第百四十九話 信念のお話
「ど、どうしてですか!? 納得できません! だって私がスキルを使えば、あらゆる情報が手に入りますよね!?」
実際、極めて有効な方法ではあった。
ソフィーナのスキル「魂複製レベル1」は自らの魂を人形に分け与えることができる。魂を失った王立騎士団の体は人形と同じ。ソフィーナの魂を複製して与えることができる。
スキルに関しては、まだまだわかっていないことが多いが、記憶を取り出せる可能性は十分にあった。
さらに王立騎士団のスキルが使えれば、大きな戦力になる。結界スキルの威力は身をもって証明ずみである。
結果だけ考えれば、まったく最上の方法ではある。
だが、俺はソフィーナの方法は採用しない。
「俺たちは結果だけを求めているのはないからだ」
「け、結果だけ!?」
「ここでソフィーナのスキル使ってしまったら。敵と同じことをしていると思わないか?」
冒険者の命は軽く、暴力の専門家でもある。
ただの犯罪者に転落する冒険者も多い。犯罪はダンジョンを捜索するよりもずっと稼げる。夢を失った冒険者は暴力を売りにして食べていくしかない。
「で、でも誰にも知られずにやれば問題がないのは……」
「自分自身がみているぞ」
「……っ!?」
妥協は自分を腐らせる。
強いスキルを持つものは、常にスキルを悪用する誘惑にかられる。普通の冒険者よりも転落する危険が高いのだ。
ましてやソフィーナは未熟。これからどう成長するかは、選択の1つ1つにかかっている。
転落しないためには、自分の中の信念が確率されていなければならない。
効率を重視して、間違った行為をくり返せば信念が傷ついてしまう。冒険者としての誇りなど持ちようがなくなってしまうだろう。
人がみていない時の行為こそが大切なのだった。
「ソフィーナ。君のスキルは強力極まるものだ。よく使えば、多くの人間を助けられる。悪用すれば、天災に等しい被害を世界に与えるだろうな」
特にソフィーナの場合は世界の命運がかかっているといっても過言ではない。
並みの冒険者ならば、仮に外道に落ちても被害は少なくてすむ。高ランク冒険者でも1人で殺せる人数はたかがしれている。
ソフィーナにはより高い意識が必要になる。あるいは俺は戦いの技術や世界の知識ではなく、よい生き方を教えるためにソフィーナの隣にいるのかもしれない。
「あ、あ、すいません。私は……人形にされた人の考えてはいませんでした。ただ、役に立つという視点でしかみることができなくて。」
「いや、スキルを持った人間は、1度くらい悪用しようと考えるものさ。決してソフィーナが特別ではないよ」
冒険者だけではない、スキルを持った人間は勘違いしがちだ。
調子に乗ったところを誰かに叩き潰されて成長する。それが人生というものだ。
俺にも経験がある。俺とソフィーナの違い。
単に生きている時間の長さでしかない。
「俺は君を信じているよ。失敗はしても、最後には正しい道を進めると」
だからこそ、ギルドにも教会にも引き渡さずにパーティーを組んでいるのだ。
自分の人生は自分で決めるべき。少なくとも決断する機会は与えるべき、冒険者としての俺の信念である。
「あ、ありがとうございます」
ソフィーナが泣きそうになっている。
これでまた1つソフィーナは精神的に成長するだろう。戦いの強さも精神的な強さも、両方そろっていないと、誇りある人生は送れない。
「それにソフィーナのスキルが王立騎士団に有効なのがわかったからな。他の王立騎士団に対する戦い方がみえてきた。ソフィーナが触れれば相手を無力化できる」
「あははっ。他の王立騎士団にはスキルを使ってもいいんですね」
ソフィーナが泣き笑いの表情になる。
手で涙をふいている。
「力づくで捕まえるのはエネルぐらいにしか不可能だからな。救出が目的ならば、生きたまま捕らえないといけない。」
2つに違いはあるのだろうか。
無抵抗な人間と戦った結果という違いはあるし、戦った場合はあくまでも無力化するのが目的である。
が、それはあくまでも俺の信念に照らしたものにすぎない。絶対の基準など存在しない。
「君も君なりの信念を育てていってくれ。正解はない。俺の信念が正しいとは限らない。むしろ冒険者寄りだからな、世間一般の基準とはズレているに違いない」
「はい!」
「ほほぉ。ノエルはいいこというのぉ。わらわも感動してしまったわい」
突然にエネルの声が部屋に響いた。
周囲を見渡すがエネルの姿はない。
馬鹿な。誰もいないことを確認したはずだ。会話をはじめてから部屋に入ってきた人間もいない。曲がりなりにも俺はS級冒険者だ。
いくらエネルが最高ランク冒険者であっても、まったく気配を感じないなんてことはありえない。
「それにしてもこの小娘、とんでもないスキルを持っているようじゃのぉ。どうじゃ? わらわと戦ってみぬか?」
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