第百五十六話 ゴーレム大量生産 三日目前半
昨日、偉そうに演説をした俺だが、本当は別に偉くも何ともない。
S級冒険者。ただ、それだけだ。
他の冒険者たちと違うところは、今回の戦略を考えついた人間なだけ。地位も名誉もない。
冒険者は平等。
少なくとも、俺はそう信じているのだ。
偉くはないし、ゴーレム作りを冒険者たちに任せた以上、俺自身も働かねばならない。
指示を出すだけ出して、何もしないのは性に合わない。俺だって名もなき科学者たちを倒したい。早い者勝ちの競争を降りたつもりはない。
ゴーレム大量生産とは別に戦略を用意しなければなるまい。いや、今は目の前の労働に集中しよう。
「スキル発動「土操作」」
俺は山の斜面の土を操作する。
木や草を払いながら、土の塊が持ち上がる。そのまま皆がいる場所へと運ぶ。
この土がゴーレムの原料となる。大量生産が前提なため、土を選んでいる余裕はない。
ひたすら山の斜面を削る。それが俺の仕事だ。
俺のスキル「土操作」は戦闘では今一つだが、こういう時には非常に役に立つ。家を建てたり、土を運ぶ時などだ。
冒険者以外の職業につくように勧められたのは一度や二度ではない。
「ほぉ、素晴らしい。これなら大量の土が削り出せそうだ」
「ほんと、ほんと。これなら少ない人数でもなんとかなりそうだわ」
俺の働きぶりに、周囲の冒険者たちも賞賛してくれる。
冒険者同士とは思えないほどのなごやかな雰囲気が流れている。
もちろん他の冒険者たちもスキルを使って、土を運んでいる。が、俺が一番効率いい。我ながら無駄な才能を持っているな。
ふぅ。
人とは一番欲しい才能は得られないものなのだ。
俺がこの場所で働いているのは、単に人手不足だからである。
ゴーレムを作るための3工程。土の調達、人形の製作、魔法陣の書き込み。
冒険者たちのほとんどが人形の政策と魔法陣の書き込みの工程へと行ってしまった。まあ、土の調達は地味だからしかたがない。
土の調達には新しいゴーレムを作るための工夫の余地が少ないからな。
それでもたった2日、数十人の冒険者だけで、遠目からでもわかるくらいには山が削れていた。
例えスキルとしては二流でも、威力はすさまじい。スキルの便利さが一目で理解できるだろう。現代の生活はスキルが中心となって回っている。
たまには地道に働くのも悪くはないが、少々疲れた。
俺の「土操作」スキルは魔力の消費は多くはないが、朝から使い続けていれば魔力は消費されていく。
あまり長時間は無理をできない。倒れてしまったら、元も子もないからな。
名もなき科学者が何らかの策を打ってくる可能性もある。ある程度の魔力は残しておくべきだ。
まだ太陽は明るいが、今日はこの辺でやめておくべきだろう。
「ご主人様。お茶を持ってきました。どうぞ!」
「ああ、ありがとうソフィーナ。助かるよ」
ソフィーナの持ってきたお茶を飲む。
美味い。生き返ったような気分になる。
ソフィーナのスキルはこの場の誰よりも強力である。
だが使うことはできない。魂に関するスキルは禁忌で、下手をすれば冒険者たちが敵に回る可能性すらあるからだ。
自分で自分を守れる力がつくまでは、スキルを隠しておかなければならないのだ。
そのかわりお茶を運んでくれたり、食事作りを手伝ったり、自分にできることは精一杯してくれている。
他の工程ならばソフィーナも仕事ができるはずだが、どうしてもソフィーナが俺のそばを離れようとしないのだった。
「ソフィーナちゃん! 俺にもお茶をちょうだい」
「俺も俺も!!」
ああ、そうだ。もう1つだけいい忘れたことがあった。
ソフィーナはあっという間に冒険者たちの人気者になったことだ。
冒険者同士とは思えないほどに、なごやかな雰囲気はソフィーナの影響が大きい。
当然といえば当然か。
この場所には少女は存在しない。
少し前にはいたが皆戦いを恐れて避難してしまった。
可愛い女の子が一生懸命働いていたら、誰でも目をかけてくれるに決まっている。
たとえそれが荒くれものの冒険者であろうとも。
「はい! わかりました!!」
元気よく1人1人にお茶を配っていくソフィーナ。
この工程の冒険者たちがきちんと働いているのはソフィーナのおかげである。1人の可憐な少女が加わるだけでこうも変わるか。
もしかしたら。
演説するのは俺ではなく、ソフィーナの方が良かったのかもしれないな。
猫耳の少女の導きで冒険者たちが団結し、ダンジョンのボスを倒す。
そういう筋書きが……ないな。
やはり朝からスキルを使って、俺は少々疲れているようだ。
魔力が少なくなると思考も鈍ってくる。当たり前だが、つい忘れがちになる。ダンジョンに突入した時にも気をつけねばならない。
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