが対処できないほどの強さではない。
作るだけの価値がないように思える。名もなき科学者ならばもっと効果的な魔法生物を作れたはずだ。
50階層の罠で絶対に俺たちを殺せると読んでいたのか。
それとも興味本位で行動してしまう、学者の悪い面が出ているのか。
「いずれにしろ俺たちのやることは変わらないな。ダンジョンの最下層に行き、名もなき科学者を倒す。それだけだ」
「で、でも、ゴーレムが10000体も……」
「なにも全部倒す必要などないさ」
モンスターとの遭遇を避ける。
またはモンスターと遭遇しても戦わない。
ある意味、これこそが普通のダンジョン捜索といえる。
いちいち全てのモンスターと戦っていたら、身が持つはずがない。体力にも魔力にも限りがあるのだ。
腕の良い冒険者はモンスターから隠れる技術も上手だ。
ようはダンジョンのボスさえ倒せばいいのだ。
他のモンスターを倒してもダンジョン制覇にはならない。せいぜい素材をはぎ取って金に換えるぐらいだ。
ダンジョン内にモンスターがいないことの方が異常だったのだ。
ここからはやっと普通のダンジョンになったと思えばいい。俺にとっては慣れた仕事ではある。
戦いにおいては基本的に大人数の方が有利。
だが、少人数にも利点はある。特にダンジョン内でモンスターを避けなければならない場合には……だ。
「10000体といっても、ダンジョンは広い。残り45階層もある。実際に会う確率は高くないはずだ」
「あ、ああ! そうですね!!」
「俺たちにはゴーレムから隠れるスキルはない。だが、経験はある。俺にまかせて欲しい」
名もなき科学者が作ったゴーレムの知能も進化している。
少なくとも敵味方の区別がつくようだ。それでも戦いの技術や戦略を練られるようにまではなっていない。
モンスターをさける方法を応用できるだろう。
俺は並んでいるゴーレムちゃん(仮)をみる。
知能面ではソフィーナのスキルを使ったゴーレムの方が優れているのだった。
俺の手柄ではないが、何もかも敵のゴーレムが勝っているわけでもないのだ。
俺たちパーティーはダンジョンを進む。
時々名もなき科学者が作ったゴーレムと遭遇するが、問題なくやりすごせる。
殺気をまき散らしているので遠くからでも位置がわかる。強ければ気配がわかりやすくなる。性能の高さも良いことばかりではない。
名もなき科学者は適当にゴーレムを配置しているようだ。
こんなところにも名もなき科学者の戦略のなさがわかるな。
これまでの戦いでは冒険者であることにさして意味はなかった。
正面からの戦い、大人数での戦いだったからだ。
だが、今は冒険者であることが利点になっている。
まったく。
人生は何がおこるかわからないものだ。
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