第百八十二話 王立騎士団の救出➆
勝った。
賭けに勝った。
俺はオリハルコンを振るうのをやめる。
王立騎士団が意識を失い、暗殺スキルが解除されたからだ。姿がみえている。
やはり若いな。王立騎士団とは若い連中のパーティー。ギルドが期待するのも納得だ。
足元に倒れている王立騎士団はまだ生きてはいる。血にまみれているもののわずかに胸が上下している。いくつかの骨が折れてはいるが命に別状はなさそうだ。
オリハルコンで本気で殴り続けたのだ。常人ならば死んでいる。やはり体の鍛え方が違う。王立騎士団は純粋な耐久力も高いのだった。
「どうしたんだ!? 突然スキルを発動して!」
「そこに倒れているのは王立騎士団のメンバーか!?」
「ご、ご主人様! 大丈夫ですか!?」
周囲の冒険者たちが戦いを中断して、近寄ってくる。当然、ソフィーナも。
それはそうだろう。俺は皆に策のことを話してはいなかった。自分1人の胸に秘めていたからこそ、策は成功した。
俺は手をあげて、冒険者たちの接近を阻止する。
「まだ戦いは終わっていない! 攻撃を続けてくれ!!」
残りの王立騎士団は2人。
俺たちの担当は剣技スキルを持つ男のみ。
人数で押している現状、勝利は目前といえる。
だが、決して油断してはならない。
目前といえども、勝利ではないのだ。
ここからひっくり返される可能性はゼロではない。確実に勝つことが何よりも重要だ。
俺は一歩前に出る。
怪我の方はそれほど重くはないが、命をかけた緊張から解かれたせいで体が重い。まるで自分の体ではないみたいだ。それでも。残された気力を振り絞る。
ここで皆に弱いところをみせるわけにはいかない。
全体の士気に関わるからだ。無理をしてでも立ち上がらなければ。
俺は大声で叫ぶ。
「行くぞ! 勝利は目前だ!! スキル発動「土操作」!」
前に出ながらスキルを発動する。
土の塊を投げつける。攻撃力はないに等しいが、王立騎士団の進路を妨害することくらいはできるだろう。
なによりも俺自身が前に出る姿勢を示すことが大切なのだ。
俺の姿勢をみて、他の冒険者たちの攻勢も強まる。
残りの王立騎士団の男は前に出ようとするができない。
させない。もちろん剣技スキルに身体強化もある。走る速度は普通の冒険者をはるかに超えている。
だが、俺たちは冒険者だ。モンスターだけではなくスキルを持った人間と戦った経験も豊富である。速いだけならば対処できる。
「よし! やれるぞ!! 俺たちがあの王立騎士団に勝てるんだ!!」
「行け!! このまま叩き潰せ!」
冒険者たちは希望にわく。
誰の目にも俺たちの優勢は明らかだ。
俺にもこのまま叩き潰したい欲求がわく。
王立騎士団には何十人もの冒険者が殺されているのだ。復讐したい気持ちになってしまう。ましてや勝利が目前ならばなおさらだ。
最高ランクの冒険者を倒す機会などないに等しい。そもそも戦う機会さえない。この国で数十人しかいないからだ。
自分より格上の冒険者を倒すことには、たまらない魅力がある。このまま押しつぶしたい気持ちも理解できる。
しかし。
目的はあくまでも王立騎士団の救出である。
冒険者を殺したのは彼らの意思ではない。今の彼らは操り人形。名もなき科学者が冒険者を殺したのだ。
スキルの連射は続いている。
ますます激しくなっている。
俺は指揮官だ。
一時の感情にとらわれてはいけない。
冷静に状況を判断しなければ。
このまま押し込み続ければ、王立騎士団に勝ったとしても、体をバラバラに引き裂いてしまう。
体がバラバラになれば、魂を取り返したとしても、返す場所がなくなる。殺してしまうのだ。それだけは避けなければならない。
指揮官になるとただ勝つだけでは不十分になる。
個人の感情をおさえて、目的を達成しなければならないのだ。なってみて、はじめて気がついた。個人で戦っていた方がずっと楽だった。
できればもう二度とやりたくはないな。
「スキルでの攻撃をゆるめろ! これ以上、王立騎士団を追い詰めるな!!」
「なぜだ!! もう少しで勝てるのに!」
案の定、冒険者たちの反発が起きる。
熱くなった冒険者たちを止めるのは難しい。連携も信頼関係も完全ではない。
一応は俺の言葉を聞いてくれるが、部下ではない。あくまでも協力関係でしかないのだ。
それでも少しだけ攻撃が緩まる。
冒険者たちの信頼を感じる。
「目的は王立騎士団の救出だ! 敵は弱っている!! できるだけ傷つけずに捕まえろ!」
時間はある。
少しずつ体力と魔力を削ってく。
なぶるようだが、確実に捕らえるために仕方がないことだ。
数十分後。
戦いは終わった。俺たちの勝利だ。
ダンジョン捜索の目的の半分を達成したのだ。
あとは名もなき科学者を倒して、王立騎士団の魂を奪還することだけだ。
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