第百五十話 最高ランク冒険者の普通のスキル
「おうおう、驚いておるのぉ。そういえばノエルとは長い付き合いじゃが、わらわのスキルをみせたのは初めてじゃったかな?」
声と共に、エネルの姿が現れる。
体が透き通っているようにみえる。はっきりしているのは声だけだ。
存在感が異常に希薄である。通常の体さばきでどうにかなるレベルではない。スキルの力か。
「ニヒヒッ。わらわのスキルは「気配遮断」。他の人間から認知されなくなるのじゃ」
嘘だ、と直感的に感じた。
「気配遮断」スキルは俺の「土操作」以上に、ありふれたスキルだ。最高ランク冒険者が持つようなスキルではない。
たかが相手から姿を隠すスキルでは、ダンジョンのボスは倒せない。エネルはスキルに関して嘘をついているか、あるいはまだ切り札を持っている。
ただ、そんなことはどうでもいい。
パーティーのメンバーでもないかぎり、スキルを隠すのは当たり前のことだ。今は親しくしていても本質的にはダンジョン制覇への競争相手。責めるようなことではない。
本当の問題は……。
「なぜ俺たちの後をつけてきた?」
この倉庫でソフィーナと話すことは誰にも予想できなかったはずだ。
となると、会議が終わってから帰るとみせかけて、俺たちのあとをつけてきたということになる。能力を疑っているわけではない。動機の問題だ。
エネルがソフィーナのスキルを疑う場面などなかったはずだが。
「なぜ? そりゃ面白そうだったからに決まっているからじゃろ?」
なんだそれは。
面白そうだから、俺たちのあとをつけてきた?
最高ランクの冒険者がする行動とは思えんぞ。
エネルの行動は読めない。
本能だけで生きているような亜人である。困ったことに、理屈で動くより、本能で動く方がずっと強く賢く行動できるのだった。
「ノエル。お主は頭もいいし、発想も卓越しておるが、本当に自分に関しては無知じゃのぉ」
半透明のまま、エネルはにっと笑う。
自分に関することに無知だと。
意味が解らん。俺のどこをみていたら、あとを追いかけるという選択肢が取る気になるのか。
「まあ、そんなところもわらわからすれば可愛いのじゃがな」
そっきまで偉そうにソフィーナに説教していたのに、次の瞬間には子ども扱いとは面子が形無しである。
別に誇るような面子もないが、かなり情けない状況になっている。
もっとも1000年を生きるエネルである。子供あつかいされるもしかたがない。
人生とは相対的なもの。どんなものにも上には上がいる。
しかし、非常に困ったな。
ソフィーナのスキルをエネルに知られてしまった。
「エネル。ソフィーナのスキルに関しては……」
「ああ、ああ。わかっておる。誰にもいわんよ。わらわとて小娘が不幸になるのはみたくはないからのぉ」
ペロリと唇をなめる。
一瞬だけ、年相応の色気が顔を出す。
「ただ、さっきもいった通り、いずれは小娘のスキルと戦いものじゃ。成長した時、どれほどの強さになるか楽しみじゃのぉ。予約していてくれ」
エネルは嘘をつかない。
嘘をつく必要がないからだ。約束も決して破らない。
変なところに信頼がある。だが。
「ソフィーナは戦いませんよ。冒険者ではないので」
そもそもソフィーナは戦いを望まない。
この場にいるのは俺に付き合っているからにすぎない。
「なんじゃ、つまらんのぉ」
俺たちはエネルに弱みを握られたのか。
いや、逆に考えれば俺が死んだとき、ソフィーナに頼る先ができたともいえる。
俺はエネルの人間性は信頼している。行動は無茶苦茶だが、誰がなんといおうと俺は信頼している。
だからこそ100人をこえるパーティーを率いることができるのだ。
「まあ、いいわい。ノエルも含めて成長に期待しておく」
エネルの体が薄くなっていく。
この場から去る気なのだ。本当に何しに来たのかわからない。
嵐のような現れ方と、去り方であった。
「今回はダンジョンのボスで我慢してやるかのぉ。ノエル、有効な策を頼むぞ」
簡単にいってくれるな。
敵が魂を奪うことはわかった。
だが、対策はまだみえない。そもそも魂に関する知識がほとんどない。ゆえに対策が思いつかない。
わかっていることは、魂を持つものはダンジョンには入れないということだけだ。
……。
いや、待てよ。
逆に考えれば、魂を持たないものならばダンジョンに入れるということだ。
つまりゴーレムならば……。
その瞬間。
名もなき科学者たちを倒す策を思いついていた。
「ご主人様。私たちはこれからどうすればいいのでしょうか?」
心配そうにソフィーナが聞いてくる。
ソフィーナからみれば、俺たちはどん底にいるように感じるのだろう。
「安心しろ。ダンジョンのボスを倒すための策を思いついた」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、魂を奪う方法の対策はない。俺たちはあまりにも魂についての知識がないからな。ならば、上から力づくで叩き潰してやる」
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




