第百三十九話 ダンジョンのボス登場
「スキル発動「土操作」!」
俺は目の前に土の壁を作る。
高さは人間の身長の倍くらい。厚みは人間が両手を広げた程度。
これが俺の操作できる大きさの限界であった。
並みの相手ならば、いずれは突破されるにしても、時間稼ぎぐらいはできる。
ところが今回の相手は並ではない。
ドォォン!!
再び王立騎士団の爆発スキルが発動する。
数秒にして、土の壁が破壊される。俺のスキルでは時間稼ぎにすらならない。もしまともに食らったら体がバラバラに砕けてしまうだろう。
初めからわかっていた。
相手は最高ランク冒険者。俺1人では勝ち目がない。
個人でこれほどの破壊力を出せるとは。最高ランク冒険者の名にふさわしい強さだ。
ただ、今回の戦いは集団戦。スキルを使うのは俺1人ではない。
1000人を超える冒険者たちと共に戦っているのだ。1人で王立騎士団に勝たずともよいのだ。
「スキル発動「氷操作」!」
「スキル発動「火球作成」!」
周囲の冒険者たちもスキルを使ってくれる。
どれも普通のスキルである。それでも数百人が同時にスキルを発動すれば、一流のスキルに匹敵する。
爆発は次々にスキルの壁を破っていくが、数百枚の壁は破り切れない。
一枚の壁を破るごとに、少しずつ破壊力は減らされていく。俺たちのところまで爆風が届くことはない。
最初は逃げ回っていた冒険者たちも、俺たちが戦場に到着するころには反撃を開始していた。
冒険者は戦いのプロである。本能的に理解している。反撃しなければ皆殺しにされかねないと。
まだ王都騎士団の、たった1人のスキルを防御しただけである。
これから戦況がどう動くか、まったく予想がつかない。残り3人のスキルも同じ程度には強力なはず。
「ソフィーナ! 俺のうしろから動くなよ!!」
「わかりました!」
それでも俺は手ごたえを感じていた。二流だろうが、冒険者を数百人が束にすれば、少なくとも戦うことはできる。
王都騎士団の強さは、俺たちの延長線上にある。最強の女魔術師とは違う。俺たちが何万人いても勝てないような威圧感を感じない。
もっとも、俺たちよりもはるかに強いという点は変わりがないが。
この戦場では俺たちのできることは少ない。
戦いはあまりにも突然に起こり、準備をしている時間はなかった。
せめてゴーレムを作る時間があれば。ソフィーナのスキルも含めて、対抗できる可能性はあったのだが。
いずれにしろ、無いものを考えても始まらない。
今目の前にある戦いを切り抜けることが一番重要だった。
「とにかく時間稼ぎに徹する!! 時間がたてば最高クラスの冒険者が駆けつけてくるだろう!」
俺は叫んだ。
周囲の冒険者たちにむかって。
心だけは折らせてはならない。無理やりにでも戦う冒険者に希望を持たせるべきだ。
逃げる冒険者はすでに去り、この場にいるのは戦意のある冒険者だけである。もし心が折れてしまえば、ギリギリで保っている均衡が崩れかねない。
それに時間稼ぎが有効なのも事実だ。
王立騎士団だけがこのダンジョンにいる最高ランク冒険者ではない。
例えばエネル。
この場にエネルはいないが、全速力が駆けつけてくるはずだ。
エネルならば勝てないまでも、いい勝負ぐらいはできるはず。何とかあと数分を耐えきらなければ。
もしその前に王立騎士団の2人目がスキルを使ったら?
策などない。その時はその時だ。誰かが対抗できるスキルを持っていることを願うだけだ。
「まあ、挨拶はこのくらいでいいか。本題に入ろうか。時間もあまりないようだし」
子供のような声と共に爆発スキルが止まった。
思わず顔を上げる。
敵の6人のうちに、子供のように背が低い人間がいる。
ゆっくりと俺たちの方へ歩み寄ってくる。後ろには変わった格好をした女が付き従っている。
残り4人は無表情のまま立っている。
……もしかしたら、あの4人が本来の王立騎士団のメンバーなのかもしれない。
人間を操るということは、とても難しい技術である。完全に人間を操り切るのは不可能で、どこかしらにゆがみが出る。
スキルが使えなかったり、感情が不安定だったりする。
今回の場合は感情を失っているようにみえることか。
まるで意思を持たない人形のようだった。
となると、あの2人こそが王立騎士団を操っている元凶……か?
子供は楽しそうに両手を広げる。
この戦場においてあの子供だけが笑顔をみせている。
とんでもなく不吉な笑みであった。訂正する。あれは人間の子供ではない。
もっと別の何かだ。
「やあやあ、冒険者の諸君。初めまして。僕は「名もなき科学者」というものだ。後ろにあるダンジョンのボスをやっている」
そのまま優雅にお辞儀をする。
芝居がかった仕草。
「短い間だが、どうぞよろしく」
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