第百五十四話 ゴーレム大量生産 二日目前半
「な、なんですかこれは!?」
ソフィーナが驚いている。
それもそのはず、目の前には出来そこないのゴーレムが大量に並んでいる。
あるものは腕が欠け、あるものは足を引きずっている。
それどころか腕が異様に大きかったり、そもそも人型ですらないものもいる。人型ではないものはゴーレムとさえ呼べないだろう。
昨日、冒険者たちが作ったゴーレムである。
まともに戦えるのは100体に1体もいないに違いない。ちゃんと俺たちの命令を聞くか、そもそも動くかどうかすら怪しい。
「ゴーレム作りがはじめてとはいえ、ちょっとひどすぎるな」
ゴーレムの作り方は簡単だし、きちんと作り方も教えた。
決まった形のゴーレムを作るだけである。知識的には問題ないはずだ。冒険者の能力的な問題でもない。つまりは意識の問題。
「正直、こんなことになる気はしていたけどな」
あまりにも冒険者たちはバラバラであった。
協力するという意識が薄すぎる。3つの工程同士で協力すること難しいのだ。
そもそもゴーレムに対して愛着がまったくない。ゴーレム作りが面白いとは感じていない。
人は苦痛を感じながらよい仕事はできない。
特に冒険者という人種は。
「いくらなんでもひどすぎます! 抗議に行きましょう!!」
確かにこの出来では名もなき冒険者に勝つのは不可能だろう。
最弱のモンスター、スライムにさえ勝てないに違いない。……だが。
「待て、ソフィーナ」
「な、なんで止めるんですか? このままでは王立騎士団の人たちを助けられませんよ!?」
「俺は冒険者だ。だから冒険者たちの気持ちがわかる」
このまま俺たちが抗議に行ったとして、はたして素直に聞き入れるだろうか。
絶対に無理だ。反発されるに決まっている。そうなったら俺たちと冒険者たちの間に決定的な壁が生まれる。そうなったら二度と俺たちのいうことなど聞いてくれない。
俺たちには冒険者としての格も実績もないのだから。
何よりも上からの押しつけは、失敗した冒険者ギルドと同じだ。
「その前にもっと冒険者たちに合ったゴーレム作りの方法を考えなければな」
「冒険者……に合った環境ってどういうことですか?」
「今はまだ思いつかないが、1つだけ入れなければならない要素はある。自由だ」
そう。
自由こそが冒険者の鉄則。
今の状態はゴーレム作りを強制されているからこそ、彼らは面白く感じないのだ。
決まった形のゴーレムを作り続けることに自由はそんざいしない。
名もなき科学者との激しい戦いの中で、いや、戦いの中だからこそやりたいことをやらせるのが大事なのだった。
「自由とゴーレム作りはだいぶ違う気がするのですが。私にはどうすればいいのかわかりません……」
ソフィーナ。
俺もそう思うが、無理を通さないとこの苦境は抜け出せない。
どこかに正解があるはずだ。
今回の目標は同じゴーレムを大量生産すること。それだけは譲れない。
せめてゴーレム開発だったのならば、まだ自由が……。
ん?
待てよ。
よくみるとこの出来そこないのゴーレム、単に作り方を失敗しただけではない。
俺が教えなかったはずの魔法陣や体型が試されている。そもそも人型でないものすらいるのだ。作り方を間違えたのではない。
あえて作り方を外してきたのだ。冒険者自身が作りたいゴーレムを作るために。
見方が変われば、評価も変わる。
新しいゴーレムへの試作品だと思えば、このゴーレムたちも悪くはない。
失敗を繰り返せば、そのうち戦えるゴーレムが完成するだろう。
つまり冒険者たちは決まった形式のゴーレムを作るのではなく、自由に開発したいのか。
……なんだ、笑えてくるな。俺と同じか。
「ご主人様、何がおかしいのですか?」
ソフィーナが首をかしげる。
困っている時に急に笑い出したら変に思うに決まっている。
「冒険者たちをやる気にさせる解決策がみつかった。笑わずにはいられないよ」
「え!? もう思いついたんですか!?」
「ああ。答えは実に単純だ。冒険者たちに好き勝手にやらせればいい」
決まった形のゴーレムなど強制せずに、各自の好きなゴーレムを作ればいい。
もともとゴーレムの形など決まっていない。俺流の作り方を押しつけただけだ。人の数だけゴーレムの形はある。目指すべきゴーレムの形も人によって異なる。
それこそが冒険者に合ったゴーレムの作り方。
やはり冒険者ギルドは間違っていた。冒険者を管理するなど不可能なのだ。管理されるのが嫌いだからこそ、冒険者になっているのだ。
俺は不格好なゴーレムたちを指さす。
なんだか、これはこれで味があるような気がしてきた。
「これを全部ダンジョンにぶち込んでやる。戦えずともダンジョンの場所を取るくらいはできるだろう。ダンジョンは狭いからな」
戦いというより嫌がらせに近いが、少しは意味もあるはずだ。
それにいつまでも不格好ではない。
ああ。最終的にはどんなゴーレムが出てくるのか。
楽しみになってきた。
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