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第百六十九話 ダンジョン突入へ決意

「あいつら戦いはじめたと思ったら、すぐダンジョンに逃げやがったのじゃ! つまらん! またしても逃がしてしまったわい!!」


 エネルが悔しそうに顔をゆがめる。

 服が汚れるにも関わらず、地面に横になっている。あいかわらず子供っぽい亜人である。手足をばたつかせながらわめいている。


 周囲の高ランク冒険者の視線が冷たい。

 いや、まあ、これでも1000年以上生きているのだからな。



 しかし。

 なるほど。名もなき科学者たちはすぐにダンジョンへ戻っていったか。

 

「となると、エネルたち相手に勝ち目がないと理解したのか。それとも他に理由があったのか」


 結局のところ、あまりにもエネルの攻撃態勢が完璧だったからだろう。

 勝ち目がなければ逃げようとする。名もなき科学者とはそういうダンジョンのボスであった。


 ここが戦略の難しいところで、あまりにも完璧な策は敵が乗ってこない。

 逃げ道をふさぐか、敵が乗ってくるような仕組みが必要になる。当然、エネルも名もなき科学者の退路をふさごうとしたに違いない。

 それ以上に名もなき科学者の撤退の判断が早かったのだ。



「勝ち目がないから逃げるなんぞ、ダンジョンのボス失格じゃわい!!」


 共感せざるを得ない。

 俺たち冒険者にはダンジョンのボスを神格化しやすい傾向がある。敵には強くあって欲しい、強ければ倒した時の名誉が増す。

 捨てきれない冒険者の本能である。


「名もなき冒険者は、俺たちの知っているボスとは少し違うようだ。ボスとしての誇りを持っていない。不利になったら逃げるだけの冷静さがある」


 死ぬまで戦う相手と不利になったら逃げる相手。

 やっかいなのはもちろん後者だ。俺たちとそれほど力の差がないのならば、策の打ち合いの勝負となる。簡単に逃げるような相手だと決定打が打ちにくい。


 生死のかかった選択になる。

 慎重にならざるを得ない。




「ふんっ! もういいわい! わらわたちはこのままダンジョンに突入する!!」


「……本気か?」


 ダンジョンに突入するのは、敵の魂を奪う技術を破壊してからだ。

 現状は破壊した確証がない。地上に出てきたのは、技術を破壊されたからなのか。それともわざと弱みをみせて、ダンジョンの奥へ誘っているのか。


 エネルは薄い胸をそらせる。

 無駄に自信満々である。自信が不足しても困るが、逆に過剰でも困るな。

 しかも過去にダンジョン制覇した実績があるだけに、さらに面倒くさい。



「本気も本気。マジもマジじゃ。戦いとは機がある! 今こそわらわたちがダンジョンへ突入する場面じゃ!!」


 エネルのパーティーはおろか、他の高ランク冒険者たちも賛成の声をあげる。

 どうも長い間待機した挙句に、敵に逃げられて、うっぷんがたまっているようだ。


 なにが戦いの機だと思う。

 エネルが勢いだけで話しているのが丸わかりである。長年付き合っているから雰囲気でわかる。敵に逃げられて意地になっているだけである。



「根拠はあるのですか?」


「根拠!? 冒険者としての勘じゃ!!」


 ほらな。


 だが。

 その一方で、どこかでダンジョンへと突入する決断を下さねばならないのも事実であった。

 大量のゴーレムを作り続けるだけでは、敵に損害を与えられても、決定的な勝ちは得られない。決定的な勝ちはダンジョン内でつける必要がある。


 それが今なのか。

 本当に敵の魂を奪う技術を破壊したのか。地上からでは完全なる確証は得られることができない。

 やはり今こそ決断が必要。


 この世界には理屈だけではどうにもならないこともあるのだった。




「……行くか」


 これもエネルと同様、冒険者としての勘であった。

 俺はもう2度と名もなき科学者たちが地上に出てこないものだと考えていた。地上で戦えば俺たちの方が有利。相手もわかっているはず。


 それでもなお地上に出てきて戦おうしたのは、敵のあせりを感じる。



 もちろんダンジョン内に誘っている可能性もある。絶対の確信は存在しない。理屈ではなく俺の勘がそう告げている。

 

 冒険者とは完全なる確信があって動くものではない。

 未知のダンジョンに挑むのだ。時には確信がなくとも動かなくてならない。むしろ理屈っぽい俺の方が異端なのであった。


 ここはエネルの本能に賭けてみるか。

 何度も絶体絶命の危機を勘で乗り越えてきた。馬鹿にはできない。


 それにこれ以上、時間をかけられないという事情もある。

 他の勢力、例えば軍隊などが来る可能性があるのだ。

 そうなったら俺たちダンジョン攻略への主導権はなくなってしまう。今こそ勝負をかけるべきであった。


 周囲を見渡しても乗り気な冒険者たちが多いようだ。

 殺意に近い雰囲気を冒険者たちはまとい始めている。


「決まったようじゃな! さあ行くぞ!! ダンジョンのボスとの決着をつけに!」


 雄たけびを上げながら、冒険者たちがダンジョンの方へ歩いていく。

 よし。俺たちも続こう。ボスの首は早い者勝ちだ。




 その時、ソフィーナが俺の服を引っ張った。


「どうした? ソフィーナ」


「あの、ゴーレムちゃん(仮)がダンジョンの偵察に行きたいといっているんですが……」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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