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第十七話 この街最強の冒険者

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで大馬鹿だとはのぉ。街中で襲撃とは、気でも触れたか?」


 狐耳の亜人エネルは笑う。

 見た目はまったく強そうではない。人間で例えると、10歳程度の少女にしかみえないだろう。そのまま道路の隅で一人遊びをしていても違和感がない。


 それにもかかわらず、グェントの足が止まる。

 S級冒険者グェントでも、恐れなければならないほどの強さと格があるのだ。


「エネルゥ……」


 グェントの表情が悔しそうにゆがむ。

 俺一人であれば、絶対にグェントは負けなかっただろう。だからこそ余裕の表情を崩さなかったのだ。ところがエネルがいるとなると話は違う。

 五分五分……どころか、グェントの方が不利になってしまったのだ。レイナと二人がかりでも、エネルには勝てない。



「エネルさん。なぜここに?」


 家に帰る途中で偶然グェントに襲われた。さらにそこに偶然エネルに現れるなどあり得ない。俺の知らないところで何かが起こっている。


「あー。そこの馬鹿が冒険者ギルドで騒動を起こしてな。わらわが追っかけてきたのじゃ」


「騒動……ですか? いったい何を?」


「残念ながら、大したことではないのぉ。ノエルも知っているように、ギルドでは喧嘩など毎日起こっている。いっそもっと重大な罪を犯してくれれば、この場で討伐できものを」


 グェントは極めて傲慢な性格である。

 敵が多い。むしろ敵しかいないといってもいい。俺がいたころは、なんとか他の人間と決定的に対立しないように気を配っていたものだ。

 俺を追放したことで仲裁役がいなくなり、暴走しているのか。



「エネル! お前には関係ないことだ!! さっさと消えろ!」


 グェントがわめく。

 さすがのグェントもエネルは攻撃できない。自分の命すら危うくなる。

 グェントが強気なのは、自分より弱いものに対してだけであり、強いものに対しては臆病になる。本質的にはグェントの性格は小物としかいいようがない。


「そうはいかんのぉ。ノエルはこの街の宝じゃ。お前ごときに殺されるわけにはいかん」


 エネルは前に出て、両手を広げる。

 すきだらけの姿だ。わざとすきを見せて攻撃をさそっているのだった。


「ほれ、手を持った剣を振るってみろ。今ならわらわを倒せるかもしれんぞ?」


「……ぐぐぅ」


 グェントが歯ぎしりをする。

 剣を持った手が細かく震えている。



 まさにエネルの独壇場だった。

 この場にいる全員がエネルに注目している。



 胸がすく思いと同時に、やりすぎではないかという疑念もある。

 街中が戦場になって困るのはエネルも同じ。この街最強といえども、冒険者という枠の中にいるのだから。

 


「はぁ。なぜお前にはわからんのじゃ。今までの特別待遇はノエルがおってのこと。ゴーレム開発に感謝しておったからこそ、皆は持ち上げておったのじゃ」


「な、なんだと!?」


 グェントとレイナの顔から表情が消える。

 

「馬鹿な! 馬鹿な!! でたらめだぁ!!」



 俺にとっても驚きだった。

 確かにグェントの傲慢さにも関わらず、街の住民たちは優しかった。グェントがいばり散らしても笑って許してくれた。

 まさかゴーレム開発の技術が元パーティーにいたころにも助けてくれていたなんて。



「つまり今のお前の待遇こそ、本当の実力だというわけじゃ。少々強いくらいで、いきがられても困る。お主自身はノエルの100分の1も価値がない」


「違う! 違う! 俺は最強だ!! 亜人の分際で、お前もいつか殺してやる!」


 子供のようにグェントはわめき散らす。

 S級冒険者とは思えない情けない姿であった。


「くそっ! くそっ!!」


 狂暴な言葉とは裏腹に、グェントは震えながら剣をしまった。

 この場で戦う気はなくなったようだ。暴走しつつも、本能が危険を察知しているのか。

 エネルと戦う危険もあるが、時間切れでもあった。もうすぐ街の兵士たちが駆けつけてくるだろう。


「行くぞ、レイナ。ノエルの殺すのは次の機会だ」


「……は、はい」


 レイナはほっとしたような表情をしている。俺がパーティーを追放されたころには、レイナはグェントにべったりだった。今は……後悔しているのだろうか。

 とはいえ、俺にレイナを救う義務など存在しないが。



 エネルが小さく舌打ちする。


「お前はダンジョン捜索を失敗した時に、わらわのパーティーをモンスターのおとりにしたじゃろう? あやうく死人が出るところじゃったわい」


「本当か? グェント」


 そうであれば、冒険者の法を破ったことになる。

 一般的な法律ではない。冒険者同士にしか通用しない法だ。その分、破ったのなら厳罰が待っている。

 完全に無法状態では、ダンジョン捜索はできない。


 そもそもグェントがダンジョン捜索を失敗したのが驚きだ。

 ダンジョンの最下層を捜索する実力があるからこそ、俺をパーティーから追放したのではなかったのか。



「……証拠がないだろ。証拠もないのに俺を殺す気かよ」


「ああ、証拠はないのぉ。だからこそ、お前が先に手をだしてくれれば、ありがたかったのじゃが」


 先に手を出せば、グェントを狩る口実ができる。それこそがエネルの狙いだったのか。

 街からの報酬も貰えて、一石二鳥だ。ダンジョンでグェントと戦っても誰も褒めてはくれない。エネルはこの場に来る前から、完全にグェントを殺す気だった。


 

 気がついた。

 いつの間にか観戦していた住民たちが、エネルのパーティーに入れ替わっている。


 もはやグェントが勝つ可能性はなかった。

 この場から逃げるしか、打てる手は残されていない。



 グェントは憎悪を込めた目で俺をにらんでいる。

 少しずつ後ろへ下がっていく。

 元パーティーだったからわかる。胸の中は屈辱と憎しみであふれている。自分のことを負け犬だと感じているに違いない。


 逃げながら、大声で叫ぶ。


「ノエル!! 絶対にお前だけは殺してやるからな! おぼえていろ!!」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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