第百四十三話 戦いのあと
戦いは終わった。
勝利か敗北か、難しいところだ。
敵をダンジョンへ撃退したという意味では勝利だが、逃がしたという意味では敗北である。
俺としては悔しい気持ちが強い。勝てる戦いだったという思いがある。あの場で名もなき科学者を倒せれば、全てが解決した。
名もなき科学者がダンジョンの外に出たのは暴挙だったが、最後には最善の手を打たれた。
エリノーラとかいう女は侮れない。戦いの経験を重ねているだけの凄みと知恵があった。
戦いが終わってから、2時間ほど。
周囲の建物は全て吹き飛び、戦いの規模を伝えている。
今はギルドがダンジョンの周辺に防壁を作っている。再度の襲来に備えているのだ。
こんなところにもギルド幹部の無能さが現れている。敵はもう二度と地上には出てこないだろう。次の戦いはダンジョンの中で行われるはずだ。
敵の能力が最大限に生かされるダンジョンの中で……だ。
「あともう少しだったものを。王都騎士団の連中が邪魔さえしなければな。敵に操られるとは、まったく情けない連中だのぉ」
エネルが口をとがらせる。
結界スキルを持っている王立騎士団のメンバーを倒した時には、すでにダンジョンに逃げられていた。
そして、いかにエネルでもダンジョンの中までは追撃はできない。
ダンジョンこそ奴らの領域。外の世界とは次元が違う強さを発揮するに違いない。そもそも追撃する冒険者をダンジョンへ引き込むために外に出てきた可能性すらある。
「王都騎士団が操られていたのは予想外でした」
最初の爆発スキルで、数十人の犠牲者が出ていた。
その程度ですんだのは相手が手加減したからだろう。人間を実験材料にしたいのに、ダンジョンの外で殺しても意味はない。
犠牲者と引き換えに、王都騎士団の1人を取り返した。
戦果があったといえるのだろうか。答えは誰にも出せない。
ただ1ついえることは、仲間を殺されて黙ってはいられない。
必ず報いを受けさせなければならないことだけだ。次の戦いは絶対に勝たなくてならない。
この戦いを受けてダンジョンを離れる冒険者も増えるだろうが、俺は逃げたくはない。誇りがダンジョンを離れることを許さないのだ。
「ふんっ。まあいいわ。次こそわらわがボスを倒してやる」
不敵に笑うエネル。
強がりではないことを俺はよく知っている。ダンジョン内で戦うなら、エネルこそが味方の最大戦力だ。
エネルという冒険者をどのように名もなき科学者に戦わせるか、それも一連の戦いの大きな要素になるだろう。
「今回の戦いでは、相手は王立騎士団を無力化した手を使ってこなかった。それに操っている手段も不明なままです」
「そうじゃのぉ。今回の戦いを聞いた限りでは、あの程度は王立騎士団には勝てん」
そもそも今回の戦いで敵が使ったのは、ほとんどの王立騎士団のスキルである。
名もなき科学者とエリノーラの力は、まったく使ってこなかった。出し惜しみする必要などなかったはず。おそらくダンジョン内でしか使えない能力なのだ。
俺はダンジョンの入り口をながめる。
今はもう、先日の簡単すぎるダンジョンとは違う。一歩入った瞬間に殺され、操られる可能性がある。挑発が終わった以上、ダンジョンへ引き込むための手加減する必要がなくなっている。
ペロリとエネルが唇をなめる。
「まだまだ奥の手があるというだの。ますます面白いわい」
「あなたも操られる可能性があることを忘れずに」
「なに!? わらわも操られるというのか!? わらわは王立騎士団の小僧とは違うぞ!」
エネルは怒っているが、その可能性は十分にあった。
戦いの実力ならば、エネルは王立騎士団と対等に渡り合える。
だが、相手は王立騎士団を破っているのだ。それも手段は不明。王立騎士団でも破れなかったものが、エネルに破れるとは思えない。
本当に恐ろしいのは、敗北が単に自分たちの戦力を削られるだけではないということだ。
俺たちが削られた分だけ、相手の戦力が増強される。前回の戦いとは違い、もう力押しは通用しない。下手をすると戦えば戦うほど、不利になり続ける展開になりかねない。
まずはどうやって王立騎士団が敗北したのか。
それを調べない限り戦うことすらままならないのだ。
「とりあえず勝手にダンジョンに突入することだけはやめてくださいね」
「せんわい! まったく、ノエルは人のことを何だと思っておるのじゃ」
ボスと戦えず、寝転がっている姿をみせられている。
その姿をみたものならば、誰だって心配するに決まっている。
あの時、最初にボスと戦ったのがエネルだったのならば……。
いや、仮定の話に意味はない。先のことに意識を集中するべきだ。
「いずれにしろ今回は集団戦です。冒険者の力を集めて、敵を打ち破らなければ」
「指揮を取るのは冒険者ギルドじゃろう? とてもよい策を出せるとは思えぬがの」
まったくです、といいたいところを我慢する。
俺にもその程度の分別はある。
「とりあえず防壁を作るのを手伝ってきますよ。ソフィーナもがんばっているし」
戦いで役に立てなかった反動なのか、小さな体で一生懸命土を運んでいる。
無駄な行為だと理解しても手伝わなければなるまい。メンバーとしての義務である。
「真面目じゃのぉ。とてもわらわには真似できんわ」
あきれたようにエネルは笑う。
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