第百七十三話 はるか昔のお話
僕とエリノーラには魂がない。
本質的には君たちが送ったゴーレムと同じさ。人形だよ。思考や体の細かい部分は全て僕が開発した技術のおかげさ。どうだ。すごいだろう。だてに1000年を超えて研究を続けてはいない。
そりゃ苦労したよ。
最初は一人しかいなかったし、性能も低かった。
なにしろ僕を作った人間に才能がなかったからね。
おおよそ1200年前、僕は生まれた。
作った人間は無名の科学者。まった科学者としての才能がなかったな。それどころか人望もなくてね。当時の研究者の集まりから追放されてしまった。
追放された科学者は暗い情熱を燃やすけど、いかんせん才能のなさはどうしようもない。人間だから寿命もある。
人生の全てを費やしても、作れたのは自分自身の姿を形作った人形を開発したことだけ。
そう、その人形が僕ってわけさ。
科学者は僕に名前をつけてくれなかった。まったくもってセンスのない男だ。だいたい人生全てを費やし作れたのが人形1体だけとはね。
つくづく才能のない男だった。はるか昔の話だからね、少しだけ懐かしくはあるけれど。
だから。
今も僕には名前がない。名もなき科学者と名乗っているのはそういうわけさ。
僕に課せられた使命はたった1つ。
研究し続けること。
技術を使う目的などないよ。研究し続けること自体が目的なのさ。
この身が滅びるまで。永久的に……ね。今も僕を作った男の執念を引きずっている。
最初はまともに思考もできないほど、体の能力は低かった。しかも仲間は1人もいない。作った人間はさっさと寿命で死んでしまう。
まともに研究さえできる環境ではなかった。
僕はできるかぎりのことをした。
人形には寿命ないからね。時間は無限にある。誰にも気づかれないまま研究を続けていたよ。あのころは寂しいという感情すらなかったな。
研究内容を聞きたいかい?
実はね……それすらも科学者は設定してくれなかったんだ。まったく。これでは仲間外れにされてもしかたがないよね。
だから僕はずっと好きに研究を続けている。それだけが僕の存在意義なんだよ。
エレノーラを作れるようになったのは500年後。
魂を奪う技術を開発したのは1000年後。
気がついたらダンジョンのボスになっていた。
ただの人形が出世したものだと思わないかい?
……エレノーラには反抗されてばかりだけどね。どこまでも現実的で、ダンジョンを運営できるのは彼女のおかげさ。
魂がなくとも関係性に苦労するとは、君たちにはとても信じられないだろうけどね。
人形には人形の苦労があるものさ。
魂を奪う技術が世界を変え得るということは理解している。
外に出せば全ての人間が欲しがる技術さ。
でも、僕はそんなことに興味はないんだ。
僕の目的は永遠に研究をし続けること。
そのためには。定期的に実験材料が必要になる。
だから。
君たちを実験材料にさせてもらうよ。
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