第百六十四話 ゴーレム大量生産 九日目後半
冒険者たちのゴーレム作りに関しては、もう心配はいらない。
もう教えることは何もない。仮に俺がいなくなっても、大量のゴーレムが作られるだろう。名もなき科学者の魂を奪う技術が破壊されるまで、ゴーレムを送り込み続けるだけだ。
それよりも問題はソフィーナだ。
失敗を恐れない。言葉にすると単純するだが、実践するとなると難しい。心とは自由にはならないものだ。
ここにいる冒険者たちとは人生経験が違いすぎる。あるいはソフィーナがやらなければならない使命は冒険者にとっても苦しいものかもしれない。
反省する。
ソフィーナの身を守るための策を作っただけでは不足だった。
精神的な助けも必要だったのだ。特にソフィーナは真面目で、臆病である。1人で困難に立ち向かえるような性格をしていない。
それでも。同時に。
ソフィーナにしかできないことであるのも確かであった。
俺にできるのはあくまで背中を押すだけ。結局は自分の力で乗り越えなければならない。超レアスキルを持つものの宿命であった。
あるいはそう、俺は神に選ばれたものの気持ちは理解しきれないのかもしれない。俺はスキルも頭脳も並である。たぶん死ぬまで。
「ソフィーナ、君は……」
「あ、あ、私は大丈夫です! ちゃんとスキルを使って王立騎士団の人たちを助けますから!!」
真っ青な顔で首を振るソフィーナ。
どう考えても大丈夫ではない。このままではダンジョンに入る前に倒れそうだ。
どうしたらスキルを上手く使えるのか。どうしたら魂を奪い返せるのか。
俺にはわからない。ソフィーナ自身の感覚を信じるしかないのだ。
だが、それでも少しぐらいは精神的に楽にしてやることはできるだろう。
「いいことを教えてやろう。人は誰でも失敗する。失敗することでしか、成長することはできない」
はじめから成功だけをしている人間は存在しない。
たとえどんな天才であっても……だ。ましてやソフィーナは天才ではない。精神は普通の心優しい少女そのものである。
ソフィーナはこれから多くの失敗をするだろう。
失敗をして、少しずつ成長してくしかないのだ。
「でも、私が失敗したら、王立騎士団の人たちは……」
「それでも乗り越えていかなければならない。挑戦することをあきらめるな。俺だって致命的な失敗をしたことがある。失敗しても生きていれば、必ず次の機会がある」
「ご、ご主人様でも失敗したことがあるのですか?」
ソフィーナからみれば、俺は完璧な存在に感じるだろう。
奴隷だったソフィーナを助け出し、学園でも勝利をおさめた。今も多くの冒険者たちにゴーレム作りを教えている。
だが、実際はそうではない。
数々の失敗を経験したからこそ、今の俺がいる。
「あるに決まっている。冒険者を助けられなかったこともある。あるいは他のパーティーを見捨てなければ、自分たちの方が助からなかった時もあった。なによりも……」
「なによりも?」
「ずっと一緒に戦ってきたパーティーに捨てられたことさえもある」
思い出すだけで、胸が痛くなるような記憶ばかりである。
それでも冒険者なら誰でもこの手の痛い思いはしているに違いない。高ランク冒険者でもだ。高ランクといえども最初は低ランクであったはずなのだ。
冒険者とは自由だ。
だが自由には代償がともなう。
「ご、ご主人様でも捨てられるのですか!?」
「ああ、それどころか逆恨みされて。結局、元パーティー同士で戦うことになった」
一応は……勝った。
勝ったからこそ生きているのだが、むなしい勝利であった。これまでの人生でもっとも無意味な勝利。
元パーティーと戦うなど2度としたくない体験である。
俺はソフィーナの頭に手を乗せる。
「だから全力で取り組むのは当然だが、押しつぶされることはない。人間にはどうにもならないこともあるのだから」
全てが自分のせいだと考えていては自分が潰れてしまう。
ある程度は責任を感じることは大切だが、それでもどこかで割り切らなければならない。それも年をとれば自然に身に付くはずだ。
ソフィーナに足りないのは経験だけだ。
「でも、でもやっぱり私には自信がありません……」
悪くない。弱音を吐けるようになっただけ成長である。
周囲からのアドバイスを求めるのも強さの1つである。
「ふむ、ならば自信をつける特訓が必要だな」
はじめて冒険者になった人間が必ずする儀式がある。
それを試してみようか。情けないが、俺は冒険者以外の世界はあまり知らない。ちょっと荒っぽいが我慢してもらおう。
「君には最弱モンスター、スライムを倒してもらおうか。ゴーレムちゃん(仮)の力も借りず、自分自身の力だけで戦うのだ」
「……な!?」
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