第百三十話 最高ランク冒険者でもできないことはある
「どうして! このわらわともあろう者が!! ギルドからこんなあつかいを! 受けねばらんのじゃ!!」
エネルが寝そべって手足をばたつかせている。
まるっきり子供そのものの姿である。俺が辺境の街にいたころと変わらない。たぶんあと1000年たっても大人の姿にはならないに違いない。
これが最高ランクの冒険者。
……いや、駄目だろ。
別に冒険者に威厳のある姿など求めはしないが、最低限のかっこよさは欲しい。
子供のようにわがままな姿をみせていては、一般人からの尊敬は得られまい。それでいて俺よりはるかに強いのだから困ったものだ。
一般的な冒険者へのイメージ。筋肉むきむきの大男が剣を振り回している感じとは真逆であった。
「帰ろうか、ソフィーナ」
「ええ!?」
経験上、機嫌が悪くなったエネルをなだめるのは至難の業である。
ここまでエネルの機嫌が悪いのはめったにないことだった。どうすれば機嫌が直るのか想像もつかない。
数日、いや数か月ねちねち嫌味をいわれるのだ。誰だって逃げ出したくなるに決まっている。ましてや俺たちはエネルのパーティーの一員ではない。
俺にはエネルの機嫌を直す義務など存在しない。機嫌が直ったころに出直すのが一番いい。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ノエルさん!」
エネルのパーティーの1人に腕をつかまれる。
必死な表情である。エネルの機嫌が悪いので一番被害を受けるのは間違いなく彼らである。
「ノエルさんはうちのリーダーのお気に入りですから! ここで偶然会ったのは神からの贈り物です! なんとかしてください!」
「ええい、放せ! エネルの子守はお前らの仕事だろ!?」
エネルのお気に入りといわれても、まったく嬉しくない。
嫌な役の押し付け合いだ。負けたくない。
ソフィーナは困惑した表情で、俺をながめている。
大の大人たちがもみ合っているのだ。困惑しない方がおかしい。
ソフィーナはエネルを知らないからのん気に困惑していられるのだ。
冒険者が他人の機嫌を取るなんて、苦手に決まっている。
「えっと、私、同じ年くらい亜人の人とちゃんと話すのははじめてで……。仲良くれるかな……と」
「……そうだな。仲良くするのが一番だ」
ソフィーナの純真な心に触れると、自らの愚かさに気づかれる。
とはいえ、今回ばかりはソフィーナの方が間違っている。まずエネルは見た目だけは子供でも、少なくとも1000年は生きている。
それに加えて、純真さなど欠片も持っていない。ソフィーナとは仲良くなれそうもないな。
「んあ?」
エネルが顔を上げる。
狐耳がピンとはり、一転して笑顔になる。
げ。
みつかった。
「おお! ノエルか! 久しぶりじゃのぉ。近くにこい」
言葉だけみれば歓迎しているようだが、実際は寝転がったままである。
とてもじゃないが、客をむかえる態度ではない。
俺たちがエネルを見下ろす形になるのだが、それはいいのだろうか?
最高ランク冒険者の威厳などまったくない。うーん。
「どうしてわらわの機嫌が悪いのかわかるか!?」
顔は笑顔でも、声は固い。
まったく間の悪い時に来てしまったものだ。
理由はだいたい想像がつく。
エネルも冒険者である。ダンジョン関係以外にここまで怒るようなことはない。
いちいち細かいことに怒っていたら、100人ものパーティーをまとめるのは不可能だ。
「もしかしてエネルもダンジョンの最下層に入れないのか?」
それ以外思いつかない。
が、低ランク冒険者ならともかく、最高ランク冒険者でも思うようにダンジョン捜索できないとは。
「そうじゃ!! このわらわともあろう者が、ギルドごときに足止めを食らうとは! たった180階までしか許可が下りぬのじゃ!」
寝ころんだまま、エネルは怒っている。
狐耳が怒りを反映したかのように震えている。
今回のダンジョンは小規模なもので、全部で200階層くらいだと予想されている。
180階というのは最下層に近い。一応はギルドも配慮してはいる。それもこれもエネルが最高ランクの冒険者だからである。
とはいえ、エネル自身はとても満足できるものではないだろう。
立場的には俺たちと同じ。
ダンジョン制覇ができないという意味においては。
しかし。
最高ランクでもダンジョンのボスと戦えないとは。
どうにも嫌な予感がする。
「それもこれも王立騎士団の連中のせいじゃ! まったく腹が立つわい!」
……。
王立騎士団……だと!?
なぜそんな大物が小規模ダンジョンに!?
「なぜ王都騎士団がここに!? もっと大きなダンジョンを捜索するべきでは!?」
「知らんわ! こっちが聞きたいくらいじゃわ!!」
王都騎士団はこの国有数の冒険者パーティー。
エネルよりもさらに格上である。
王立騎士団がきては、ダンジョンのボスと戦う機会などないに等しい。あっさりとダンジョン制覇されてしまうに決まっている。
この瞬間。
元々無に近かった俺のダンジョン制覇の可能性が、完全になくなったことを知った。
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