表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/206

第百七十四話 決戦の開始

「悪いが、お前たちの事情などに興味はない。どちらかが倒れるまで戦い続けるだけだ」



「ハハッ。厳しいねぇ。いつだって冒険者は戦うことしか頭にない」


 あきれたような声を名もなき科学者はもらす。

 敵の事情がわかっても、やることは変わらない。戦って相手を倒す……それだけだ。


 俺たちはモンスターと戦うプロである。

 感情に流されて手加減などしない。いずれにしろ、これは紛れもない真剣勝負。負ければ死ぬか、死に等しい罰を受けることになる。

 甘い感情など、最初からはさむ余地など存在しないのだ。


「冒険者はもっとダンジョン捜索を楽しむべきだよ。死ぬかもしれない遊びなんて、他の人間では味わえない」



「ずいぶんと余裕だな」


 条件は相手も同じはず。

 それなのに、なんだこの余裕は。いや、余裕というよりもどこか壊れているような印象さえ受ける。

 

 相手の話を信じるなら、こいつには魂がない。

 見た目は完璧に人間の子供そのものである。知能も高すぎる程に高い。どれほどの技術があれば、ただの人形がここまで成長できるのか。

 

 俺の作った魂のないゴーレムと同じ次元の存在。

 だが、天と地の性能差がある。名もなき科学者自身には戦闘力はないが、技術者としては俺のはるか上にいる。



 本当の問題は敵の策がなにかということだった。


 わざわざダンジョンを改造してまで、俺たちを誘い込んだのだ。無策ということはあり得ない。

必ず俺たちを殺すような策が用意されているはずだ。


 床や天井に変わったところはない。

 名もなき科学者の声が響いているだけだ。部屋ごと爆破する気か? ……いや、そうであれば俺たちの死体さえ残らない。実験材料にはできないはず……。




「もうくだらない話はいいじゃろう? さっさと戦いを始めようぞ」


 エネルが低い声で呼びかける。

 名もなき科学者も怖いが、エネルも怖い。

 完全に戦闘モード。触れれば斬られてしまいそうな殺気を放っている。


「ああ、そうだね。では殺し合いを始めようか。君たちを実験材料にして、頭を解剖してあげるよ」


 

 これが名もなき科学者たちとの決戦になる。

 お互いに逃げ場はない。死ぬまで戦うだけ。最後の戦いが、今、始まった。



「といっても、実際に戦うのは私たちだけですがね」


 

 エリノーラと王立騎士団の3人が、こちらに歩いてくる。

 敵方の実戦指揮官。やはりこの女もあせったような雰囲気はない。わざわざ姿を現した? なぜ? 


「しかたがないだろう? 僕は戦うようには作られていないのだから。研究するのが、僕の役目」



 まずいな。

 敵の策が読めない。俺もダンジョン内での戦いは、それなりの経験があるはずなのに。

 策の内容がわからない以上、対策の立てようもない。


「私はあなたのように精神が壊れてはいないですから。私たちは客観的にみて追いつめられています。この時代の冒険者たちは思っていたよりもずっと強かった」


「うるさいなぁ。そのかわり必殺の策を考えたんだからいいだろう」



 エリノーラが俺たちの方を向く。

 人形にふさわしい無機質な目だ。エリノーラの方は現実的。現状を正確にとらえている。

 実際に戦うものは人形だろうが、現実的にならざるを得ないのだろう。


 ここまでダンジョンが存在しているのは、エリノーラの功績が大きいに違いない。

 エリノーラは小さくため息をつく。


「というわけで、さっさと死んでください」



 パチンッ。

 指を鳴らす。

 

 エリノーラの足元から魔法陣が爆発的に広がる。

 俺たちの方へ伸びてくる。現状は触っても体に異常はない。くそっ。これも名もなき科学者の技術なのか。


 罠が用意されていることは予想していた。


 モンスターの攻撃やスキルならば対処できた。だが、名もなき科学者の技術は未知のものばかり。対処法がわからない。

 そもそも魔法陣が発動したらどうなるのか。まったくわからない。これほど大量の魔法陣を必要とする技術。まさか……。


「ゴーレムでは魂を奪う技術を破壊できなかったということか」



 名もなき科学者は笑いながら答える。


「いやいや、君たちのゴーレムは確かに魂に関する技術を破壊したよ。ただ、君たちを殺すのに他に方法はいくらでもある。要は体を傷つけずに殺せばいいのだからね」


 冒険者たちに絶望が広がっていく。

 もはや部屋中に魔法陣が広がっている。逃げられない。


 俺は必死に頭を働かせる。どうすれば敵の罠から抜け出せるのか。しかし敵の攻撃の詳細が分からない以上、どの行動をとっても賭けになってしまう。

 今から魔法陣を破壊しようとして間に合うか? 当然敵も俺たちの行動は予測しているはずだ。




 その時、エネルが一歩前に出た。


「ここはわらわにまかせておけ。スキル発動「気配遮断」」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ