第百七十話 ゴーレムの偵察
「ゴーレムちゃん(仮)たちがダンジョンの偵察に行きたいといっています。自分たちが帰ってこられたら、魂を奪う技術が破壊された証拠だと」
ソフィーナが困惑気味に話しかけてくる。
スキル主であっても、ゴーレムちゃん(仮)の提案は予想外であったのであろう。もちろん俺にとっても。
これまでゴーレムちゃん(仮)が何か提案してくることなどなかった。
魂を持つということは意思を持つこと。ただ命令に従うような存在ではないのだ。
俺はゴーレムちゃん(仮)たちの方をみる。
10体のゴーレムが仲良く並んでいる。冒険者たちが作ったゴーレムと見た目は同じだが、中身はまったく違う。あらゆる意味で性能が上がっている。
とはいえ、ゴーレムちゃん(仮)は完璧に無表情である。
俺ではまったくゴーレムちゃん(仮)たちの感情が読み取れない。よくもまあ、ソフィーナは意思疎通ができたものだ。自分と同じ魂を持つがゆえに違いない。
そもそもゴーレムちゃん(仮)には話す機能は存在しない。表情もない。
ゴーレムが進化しつづけた時には、誰でも意思疎通できるようになるのだろうか。
「あの、ご主人様。私はすごくいい提案だと思うのですけど」
「……確かにな。合理的な提案ではある」
ゴーレムちゃん(仮)たちにも魂がある。
敵の魂を奪う技術が残っていれば、ダンジョンから帰っては来られないだろう。逆に破壊されていれば帰ってこられる。ソフィーナのスキルを使えばいくらでも次のゴーレムちゃん(仮)が作り出せる。
これこそがソフィーナの強みである。
魔力が続く限り、自分の複製できるのだ。
ダンジョン内への偵察としてはまさに最適。
俺たちの側からみれば完璧な策である。ゴーレムちゃん(仮)たちに任せれば、いっさい俺たちが傷つくこともなく、敵の様子を探れる。
これ以上の策はないに違いない。
だが、しかし。
「やめておこう」
「え!?」
「俺たち自身が敵の様子を確かめることにする。ゴーレムちゃん(仮)たちには偵察させない。俺たちと一緒にダンジョンへ突入してもらう」
俺の言葉に、ソフィーナが驚く。
それはそうだろう。俺の言葉は理屈に合っていない。もし敵の魂を奪う技術があったならば、俺たちは大きな被害を受けることになる。
名もなき科学者たちには手加減する理由など存在しない。最悪、全滅する可能性さある。
だが、不合理だろうが譲れないものはあるのだった。
手段は選ぶ。たとえ有効であっても。それが俺のやり方である。
「ど。どうしてですか!?」
「かつて君はいったな。ゴーレムは友達だと。友だちを捨て石として使うつもりか?」
「……あ」
魂を持ったゴーレム。魂のないゴーレムとは決定的に違う。道具としてはあつかえない。
俺は今では友達とまではいわないが、人間に近い存在として認めている。仲間……とさえいえるほどに。
仲間を捨て石にするわけにはいかない。
危険があるのならば、自分たちも引き受ける。俺個人の信念である。仮に今回の戦いに勝てても、自らの信念を傷つけてしまう。
体と違って、信念とは回復しないのだ。
捕まえた王立騎士団にソフィーナのスキルを使わせなかったのと同じだ。
決して尊厳の問題だけはゆずれない。例えその結果、俺自身が死のうとも……だ。
「だが、これは冒険者ですらなく、俺個人のわがままだ。もし君が……」
「いいえ! 私も従います!! ゴーレムちゃん(仮)が死ぬときは私も死ぬときです!」
いい覚悟だ。
魔法生物をあつかう人間にはその覚悟が必要になる。
実際はおそらくゴーレムちゃん(仮)たちは最後の最後までソフィーナ守ろうとするだろう。ソフィーナを裏切るようなことは決してない。
それはつまるところ、ソフィーナの魂が正しいことを意味している。
「……駄目ですね。私はいつもご主人様の足を引っ張ってばかりです」
「いや、俺の方が君に助けられてばかりだ」
「そんな……」
事実、ソフィーナのスキルがなければ、俺はこの場所に立っていなかっただろう。
凡人である俺の運命が変わったとすれば、ソフィーナに出会った瞬間だった。
「俺たちはパーティーだ。お互いに助け合わなければならない。迷惑をかけあうのも当然のこと。どんな困難もパーティーで挑めば、難易度が下がるものさ」
「はい!」
お互いに気合は十分。
最終決戦に向けて全ての準備は整った。
「よし、行こうかダンジョン内へ。名もなき冒険者を倒し、殺された冒険者たちの仇を討つ」
気がつけば周囲には誰もいなかった。
すでに周囲の冒険者はダンジョンへ突入してしまったようだ。
最後か。
まあ、それも悪くはない。この程度の遅れはいくらでも取り戻せる。
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