第百五十八話 ゴーレム大量生産 四日目前半
昨日からソフィーナに元気がない。
ずっと下を向いて黙り込んでいる。
元気がないというよりも使命に悩んでいるようだった。
無理もない。
他人の命が自分の行動によって左右されるのだ、悩まないはずがない。
だが。それでも。
名もなき科学者から魂を奪い返せるのはソフィーナだけ。
他の冒険者たちは魂を認識すらできない。認識できないものを取り返すのは不可能だ。
一番戦闘能力のないソフィーナが一番重要な役目をすることなるとは。なんとも皮肉な話ではある。
しかも、誰にも手伝うことできない。誰にも方法を教えることもできない。自分自身でやり方をみつけなければならない。
小さな肩に背負うには重すぎる使命なのかもしれない。
「まあ、仮に失敗しても王立騎士団が死ぬだけだ。彼らが魂を奪われたのは、彼ら自身が弱かったから。君が失敗の責任を感じることはない」
魂を奪うことは通常の攻撃ではない。
王立騎士団にとっては、あるいは誰にとっても想定外だったはずだ。
しかし、それでも敗北は敗北。戦いにおいては卑怯などという言葉は存在しない。ダンジョン内では何が起こってもおかしくはないのだ。
究極的な話をすれば、備えをしなかった王立騎士団が悪いのだ。
ダンジョン攻略の失敗は彼ら自身に責任がある。
冒険者ギルドにとって王立騎士団は宝。
一部の冒険者たちにとっては尊敬の対象。
しかしどちらでもない俺たちにとっては、ただの最高ランク冒険者パーティーにすぎない。
今日もこの国のどこかのダンジョン内で冒険者が死んでいる。
残酷なようだが、それと変わりはしないのだ。
「いえ、絶対に助け出してみせます!」
ソフィーナの目には決意の色が写っている。
これだけは絶対に譲れないという信念の色。
「赤の他人だぞ?」
「関係ありません! 私の力で助けられる人がいるなら、助けたいです!! それがご主人様から教わったことです!」
……。
そんなことは教えたおぼえがないのだが。
まあいい。元気がないよりもましである。せっかくの決意に水を差すこともない。
なんとなく、ソフィーナは大丈夫な気がする。
これからも悩み苦しみ、様々な試練がソフィーナを襲うに違いない。
それでもソフィーナは乗り越えてくだろう。それだけの意思の力をソフィーナは持っている。どこまでも真っすぐなソフィーナを俺はまぶしく感じる。
ソフィーナにはソフィーナの戦いがある。
それと同時に俺にも俺なりの戦いがあるのだった。
「ふざけるなよ!!」
冒険者たちの怒鳴り声が響いている。
またしてもゴーレム作りに問題が発生していた。
俺たちはゴーレムの形をつくる工程に呼ばれている。
「てめぇ!! 俺のゴーレムに文句をつけようってのか!」
「そうだ! お前のゴーレムはつまらん! 俺のゴーレムの方がずっと素晴らしい!!」
冒険者同士が喧嘩している。
しかもゴーレム作りに関して……だ。
冒険者自体が喧嘩するのは珍しくはないが、今はまずい。ゴーレム作りの効率が落ちてしまう。しかも喧嘩は喧嘩を呼ぶ可能性がある。
……いや、現にそうなりつつある。あちこちで冒険者同士の衝突がはじまっている。
「ではどちらのゴーレムが強いか、勝負しようじゃないか!」
「いいわよ! 受けて立つわ!!」
完全にゴーレム作りの情熱が空回りしている。
俺がやる気を引き出しすぎた。あるいはやる気を向ける方を間違っている。お前らはダンジョンのことを忘れてしまったのか。
冒険者は荒くれで、熱くなりやすい。
ゴーレム作りに熱中すれば衝突するのは必然だった。
「俺たちは王立騎士団を助けるためにゴーレムを作っているはずだ。味方同士で喧嘩をしている暇はないはずだぞ」
反応がない。喧嘩は止まらない。
誰も俺の正論を聞いてはいないようだ。
そもそも俺がこの場にいることに気がついているのかさえ怪しい。
「ふむぅ。また対策が必要だな」
冒険者たちのやる気を引き出すことには成功した。
次は過熱しすぎたやる気を適度にさますことが必要となる。
ここには全体の指揮をする人間が存在しない。
だから俺がその役目をやるしかない。慣れないことばかりである。自分が直接戦った方が何十倍も楽であった。これから人をまとめるという新しい技術を獲得していかなければならない。
面倒なことばかりだが、冒険者たちの途方もないパワーを集結させれば、並みの職人よりも大量のゴーレムが作れると俺は信じている。
現にこの場はエネルギーに満ちている。何かが生まれそうな気配がある。
活気を維持したまま、喧嘩を止める。
求められているのはそれだ。
俺は腕を組んで考え込む。
ソフィーナも俺も悩みはつきないな。
さて、どうするべきか。
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