第百三十五話 緊急ギルド会議
王都騎士団がダンジョンの中で行方不明になったらしい。
それを受けて、冒険者ギルドが緊急会議を開くことになった。ギルドの幹部だけでなく、あらゆる冒険者にも参加が許されている。
会場を埋め尽くす数千人の冒険者たち。
ダンジョン捜索で金を稼ぐ身としては、誰もが無関心ではいられない。
もちろん俺たちも会議に参加したのだが……。
主催した冒険者ギルドの幹部たちはうろたえるばかりであった。有効な策をいっさい出せていなかった。
会場は保身と恐怖がうずまく混乱の極みにある。
「と、とりあえずダンジョンは立ち入り禁止にします!」
これには会場を埋め尽くす冒険者たちから不満の声が叫ばれる。
王立騎士団はギルドの宝かもしれないが、冒険者たちには関係のないことだ。ダンジョンに入れなくするのは暴挙以外の何者でもない。
ただでさえダンジョンへ入るのを制限されているのだ。不満を持つなというのが無理な話である。
普段のギルドならば絶対に採用しない方針ではある。それだけギルドが激しく動揺しているのだろう。それとも初めからギルド本部が無能だったのか。
そもそもダンジョンで冒険者が行方不明になるのは、当たり前といえば当たり前のことだ。
いちいち会議を開くほどのことではない。王立騎士団がどれだけ特別あつかいされているのかわかる。
とにかく王立騎士団を失うことを恐れているかのようだった。
王立騎士団を失えば責任問題になる。王立騎士団はこの国のギルドの看板。ギルドをクビではすまされないだろう。
つまりは保身というとだ。アーステラといい、このダンジョンには上に有能な人間が存在しない。
どうにかして王立基騎士団をダンジョンから救出したいが、有効な策を出せない。あまりにも情報が足りなかったし、低ランク冒険者がダンジョンへ情報を集めにいくのは自殺行為に他ならない。
会議はただひたすらに空転していた。
「ニヒヒッ。面白くなってきたのぉ!」
先日までとは打って変わって、エネルが生き生きとしている。
気持ちはわからないでもない。王立騎士団が退場すれば、自分達にダンジョンのボスと戦う機会が回ってくるからだ。
とはいえ、他人の不幸を喜ぶのは性格が悪すぎる。
「まだ行方不明なだけで死んだわけではありませんよ。今日にでもひょっこりと帰ってくる可能性もありますから」
「なんじゃ! いい子ぶりおって! ノエルも内心は喜んでおるのじゃろう?」
確かに俺にとっても利益はある。
エネルのパーティーについていけば、俺もダンジョンのボスと戦えるかもしれない。
だが、冒険者にも一線というものがある。
暴力の専門家であるゆえに、自らを制御しなければならない。そうでなければ、すぐに本物の犯罪者へと転落してしまうだろう。
俺はそう思うのだが、冒険者の中では少数派であった。
「とにかく王立騎士団を助けにいかせろ!!」
「そうだ! そうだ! 俺はあの人たちに命を助けられているんだ!」
「あの人たちが死んだら、世界の損失だぞ!」
広場を埋め尽くす低ランク冒険者たちが口々に叫ぶ。
王立騎士団の人望は本物であった。
基本的に自分勝手な冒険者たちがここまで他人を助けようとするとは。
こんな光景みたことがない。感動的な光景ですらあった。
どんな冒険者人生を送ったら、これほどの人望を獲得できるのか、想像もつかない。
「わ、わかっています! 我々も気持ちは同じ! 全力で王立騎士団を救出する策を探しています!!」
涙を流しながら答えるギルド幹部。
会場は戦いとは別の意味で、修羅場であった。
「なんじゃ? この茶番は?」
あきれたようにエネルは息を吐く。
エネルも俺も王立騎士団に恩を受けたことはない。辺境の街出身だからだ、
俺とソフィーナにいたっては、会ったことすらない。とてもこの熱狂には乗れない。どうしても冷めた目で会議をながめてしまう。
わかっていることは、ただ1つ。ギルドが王立騎士団を救出する策を持っていないことだ。
最高クラスの冒険者が行方不明になり、残ったのはそれよりも弱いであろう冒険者ばかり。数だけは多いが、厳しすぎる戦いになることが予想される。
10日前、俺はダンジョンのボスを予想した。
ダンジョンの難易度が低すぎるのは理由がある。
ボスが大馬鹿なのか、戦いに絶対の自信を持っているか。
どうやらこのダンジョンのボスは後者のタイプだったらしい。
歴戦の冒険者を倒すのだから、ダンジョンのボスの中でも強い方に位置しているに違いない。
「とにかくダンジョンを制覇するのは、わらわたちじゃ!」
「どうやって? ダンジョンへ入ることすらも禁止されているのに」
エネルは俺の目をみたまま笑う。
ソフィーナとは違う、攻撃的な笑みであった。
「それを考えるのが、ノエルの仕事じゃろう?」
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