第百三十二話 成熟した果物
「ノエルの奴。結構強くなっておったのぉ」
高ランク冒険者にはみるだけである程度の強さをはかることができる能力がある。数限りないモンスターと戦ってきた経験が能力を獲得させる。
前に会った時よりもノエルは確実に強くなっておる。ふむ。どうも王都でも修羅場をくぐってきたらしい。
もっとも、強くなったとはいえ、わらわには遠くおよばないが。
もともとノエルに戦いの才能はあまりない。スキルの性能にいまいちだからだ。まあ、限界があるわりにはよくやっている方だろう。
「少しは機嫌が直りましたか?」
パーティーの副リーダーが果物を差し出してくる。
寝たまま受け取る。副リーダーは戦闘能力こそ、それほどではないが、よくパーティーをまとめてくれる。自分にはその種の能力がないことをよく知っている。
果物を受け取り、一口かじる。
美味い……が、この程度では満たされない。
「なるかい! あいかわらずダンジョンのボスと戦えないのに!」
ここに来て良かったことといえば、果物が美味いくらいだ。
わらわたちならば、この程度のダンジョンは簡単に制覇できる。が、ダンジョンのボスと戦えない事態になるとは思わなかった。
「ギルドからダンジョン捜索に待ったがかかるとは、考えもしなかったのぉ」
「まったくです。さらに上に行くためには政治力も必要なのかもしれませんね」
政治力だと?
面倒くさすぎる。
かといって、ギルドに逆らえば冒険者の資格を失う。長く冒険者として生きてきたが、ここまでギルドが特定の冒険者をひいきすることなどなかった。
全ては王立騎士団の奴らのせいだ。
戦いでは負ける気はしないが、政治力では天と地の差があった。ついでにいうと人望も。やりたいようにやるのが冒険者だと思うがのぉ。
せめて王立騎士団が嫌な奴らだったらやりようがあったのに!
まっとうな手段は取れずとも、裏で手を回すこともできた。例えば闇討ちするとか。
ところが奴ら、わらわに頭を下げにきやがった。
ダンジョンのボスを横取りしたことを謝りにきたのだ。
噂通りのいい子ちゃんパーティーだったらしい。
こうなるともう、わらわは手が出せない。出したら冒険者としての格が下がってしまう。
「やはりもう打つ手はないか?」
「残念ながら……」
あったら仮の家で不貞腐れてはおらんな。
あと数日で王立騎士団の連中がダンジョンを制覇するだろう。わらわはここで指を加えて待っているのみ。180階層のダンジョンへ行っても面白くもなんともない。
「はぁ、時間の無駄じゃったのぉ」
「このダンジョンに来たのは失敗でしたね」
もう一口、果物をかじる。
美味い。やはり果物は完熟に限る。
それは人間も同様。
味わうならば完熟。人生が絶頂の時に味わうのがいい。
ノエルは完熟にはまだまだ早い。
あと10年ほど待つ必要があるな。今から楽しみだのぉ。
このダンジョンにきてよかったことが1つ増えた。
「そういえば、ノエルが連れてきた猫耳はどう思う?」
「猫の亜人の少女ですか? 可愛らしいお嬢さんですよね」
ふーむ。
可愛らしいか。わらわからみれば、ノエルの隣でおどおどしていただけだったな。
ただ……。
「これはわらわの勘じゃが、ただの無力な猫耳ではなさそうだぞ」
「そうですか? 私は何も感じませんでしたが」
確かにわらわも強さを感じなかった。
ただ、連れてきたのはノエルである。
猫耳については何も知らぬが、ノエルについては良く知っておる。
「あのノエルが、完全に無力な猫耳をダンジョンに連れてくるはずがない。何かしらあるぞ、あの猫耳。」
「ふむ。確かに……」
どうせ暇なのだ。
あの猫耳について調べてみてもいいかもしれない。
やはりノエルがいると退屈はしないな。
それこそがわらわがノエルを気に入っている一番の理由であった。
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