第百六十八話 再びの地上戦
その時、大きく地面が揺れた。
爆音がとどろく。音のした方向へと顔を向けると、上空に煙が立ち上っている。
地面が揺れたのは王立騎士団の爆発スキル……か?
明らかに戦いがはじまっている。そう遠くはない。もう一度、大きく地面が揺れる。思わず地面に手をつきそうになるほどの揺れだ。
「な、何が起こっているんですか!?」
小さな勝利への喜びもつかの間。
ソフィーナが困惑している。喜びをかみしめる暇さえなく事態は動き出していた。
「おそらく名もなき科学者たちが再び地上に現れたようだ! エネルたちが戦っている!!」
このダンジョンにおける最後の戦いがはじまった。
俺たち冒険者と名もなき科学者たち、どちらかが死ぬことになるだろう。まだ敵には謎が多い。確実な勝算はまだ存在しない。
ゴーレムの大量生産はあくまで敵の戦力を削ぐためのもの。決定的な勝ちは得られない。勝機は戦いながらみつけるしかない。
だが、勝たねば。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
「で、でも、煙が上がっているのはダンジョンの入り口ではないですよ!?」
ソフィーナが顔を向ける先はダンジョンの入り口がある方向ではなかった。
「ダンジョン内から別の入り口を作って、攻撃してきたのだろうな!」
「な、そんなのありなのですか!?」
「普通のボスではあり得ない行動だ。が、今回の敵は普通ではない!」
敵もエネルたちが待ちかまえていることを理解している。
理解しているからこそ裏をかこうとしてきたのだ。
だが、それは予想済みだ。
名もなき科学者は普通のダンジョンのボスではない。そもそもボスがダンジョンの外に出て戦うという行為が異常なのだ。
前回の戦いで冒険者とボスとの暗黙の了解が存在しないことがわかった。どんな手でも打ってくる相手だと。
そのため前回は不意をつかれた。
今回はそうはいかない。エネルは広い範囲にスキルをはって警戒していた。だからこそ今戦いが起こっているのだ。
「行くぞ! 俺たちも戦いに参加する!!」
「あ、あ、待ってください。服が粘液まみれで……」
「心配するな! ダンジョンへ入ればどうせ汚れる!」
ダンジョンに一歩でも入れば、服を気にしている余裕などなくなる。
以前捜索した、接待のようなダンジョンとはわけが違う。敵も本気で俺たちを殺しに来るだろう。
俺とソフィーナは森の中を走る。後ろからゴーレムちゃん(仮)たちがついてくる。
戦いの場まではそう遠くはない。すぐに戦いの場へと到着するだろう。
ゴーレムを作っている冒険者たちも条件は同じだ。全員が戦いの場へと集まってくる。
走りながら、ソフィーナが聞いてくる。
「ご主人様、私たちは勝てるのでしょうか!?」
「前回の戦いとは状況が違う! 地上で戦うならば俺たちの方が強い! 最初からエネルもいる! 簡単に負けるはずがないさ!」
どんな強者も奇襲を受ければ不利な戦いをせざるを得ない。
だからこそ前回はあれほど苦戦し、エネルの到着も遅れた。
今回の戦いは違う。万全の状態で戦える。エネルのパーティーは経験が豊富だ。準備不足の失敗をするとは思えない。
名もなき科学者たちが本当の力を発揮できるのはダンジョンの中だけだ。
敵が地上に出てきたのならば、地上で倒したい。ダンジョン内で戦うよりもはるかに楽だ。
……ん?
ならばなぜ敵は不利だとわかっている地上に再びきたのか?
エネルたちに勝てるような策を持っているのか。
そうであれば。なおさら急いだほうがいい。策への対応力という点では俺も役に立てるはずだ。
「ソフィーナ! 悪い!」
「わわっ!?」
俺はソフィーナの体を背負う。
こっちの方が速く走れる。基礎体力という点では、俺の方がはるかにソフィーナに勝っている。
走っているうちに、ゴーレムちゃん(仮)たちとも距離が開いていく。基本的にゴーレムも足が遅い。これからの改善するべき課題である。
俺たちが戦いの現場に到着した時、現場は静寂に包まれていた。
雰囲気ですぐにわかった。
すでに戦いは終わったと。それにしては変だな。周囲の木もほとんど倒れていないし、冒険者たちにも 死者はいないようだ。名もなき科学者たちの姿もみえない。
両者が本気で戦えばこんなものではすまないはずだ。地形自体がかわってもおかしくない。
エネルが寝っ転がっている。
ふてくされた表情。この表情を今回の戦いで何度もみてきた。
なにをやっているのだ、この最高ランク冒険者。
服が汚れるのにもかかわらず、地面をゴロゴロ転がる。
そして俺たちをみるなり、大声を上げる。
「つまらーん! 奴らすぐにダンジョン内へ逃げ込みやがった!!」
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