第百七十一話 荒れたダンジョン
俺とソフィーナはダンジョンへと突入した。
もう後戻りはできない。名もなき科学者たちを倒すか、俺たちが全滅するかの2択だ。
ああ、そういえば、名もなき科学者は俺たちを実験材料にするつもりだったな。ならば敗北した場合、生きたまま地獄に叩き落とされるようになるかもしれない。
誰だって実験材料にされるのは絶対に嫌に決まっている。
俺たちがダンジョンに入ったのは最後だが、問題ない。
早く入れば、早く倒せるような簡単な相手ではない。俺たちが有利なはずの地上でも逃がしてしまったのだ。相手の方が有利なダンジョン内では苦戦するに決まっている。
「それでも誰も引く気はない……か。」
「え? 何かいいましたか?」
「いや、ただのひとり言だ。気にしなくていい」
おそらく名もなき科学者はダンジョンの最下層にいるだろう。
いいや、相手は普通のボスではない。1階から奇襲してくる可能性もなくはない。
前回のような俺たちを最下層まで引き込むためのダンジョンではない。今回は本気で殺しに来るはずだ。気を引き締めねば。
俺は周囲を見渡す。
ここはダンジョン1階。通常ならば雑魚モンスターが襲ってくるのだが、まったく気配がない。とても静かだ。まるでダンジョン内に俺たちしかいないような錯覚をおぼえる。
「予想していた以上に、ゴーレムの大量生産は効果を上げていたようだな」
地面にはゴーレムの残骸と雑魚モンスターの死体が転がっている。足の踏み場もないほど大量だ。死体を片づける暇もなかったらしい。
壁にも天井にも無数の傷が走り、激闘の後を伝えている。前回の整然としたダンジョンの面影は消え去っていた。
まあ、俺はこっちの方が好みだが。
命がかかっているダンジョン捜索に整然さなど必要ない。
作ったゴーレムは20000体以上。
それだけの数があれば、雑魚モンスターを一掃するくらいの力は生まれる。これだけダンジョンを傷つければ、魂を奪う技術を破壊できているかもしれない。
もっともダンジョンはまだ1階にすぎない。
答えが出るのはまだ先である。このダンジョンは100階層まであるのだ。小規模といえども最下層に行くまでに10日程度は必要になるだろう。
「うっ……。ひどい臭いです……」
ソフィーナにいわれてはじめて気がついた。
雑魚モンスターの死体はひどい腐臭を放っている。
ふむ。俺は臭いに慣れきって気にもしてなかったな。
「大丈夫か? しばらく休むか?」
「い、いえ、大丈夫です!」
まだソフィーナの足取りは確かだ。
本当に危なくなったら無理やりにでも止めるべきだろう。
1階を駆け抜け、2階へと突入する。
低階層ではボスの奇襲以外では、戦い自体が起こりそうにない。激戦のあとが続くだけだ。
まだまだ先は遠い。
戦いのための余力も残しておかねば。走るのに疲れて戦えませんでしたではお話にならない。
おそらく普通のモンスターと戦う機会はない。戦うのは名もなき科学者たちと王立騎士団のメンバーだけだ。
「敵と戦うとなれば、奇襲を受けるか、もしくは敵が待ち受けている場所での戦いになる。覚悟しておいてくれ」
「は、はい!」
「ここはすでに敵の領域。なにが起こってもおかしくないぞ」
ソフィーナは不安そうに周囲を見渡す。
はじめてダンジョンに捜索したものは大抵こうなる。むやみに先を進むよりはずっといい。一番重要なのは生き延びること。
臆病さは時に最大の武器になるのだ。
「な、なにかボスと戦うための策があるのですか?」
「ない。ダンジョンのボスを倒すのは早い者勝ちと約束したからな。個人単位で戦うしかない」
だからこそ、面白い。
そう思う俺は心の底から冒険者に染まっているらしい。
俺だけではなく、ダンジョン捜索をしている冒険者のほとんどがそうなのだから、ある意味手に負えないな。
もちろん個人単位で戦っても、時には他のパーティーと協力することもあるだろう。
これからの展開が読めない以上、協力も即興になるだろう。戦いの場で策を組み立てるしかない。これは特別なことではない。ダンジョン捜索では普通のことだ。
むしろ事前に策を用意する方が異例なのだった。
「どうしてもというならば、エネルを頼れ。ダンジョン内ではエネルほど頼れる冒険者はみたことがない」
「エネルさん……ですか」
首をかしげるソフィーナ。
まあ、気持ちはわかる。
ここまではエネルにはあまりいいところがなかった。
ダンジョンに入れず、だだをこねたり、敵を逃がしてしまったり。雰囲気もあまり最高ランク冒険者の威厳はない。長い間生きているはずなのに、全体的に子供っぽいのだ。
だが、エネルが本当に力を発揮するのはここからとなる。
ダンジョンの外と中のエネルは別人。長い付き合いの俺はよく知っている。
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