第十四話 接敵
ゴーレムを作る場所全体を見終わった。
とにかく建物が大きいので、一周するだけで半日もかかった。
疲労感はない。楽しかったからだ。自分の開発した技術が人々の仕事になるのは、独特の喜びがある。
ゴーレムの作り方は非常に単純だ。
大量の土を用意し、土人形を作り。魔法陣を書き込む。
それだけだ。一般人でも作れるように単純化したのだ。
現時点での欠点も発見した。作り方を極限まで単純化しているので、ゴーレムを他人から操作されやすい欠点がある。
他にも細かい作業に向かない、常に魔力を供給する人間が必要。などなど、数えきれないほどの改善点が存在する。
そもそもゴーレム自体が魔法生物の中では弱い方なのだ。
もっと使いやすい魔法生物はいくらでもいる。
それでも、これだけ大量に作ることができればゴーレム独自の利点が生まれる。
値段が100分の1以下ならば、性能の低さに多少は我慢できる。なにせ一般人にも手が届く値段なのだ。比較するのが魔法生物ではなく、馬ならば、ゴーレムでも十分に役に立つだろう。
コーネットの言うように、ゴーレムは世界に革命を起こせるのだろうか。
わからない。わからないが、この場所に立つと、まんざら不可能ではない気がしてくるのだった。
「長生きはするものだの。この年になって若造に教えられることがあるとは……」
先ほどから職人頭の老人はしきりにうなっている。
俺の言ったことは当たり前のことで、別に考え込むようなことではないのだが。共感はすれど、俺も職人の世界を完全に知っているわけではない。
冒険者の世界では、厳格な子弟制度は存在しない。年上の人間である程度は平等に話せるのだ。
「ああ、深刻に考えすぎないでください。ゴーレム開発には終わりはありません。長い長い勝負になるでしょうから」
「ふむぅ、若造のくせに達観しておるのぉ。そうじゃ、儂の弟子を何人か修行させてもらえんか? ゴーレム開発の技術を学ばせたい。いや、いっそ儂自身が……」
「勘弁してくださいよ」
ただでさえ有力者三人から勧誘されているのに、これ以上ややこしくしないで欲しい。
俺に弟子だって? 20年早いな。
「駄目か。ならば儂の弟子ではなくて、この建物で一番優秀な人間を選別して……」
なおもぶつぶつと、つぶやいている老人。
いかん。話の流れを断ち切る必要がある。このままでは俺が弟子をとる方向にいきそうだ。
俺は商会の男たちの方を向く。
「見学は終わりですね。ありがとうございました。とても勉強になりました」
男たちに向かって頭を下げる。
とかく冒険者は粗暴にみられがちだし、実際に粗暴なのだが、俺はお礼を言うくらいの礼儀は持っているつもりだ。元パーティーの雑用係だったから、冒険者以外の人間と接する機会も多かったのだ。
「い、いえ、コーネット様によろしくお願いします」
俺自身を商会に誘うのではなく、あくまでコーネットの機嫌を取ろうとするのか。あらためて商会で仕事をすることの難しさがわかる。とてもじゃないが、仕事を変われる気がしない。
「ああ、そうだ! ノエル様のために特別な昼食を用意してあります。どうぞ、こちらへ」
「いや、結構です。このまま帰りますから」
「え?」
きょとんとした表情で俺をみつめる男たち。
まさか断られるとは、まったく思っていなかった顔だ。
「今日、俺は働いていません。見学しただけです。豪華な食事をとる権利はありません。それよりもこの建物には実際に働いている人間がいる。豪華な食事は彼らにどうぞ。きっと喜ばれると思いますよ?」
「は、はぁ……」
商会の男たちには理解できないのか。
働いている人間たちを金で雇っただけだと軽んじていたら、ゴーレム作りに将来はない。この場で働いている人々が次の技術を生み出すのだ。
次にコーネットと会う機会があれば、忠告してやろう。
「ではご老人、また会いましょう」
そういえば職人頭の名前を聞いていなかった。
まあ、いいか。ゴーレムを作り続けている限り、知る機会もあるだろう。
「ふんっ。今度来たら、実際にお主のゴーレムを作る腕をみせてみろ。そうしたら今度こそ本当にお主を認めてやるわい」
どこまでも職人、ということらしい。
職人頭にゴーレム開発の腕を認めさせるのも、それはそれで面白いかもしれない。
ゴーレム作りはこれからの仕事だった。
手探りで新しい技術を開発しなければならない。難しくもあり、やりがいもある。
この建物にもまた、ダンジョン制覇と同じような夢があるのだった。
建物の外に出ると、空は雲一つなく晴れていた。
ひさしぶりにとてもいい気分であった。視野が広がった気がする。
喧騒の中を一人で歩く。
適当に昼食をとって、冒険者ギルドへ向かおうか。リリィさんと顔を合わせないと、不機嫌になってしまう。あの人は一度機嫌を損ねると、直してもらうのが大変なのだ。
またギルド職員に勧誘されるだろうが我慢するしかない。
そろそろ進路を決定しなければ。
いつまでも迷っていてもしかたがない。俺としてはやはりダンジョン制覇の夢にこだわって……。
人ごみの中から、一人の男が出てきた。
前方をさえぎる。俺の足も止まる。
馬鹿な。
もう俺には用はないはずだ。
今ごろはダンジョンの最下層にいると思っていたのに。なぜここに!?
「よお、ノエル。会いたかったぜぇ」
元パーティーのリーダー、グェントは下品な笑みを浮かべていた。
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