第百四十六話 独壇場
わらわは新しいダンジョンに来てから、さんざんに我慢してきた。
ダンジョンに入れても、ボスと戦えないんじゃ意味ないじゃろ。とても最高ランク冒険者への敬意を感じられん。
だが。
これまでの我慢を一気に晴らす機会がついに来た。
クヒヒッ。ようやく楽しくなってきわい。
「ノエル。わらわに任せておけ。お主が策を出しやすくなるように手伝ってやる」
「……何をするつもりですか?」
ノエルの顔が引きつっておる。
さすがに長い付き合いだけのことはあるのぉ。クククッ、いい表情じゃ。
わらわも冒険者であるからには、理由もなく無茶なことはできない。
じゃが、逆にいえば理由がありさえすれば、無茶なこともできるというわけじゃ。
わらわのみたところ、この会議の出席者は阿呆ばかり。
冒険者は馬鹿でも仕方がないが、ギルド幹部が馬鹿では救いがない。ギルドの存在している意味がないじゃろうが。まったく。
こんな連中にボスを倒すための策を考えつくなど不可能。
全てをノエルにまかせた方がずっとうまくいく。この男は自分の才能を過小評価している。もっとガンガン前に出るべきなのに。
いずれは冒険者全体を背負うまでに成長するかもしれん。
わらわ?
わらわは頭を使うことはしない。面倒くさいからじゃ。
楽しいことだけをする。それがわらわの生き方であり、考えることは得意な連中がやればいいのじゃ。
わらわは立ち上がり、馬鹿騒ぎをしている連中を見渡す。
「お主ら、いい加減にするのじゃ!!」
手元にあった椅子を蹴り上げる。
ガシャン!! 盛大な音を立てて天井へぶつかる。
会場にいた連中が驚いた表情でわらわを見上げている。
あー、気持ちがいい。胸がスッとするわい。
怒っている表情を作っているが、内心はそれほど怒っていはいない。
むしろ笑い出したいくらいじゃ。女は役者。隣にいる鈍感な男もよく覚えておくとよいぞ。
「なぜいつまでも無駄な会議をしているのじゃ! お主らではボスに勝つのは不可能じゃ!!」
これは決してわらわのわがままではない。
ダンジョンのボスを倒すために必要なことなのじゃ。
「い、いくら最高ランク冒険者でも、いっていいことと悪いことがあるのでは?」
ギルド幹部が反論する。
無能のくせにプライドだけは一人前。
クヒヒッ。思い通りの展開じゃ。
「事実を話して何が悪い! この局面を打開できるのは学園の人間位じゃろうな! ここにいるギルド幹部には絶対に無理じゃ!!」
「学園の人間はすでに帰ったと聞くぞ!! しょせんは学者。臆病ものだ!」
……あっ、そう。
ノエルの他に学園の人間がいたとは知らなかったのぉ。
まあええわい。逃げ帰ったのならば返って好都合じゃ。
わらわは胸を張る。
絶対の自信を持っていることを相手に示すもの、これこそ強者の条件じゃ。
「ところがまだ残っている学園の教授はいる! しかもS級冒険者でもある! まさに現状を打破するのに打ってつけの人材といえるじゃろう!!」
「なに!? そんな人物がここに!?」
おー、おー、さすがに天下の学園は食いつきがいいわ。
話によるとダンジョンのボスは学者らしい。クククッ。ノエルとの頭脳勝負が楽しみじゃわい。
「そう!! 隣にいるノエルこそ! 天才!! ボスに対抗する救世主じゃ!!」
よし。ここまでいえばギルドの連中も少しはノエルの言葉を聞く気になるじゃろ。
あとはノエルに丸投げじゃ。
わらわの本当の出番はまだ先。
ボスと戦うことこそ、わらわの役目じゃ。
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