第百二十七話 冒険者たちとの再会
次の日の朝。
俺たちには何もすることがなかった。
アーステラは冒険者ギルドと強く交渉するつもりがない。せいぜい挨拶をしただけだ。ギルドの許可がなければダンジョンに入ることもできない。
誰かがダンジョンを制覇するまでは待機の姿勢である。それまでは観光気分で暮らすつもりである。
学園の名前があれば、強引に交渉をまとめることも可能であろう。それをしないのはアーステラの性格が原因に他ならない。
俺は……とてもじゃないが、のんびりと遊んで待つ気にはなれない。
「アーステラの面子を潰さない範囲で動こうか。くすぶっていてもしかたがない。」
「何をするのですか?」
ソフィーナが聞いてくる。
現状はソフィーナだけが俺に協力してくれている。たった1人でも、そばにいてくれる人がいるのは心強いことだ。
俺はソフィーナの頭に手をおく。
「実はな……思いつかない」
「へ?」
冒険者ギルド交渉することもできない。
勝手にダンジョンへ入ることもできない。
乱暴すぎる手段を取ると学園の名を傷つけることになる。
打てる手は限られているが、まったくないわけではないはずだ。
これまでの展開を後悔してもはじまらない。前向きに考えねば。
幸いにも周りは冒険者ばかり。学園とは違い、やり方はよく知っている。
「今からやれることを探しに行こうか。諦めるにはまだ早い」
欲しいものは勝ち取るしかない。
それこそが俺が生きてきた世界での常識なのであった。
外は今日も晴れていた。
森の中だからか、空気が王都とは違う気がする。どことなく俺の故郷を思い出させるような空気だ。
あいかわらず周辺には冒険者があふれている。
気づいた点が1つある。以前はアーステラの馬車に敵意を向けているかと思っていた。違った。アーステラがいようといまいが、お互いに敵意を向け合っている。
俺たちにも殺意の混じった視線を向けてくるが、視線だけでは気にする必要もない。この程度は慣れきっている。
道端にたむろしているような冒険者は低級が多い。
彼らもダンジョンへと入れなくて、イライラしているのに違いない。ダンジョンへの捜索では高ランク冒険者が優先される。
なにもかも小規模ダンジョンに比べて、冒険者の数が多すぎるのが原因である。
こうしてみると冒険者ギルドの仕切りも完ぺきではない。冒険者が多すぎる問題はあれど、もっと良い方法があるはずだ。
ダンジョンに入れなければ、冒険者は稼げない。精神が荒れるのもしかたがないことだ。
「ソフィーナ。ここでは誰も協力してくれそうにないな。酒場にでも行こうか」
情報収集といえば、昔から酒場と決まっている。
誰だって酒が入れば、口がなめらかになる。金がかかるのが欠点だが、幸いにも今は金に困ってはいない。
治安の悪いダンジョン周辺で、間違いなく一番治安の悪い場所に違いない。
ガシャン!!
ドカンッ!
酒場に入ろうとすると、中から大きな音が聞こえた。
人々の歓声も聞こえる。
「わっ、わっ、なんですか!?」
「ただの喧嘩だよ。よくあることさ」
俺はかまわず酒場の扉に手をかける。
中は机が転がり、料理が床に散乱している。冒険者たちが人垣を作っている。あの中心で誰かが喧嘩しているのだろう。
「よくあることって……ええっと……」
「この程度でビビっていたら、冒険者などやってられないということさ」
一般社会においては野蛮にすぎるが、冒険者の世界では普通である。
普通の住民に手を出したら犯罪。だが、冒険者同士が殴り合う分には問題ない。
むしろ喧嘩で人が死ぬことなどめったにない。スキルを使わないという暗黙の掟があるからだ。あいさつ替わりと表現しても問題なほどだ。
アーステラののんびりした世界とは真逆。
ここでは全ての人間が庶民出身で、誰もが栄光と金に飢えているのだった。
俺は転がっている机と椅子を立たせる。
「とりあえず酒を頼もう。料理はそれからだ」
「あの、私はお酒を飲んだことがないんですけど……」
「飲まなくてもいい。頼むことが大切なのだ」
酒を頼むことは冒険者の世界を知っていると、他の人間に宣伝することになる。
どの世界でもそうだが、素人はなめられる。ここでおびえた表情をしてはならない。この程度でビビっていてはモンスターと戦えるはずもないからだ。
もっとも今は皆喧嘩に夢中で俺たちには注目もしていなのだが。
さて、どうやって情報収集をするべきか。俺は酒場内で一番ランクの高い冒険者を探す。酒場の主の協力が得られれば後がやりやすくなる。
「あれ? ノエルじゃないか!? お前も新しいダンジョンに来ていたのか」
人垣から男が1人、進み出てきた。
見覚えがあった。
たしか辺境の街にいた冒険者だ。
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