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第十八話 対元パーティー会議

「私のせいです。私が馬鹿に本当のことを言ったから、ノエルさんの迷惑に……」


 ギルド受付のリリィが泣いている。

 後悔しつつも、言葉は厳しい。よほどグェントに対して、腹が立っているようだ。グェントは俺の知らないところで、どれほどの悪行を重ねていたのだろうか。

 

「いえ、俺の責任ですよ。パーティーにいた時に、奴の根性を叩きのめすことができていれば」


 自分の弱さが悔しい。

 グェントが悪に染まってしまったのは、パーティーを支えていた俺にも責任がある。

 S級冒険者になるのが、早すぎたのかもしれない。あるいは、ゴーレム開発のおかげでパーティーは特別待遇を受けていたのが、良くなかったのかもしれない。


 精神が成長しないままに、冒険者のランクだけが上がってしまったのだ。

 今やグェントは一種の化け物で、誰の忠告も聞かないだろう。



「違いますよ!! ノエルさんは何も悪くありません! いつだってノエルさんは一生懸命で

この街の全員があなたを尊敬しています!」


 リリィは必死にはげましてくれるが、心は晴れない。

 このままグェントを放置していると、どれだけ街に迷惑をかけるか。冒険者全体の印象だって地に落ちる。

 ただでさえ一般人からは、無駄に剣をさげて街をうろついている、無法ものだと思われているのに。


 俺に対する殺人予告など、冒険者全体と比べれば、ささいな問題だ。


「とにかく、悪い方に考えないでください。ノエルさんにはこれだけの味方がいるのですから」




 冒険者ギルドの一室で対グェント用の会議が開かれていた。

 参加者は、俺、ギルド長クラウス、エネル、リリィの4名だ。


「のぉ、クラウス。ギルドでグェントの討伐命令を出せないのかのぉ? 命令があれば、わらわのパーティーが1時間以内に、大馬鹿の首を取ってきてやろう」


 クラウスはあご髭に手を当て、考え込む。

 表情には悔しさがにじんでいる。


「……難しいでしょうね。今のところグェントの悪行は、比較的軽いか、証拠がありません。冒険者ランクの降格がせいぜいでしょう」


「めんどうじゃのぉ。国の法律とギルドの掟でがんじがらめじゃわい」


 冒険者には頭を下げる上司もいなければ、生意気な部下もいない。どの職業よりも自由ではあるが、最低限守らなくてはならない決まりは存在する。

 殺人や強盗を起こせば、賞金首になる。冒険者、というよりも街の住民としての義務である。


 エネルならば、賞金を狙う人間を返り討ちにもできようが、ダンジョンを捜索している暇はなくなる。冒険者にとってダンジョン制覇こそ、最大の目標。

 いくら強くとも、犯罪をおかして夢を諦めることなどできるはずもない。



 合法的に冒険者同士で戦う方法もあることはある。だが、双方の同意が必要だ。エネルとの1対1にグェントが賛成するとは思えない。



「じゃあどうするのですか! あの馬鹿は絶対にノエルさんを諦めませんよ!! 自分の悪いことは全てがノエルさんの陰謀だと思い込んでいるのです!」


「落ち着きたまえ、リリィ君。それを今考えていることだ」


 そうだな。グェントの捨て台詞と性格からいって、確実に俺をもう一度殺しにくる。

 しかもさすがに前回のように、街中で襲ってきたりはしないだろう。暴走しているとはいえ、それくらの知能は残っているはずだ。

 より確実に殺せるような襲い方をしてくるに違いない。しかも証拠の残らない方法で……だ。

 

 仮に闇討ちされたら、俺に勝ち目は残っているだろうか。




「そういえばノエル。大馬鹿のスキルは何じゃったかのぉ。忘れてしもうたわい」


 相手のスキルを忘れた状態で、戦おうとしていたのか。

 さすがSS級冒険者。腹の座り方からして違う。


 とても普通の冒険者には、まねできない。



「グェントのスキルは、剣に属性を付与できるというものです。火、氷、雷など種類は多い、戦いでどの属性を使うのか予測はできません」


「ふむ、便利じゃのぉ。スキルだけは一流じゃわい」


 実際にダンジョン捜索で、グェントのスキルは活躍した。

 モンスターの弱点に合わせて戦えるのだ。加えて、剣の腕も一流。大抵のモンスターならば、たった一人で倒せる実力を持っている。


 俺のスキルで作った土の壁など、簡単に突破される。

 「土操作」スキルはあくまで普通の土を操作できるだけ。土自体に特別な効果を付与できるわけではないのだ。

 



 リリィさんが机を叩く。

 この人は泣いたり、怒ったりと感情がくるくると変わる。


「とにかく! ノエルさんを殺させるわけにはいきません!! ノエルさんのゴーレム開発は街の宝。この街の未来です!!」



 ……。

 まてよ。ゴーレム開発!?

 頭の中で雷が鳴り響いた。



 俺のスキル単体ではグェントには勝てないが、ゴーレムを組み合わせたらどうだろう。

 街で働いているゴーレムはあくまで労働用で、戦いには使えない。ならば戦闘用のゴーレムを開発すればいい。


 お互いに手の内を知り尽くしている相手だ。

 グェントに合わせて、性能をしぼる。戦闘用として不完全でもなんとなるかもしれない。


 

 戦える。

 戦えるならば戦うしかない。

 勇気。あるいは無謀さ。それこそが冒険者であるために必要なことだ。




「リリィさん、大丈夫ですよ」


「……え? え? なにが?」


「元パーティーとはいえ、悪行を重ねるグェントは許せません。けじめは俺が取ります」


 俺は周囲を見渡して、言い切った。



「グェントとは1対1で、俺自身が戦います」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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