第百八十七話 最高ランク冒険者の戦い③
ありとあらゆる方向から攻撃がくる。
針だけではない。壁で押しつぶそうとしたり、地面に穴が開いたりと、多彩な攻撃が襲ってくる。
少しずつ攻撃をかわすのが難しくなってくる。
かわすための場所がない。わらわの居場所がわからない分、エレノーラは攻撃の量で勝負してきている。
かといって、距離を取るなどわらわの誇りが許さない。
「あなたの気配遮断スキルはあくまで姿がみえなくなるだけ。攻撃が通じなくなるわけではなりません。スキルとしては大したものではありませんから」
得意そうにエレノーラが語る。
エレノーラの能力はなかなかにやっかいじゃ。
ダンジョンを自在にあやつり、攻撃してくる。逃げ場がない。逃げ場がなければ、わらわのスキルが有効に働かん。
だが。
「……もう勝った気でいるのかや?」
「いいえ。しかし量で押す攻撃を続けていれば、いずれは勝てるでしょう。あなたの身体能力は確かに素晴らしいですが、いつまでかわし続けていられるでしょうか?」
チッ。
悔しいが、なかなか有効な策だと認めざるを得ないのぉ。
「急におしゃべりになったのぉ。わざわざ自分の策を得意げに話すとはな」
「そうですね。勝利を確信して、気が緩んでいるのかもしれません」
むしろ攻撃よりも耐久力の方がやっかいじゃ。
いくらわらわでもダンジョンそのものは破壊できん。
仮に攻撃をかいくぐって接近しても、無限に回復する。わらわは大規模な攻撃方法を持っていない。攻撃方法は拳のみじゃ。
「でも、まあ逃げることはできると思いますよ。最高ランク冒険者がそんなことをするはずもありませんが」
「誰が逃げるか!!」
言葉で選択肢を縛ろうとする。
こんなところもノエルに似ておる。理屈だけで勝利を確信している。
エレノーラの攻撃がほほをかすめる。
わずかな痛みが走り、血が流れる感覚がした。戦いで血を流したのは実に久しぶりじゃ。
本格的にかわすための場所がなくなっている。このままでは攻撃をくらい続けるじゃろう。一撃は大したことはなくとも、少しずつ削られることになる。
「できれば早く死んでくれませんかね? 私は名もなき科学者の元へ帰らねばなりません。下手をすると他の冒険者に首を取られかねませんから」
こやつ。
すでに勝った気でいる。
……確かに策としては完璧かもしれん。
わらわの力を封殺しておる。
じゃが。戦っておるのが誰だと思っておる。
最高ランク冒険者のエネルじゃぞ。
わらわはスキルを解除する。
「おや? 諦めてくれましたか?」
「クッ。ククッ」
不意に笑えてきた。
こやつの……浅はかさに。
完璧な策を練れば勝てる。
戦いとはそんな浅いものじゃないわい。
計算式を解くように戦いに勝てるならば、誰も苦労などせん。
なによりも。
そもそもわらわの実力を全てみせたわけじゃないぞ。
本当の全力はこれからじゃ。
「……何がおかしいのですか?」
「得意げに勝利を確信している奴をぶっ潰す。これほど楽しいことはないわい」
「逆転の策でもあるのですか?」
逆転の策?
そんなものはない。
そもそもわらわは策を練るようなまねはせん。
ただ強さで叩き潰すだけ。真の強者には策など不要なのじゃ。
それを教えてやろう。
「スキル発動「気配遮断レベル5」」
「レベル5!?」
フッ。
確かにわらわのスキルは凡庸じゃ。
ただの「気配遮断」スキルだったのならば、最高ランク冒険者にはなれなかったじゃろう。
じゃが、レベルがつけば別。
努力次第で無限にスキルは進化する。そしてわらわには長い戦いの歴史がある。1000年かけてスキルを磨いてきた。
「光栄に思うがよいぞ。本当に強い相手にしかレベルのあるスキルは使わん」
「……っ!?」
ふんっ。
動揺しておる。
だから策に頼り過ぎてはいけないのじゃ。実力の底がみえておるな。
気配遮断スキルがただ姿を隠すだけだと?
レベルが上がれば、できることをみせてやろうか。
ただし、代償は命となる。
「だ、だが、まだ私の方が有利なはず! あなたの攻撃は私には通じません!」
「ふんっ。丸っきり言葉が小物じゃぞ?」
再びさまざまな攻撃が襲ってくる。
じゃが、今度はかわさない。もはやかわす必要もないから。
エレノーラの攻撃が体を透過する。
気配遮断スキルレベル5を使うと、気配を消すだけでなく、物理的な攻撃がいっさい通じなくなる。ふふっ。すごいじゃろう。
「もっとも物理を透過したままだと、攻撃もできなくなるから、一瞬前にはスキルを解除しなくてはならないのじゃが」
それでもこれでエレノーラの攻撃は無効化した。
次は決定的な攻撃をするだけじゃ。
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