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第十五話 元パーティーとの再会

 街の喧騒の中、元パーティーのグェントとレイナが立ちふさがっている。

 周囲の通行人たちは俺たちを迷惑そうにながめては、追い越していく。今日も街は平和であった。


 俺たち三人以外は。


 元パーティーとの間に流れる空気は、平和などとは対極の位置にある。



「ノエルゥ。二日ぶりだな。どうも活躍しているらしいじゃないか、元パーティーのリーダーとして嬉しいぜ」


 グェントは笑っているが、目は憎しみに燃えている。

 二日前、俺を追放した時よりも、全体的に落ちぶれた印象を受ける。理由はわからない。二日の間に何があったのだろうか。


 俺は、思わず聞いた。



「お前……俺を殺す気か?」


 

 グェントの体から、殺意がにじみ出ていた。

 この場で殺し合いを始めかねないほどに強い。一般人にはわからないかもしれないが、俺にはわかる。毎日冒険者として、モンスターと命のやり取りをしていたのだ。殺意には敏感にならざるを得ない。



 ……正気か?

 街の中心で殺し合いを始めたら、大惨事が起きる。数百人が巻き添えになるだろう。俺の力では、戦うこと自体はできても、被害を止めることはできない。


 そもそもグェントが俺を殺そうとする理由が思い当たらない。

 パーティーにいたころは雑用係として、きちんと働いてきた。手を抜いたことなど一度もない。自分でも褒めてやりたいくらいである。

 追放されてからは一度もグェントには会っていない。


 俺が恨まれることなど、一切ないはずだった。

 戦いの実力は十分。いつだってグェントは好き勝手やってきたのだから。


 

「ハッハッハ。俺がお前を殺す? 冗談はよしてくれよ」


 グェントは芝居がかった仕草で両手を掲げる。

 あいかわらず表情は笑っているが、目は笑っていない。右手は剣をつかんでいる。いつでも剣を抜けるだろう。剣を抜いた瞬間から、戦いがはじまる。


 ゆえに、俺も戦いの態勢を解けない。

 グェントの言葉を信頼するのは不可能である。理不尽にパーティーを追放されたのだ。



「では、何の用があって俺の前に来た? ダンジョンの最下層を捜索しているのではなかったのか?」


 俺が追放されたのは、元パーティーが最下層に挑戦するためだ。そのために実力不足として捨てられた。

 今さら俺に用などないはずだ。二度と会うこともないと思っていた。



「それがだな。実は後悔しているんだよ、お前をパーティーから追放したことを」


「後悔……だと!?」


「ああ。お前がいないとダンジョン捜索がうまくいかなくてなぁ。だからまた一緒にパーティーを組もうと、こうして来たわけだ。特別に頭も下げてやる」


 言葉では頭を下げると言いつつも、態度はこちらを見下したものである。

 とてもじゃないが、信頼できない。なによりも殺意をまき散らしながら、パーティー加入を勧めるなど正気を疑わざるを得ない。


 ダンジョンの中に法はない。

 仮に冒険者が仲間を殺しても、誰にも見つからなければ罪に問われないのだ。

 街中で殺すのが面倒だから、もう一度パーティーに加入させて、ダンジョン内で殺す。そうとしか考えられない。



 この二日間、色々な人間から勧誘の申し出を受けてきた。

 どれもが誠意を持って対応してくれた。俺の技術を買ってくれて、大金や夢を示してくれた。


 それに比べて、グェントの誘い方はどうだろう。

 あまりに雑。俺のことを雑魚だと思っているのがはっきりとわかるのだった。

 今思えば、元パーティーでの待遇はひどいものだった。追放されてはじめて理解できた、自分がいかに不遇にあつかわれていたことを。



「俺たちは幼なじみだろ? ガキのころから一緒に剣を振ってきたじゃないか。これまでのことは水に流して、もう一度パーティーを組もうぜ」



 はっきりとわかった。

 パーティーに戻っても俺の未来はない。



「断る」



 どれほど功績をあげようが、グェントは俺を認めることはないだろう。

 戦闘が弱い、それ以外の評価はない。ゴーレム開発の腕など意味をなさない。



 グェントの顔から下品な笑みが消える。

 まるで仮面がはがれたようだった。自分勝手で粗暴な本性がむき出しになっている。かつて駆け出し冒険者だったころと比べて、あまりにも醜い姿であった。



「てめぇ!! 下手に出ればいい気になりやがって! ノエルの分際で俺に逆らうな!!」


「……お前に追放されて目がさめた。そのことだけは感謝しておく」


 俺の中でグェントは過去のものになりつつある。

 道は分かれた。お互いに違う道でがんばるべきなのだ。



「ねぇねぇ。もう一度やり直そうよ。私たち仲間じゃない?」


 レイナがグェントの前に立って、俺を説得する。

 表情には焦りが混じっている。さすがにレイナもこの場での戦いはまずいとわかっているのだろう。先に手を出した方は、冒険者をクビになるだけではすまない。捕まったら、間違いなく死刑になる。


「ほら、私たちもノエルの待遇を改めるから。少しだけなら、取り分を増やしてもいいよ? ね? グェント?」


 俺は内心でため息をついた。

 少しだけ……か。仮にダンジョン内で殺されずとも、S級冒険者にもかかわらず、貧乏な生活に逆戻りになるのか。馬鹿にされながら、雑用係に戻るのか。



 絶対にごめんだ。



 俺は二日間で少しは成長した。

 元のパーティーの二人はまったく変わっていない。



 答えなど最初から決まっていた。



「もう遅い」



 何を言われようと、元パーティーに戻る気はない。

 俺は俺自身を評価してくれるところで働くべきなのだ。


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どうかよろしくお願いします。

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