第百七十七話 王立騎士団の救出②
王立騎士団たちを名もなき科学者から取り戻さなくてはならない。
難しいのは、王立騎士団の体を傷つけすぎてはならないことだ。
完全に体を破壊しては、魂を取り戻しても意味がなくなる。約500人いても回復スキルを持つ冒険者はいない。できれば無傷のまま捕らえたい。
人間として最高峰のスキルを持つ連中相手に……だ。
厳しい戦いになるのは間違いないだろう。
「あ、あの、私が触って魂を入れれば、簡単に倒せるのでは?」
隣にいるソフィーナが話かけてくる。
しっかりと前をみつめていている。強くなったな。俺の背に隠れていた前回とは違う。
だが、この場でソフィーナのスキルに頼るわけにはいかない。
「君は俺たちの切り札。出番はまだ先だ」
「で、でも!」
「名もなき科学者に君のスキルを教えるわけにはいかない。君の出番は最後の最後。王立騎士団の魂を取り戻す時だ」
ドンッ!!
王立騎士団の爆発スキルが発動した。
広範囲に爆風が巻き起こるが、すでに冒険者たちは防御スキルを張っている。
こちらにはほとんど被害はない。
そのスキルは前回の戦いで経験した。
対処できる。爆発の場所にも工夫がない。機械的に攻撃してくるだけだ。
いかに強くとも、意思がなければ宝の持ち腐れである。命令を出すはずの名もなき科学者も戦いの素人だ。
もはや爆発スキルは致命的な攻撃にはなり得ない。
「ソフィーナ。ここは俺たちにまかせろ。ソフィーナのスキルに頼り切らなければならないほど、俺たちは弱くない」
「……はい! 私はご主人様を信じています!」
「いい返事だ」
俺はソフィーナの頭に手を置く。
ソフィーナにはソフィーナの戦いがある。ここは俺たちの出番だ。冒険者の救出は冒険者が行うべきである。冒険者ではないソフィーナに頼ったら、誇りが傷つく。
すでに王立騎士団との戦いがはじまっている。
早急に策を立てなければ。
問題は……残り二人のスキルである。
おそらく最強に近いスキルを持っているだろう。未知のスキルを使われたら、対処しきれない可能性がある。まずは相手のスキルを知らなければ。
普通の冒険者は他人にスキル内容を教えたりはしない。
内容を教えるとあらゆる戦いで不利になる。モンスター相手の戦いがほとんどとはいえ、悪意のある冒険者がいないとは限らない。
それは王立騎士団ほど有名な冒険者も同じこと。いや、有名だからこそスキルは隠しておかなければならない。人望があって、多くの冒険者に慕われていても、同時に敵も多いはずだ。
冒険者だけではない。
この世界で戦いを職業とする人間は大抵同じような傾向がある。本当に信用ができるものにしかスキルの内容は教えたりはしない。
スキルが戦いの中心になった時代ならではの話である。
戦いはまだお互いに様子見の段階だ。
爆発スキルが絶え間なく発動し続けている。こちらも遠距離スキルを使うが、決定打にはほど遠い。
「ノエルさん。私は王立騎士団のスキルを知っていますよ」
エネルのパーティー副リーダーが近づいてきた。
本当か?
冷静な表情である。この場面で嘘をついているとは思えないが……
「なぜあんたが王立騎士団のスキルを知っている?」
スキルの内容を知れる立場ではないはずだが。
長年の付き合いでもない。そもそもエネルたちと王立騎士団はこの場所が初対面のはずだ。
エネルは最高ランク冒険者だが、情報収集に熱心なタイプでもない。
「ああ、ギルドの幹部を締め上げたので」
……なるほど。
手荒なまねをする。
確かにギルド幹部ならば知っている可能性はある。
それでも簡単に教えるとは思えない。所属する冒険者のスキルをもらすことは、重大な問題行為である。拷問まがいのことでもしたのだろうか。
「敵を待っている間、暇だったもので。エネルと違って、私は情報収集を重視するタイプなのです」
エネルにない部分を副リーダーが担当している。
理想的なパーティー構成であった。だが。
「そんな暇があるなら、あんたたちもゴーレム作りに参加して欲しかったな」
この場面で王立騎士団のスキルを知れるのは助かる。
が、ゴーレム作りに参加して欲しかった思いもある。もっと大量のゴーレムが作れれば、戦い自体がもっと楽になった可能性もあるのだ。
副リーダーはしれっと答える。
「私たちはエネルのパーティーなので、エネルに従うだけです。今はあなたの文句を受け付けている時間はありません」
確かにその通りだ。
が、こうも簡単にあしらわれると、苦笑いしか出てこない。
どいつもこいつも冒険者という奴は一筋縄ではいかない奴ばかりだな。
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