第百二十二話 新たなダンジョンへ
研究室の奥に通されたが、どうも研究という感じがしない。
ぬいぐるみや花がいたるところに飾られている。まるで貴族の屋敷か、子供部屋のようである。この場所で研究できるのか、疑問である。
「さあさあ、お茶を入れましょうね」
いそいそとアーステラはお茶の準備をする。
教授が自ら準備するとは。それくらい自分の部下にやらせればいいのに。
アーステラには上品な雰囲気はあまりない。どちらかといえば、庶民のおばちゃんに近いものがある。
太った体をみると、戦闘力はなさそうだ。
ここは激しい権力闘争を繰り広げている学園なはず。
のんびりとした感じが学園ではとてつもなく珍しい。アーステラも権力争いには興味がないのだろうか。あるいは本性を隠しているのかもしれない。
……いかんな。
学園にきてから人間不信になっているのかもしれない。
すぐに人の裏を推測しようとするくせがついてしまった。
「あなたの噂は聞いていますよ、ノエル教授。庶民の期待の星だとか」
ほめられているのか、馬鹿にされているのか、判断を迷う。
アーステラの様子からは俺と敵対したいという意思は感じられないが。
「わたしなんてねぇ、教授になるのに30年もかかってね。王族につらなる大貴族出身なのにひどいと思わない? うらやましいわ。あなたは1か月くらいですって?」
べらべらと言葉を連ねていく。
アーステラは一度しゃべり出したら止まらない性格でもあるらしい。ますます食堂のおばちゃんに似ている。
俺とソフィーナは思わず目を合わせる。
悪いが、俺の冒険者としての経験では、この状況を解決できそうにない。冒険者の技術におばちゃんのおしゃべりと止めるというものは存在しない。
このままでは日が暮れてもしゃべり続けそうだ。
「ダンジョン調査隊についてお聞きしたいのですか?」
「ああ、そうそう! ダンジョン調査隊ね。学園がぜんぜん予算を割いてくれないのよね。困っちゃう」
ダンジョンの構造を調べるだけでは金にはならない。研究の意義を知る人間も少ないだろう。
俺も同じ。ダンジョンの構造を調べても何の役に立つのかよくわからない。
現状は冒険者たちが地図を作りながら、地道にダンジョンを捜索している。
少しは研究によって効率が上がるのだろうか。
「まったく! 学園の指導者は何をしているのかしら。ダンジョンに興味がない奴らばかり! 信じられないわ」
うーん。
俺はアーステラの学園批判にも、研究内容にも興味はない。
ダンジョンに行けるかどうかだけが問題だ。
「俺たちもあなたのダンジョン調査隊に加えていただけませんか?」
こちらから頼むということは、アーステラの下につくということだ。主導権は向こうになる。俺たちは命令をされないにしろ、方針に口出しはできない。
一応は同格であるが、面子などどうでもいい。何度もいうが、ダンジョンに行けるかどうかだけが大切なのだ。
「もちろん。大歓迎よ!」
にっこり笑うアーテスラ。
中年なはずなのに、一瞬、少女のようにさえみえる。
俺は小さく息を吐く。
やれやれ。
なんとかダンジョン行きの目途はついた。
最悪、学園をやめなければと考えていたが、損害は最小限にすみそうだ。
自由には代償がつきもの。自分のわがままをつき通すには、痛みが伴う。
わかってはいても、ダンジョンだけはどうしても譲れない。
「でも、そちらのお嬢さんはダンジョンに行くには、ちょっときついかもねぇ」
アーステラだってとてもダンジョンで通用するような体型ではない、とは口が裂けてもいえないな。形式上は俺たちの上司になるわけだし。
礼を知らない冒険者のなかでも、俺は比較的ましな方だと自負している。
「大丈夫です。俺はS級冒険者でもあるので、ソフィーナ一人なら守り切れます」
「え? S級冒険者なの? なんで学園にいるの?」
アーステラは素直に驚いている。
俺が庶民だと知ってはいても、冒険者だとは知らなかったらしい。目を丸くしている。
しかし、なんなのだろうな。この人畜無害な感じは。
これまで弱肉強食の学園でどうやって生き抜いてこられたのか。
……まてよ。こうは考えられないだろうか
あえて無害になって、権力争いに背を向けているのかもしれない。
誰とも敵対せずに、ただ自分の研究に専念する。出世もしないかわりに、学園を追放されることもない。
生き残ることだけを目標にするならば、悪くない方針かもしれん。
なるほど。
これもまた権力との向き合い方か。
勉強になった。
とても俺にはまねできる気がしないが……。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




