第百十四話 自身の複製
話をソフィーナのスキルに戻そう。
2つ目の強すぎる点は「複製」という点だ。
そもそも俺はソフィーナのスキルの効果を勘違いしていた。
ソフィーナのスキルは人形に意思を与えるものではない。
自分の魂を複製する能力だったのだ。
ソフィーナとゴーレムちゃん(仮)は同一の存在。
しかも「複製」と名の付く以上、いくら使っても自分の魂は減らない。
魔力が続く限り、何度でもスキルを発動することができる。いくらでも自分を増やせるのだ。
疑似的な不死であり、俺の知っている限り、最強に近いスキルである。おとぎ話の英雄たちに比べても、スキルだけは劣ってはいない。
おそらくスキルが成長すれば、複製した自分も同じスキルを使うことができるようになるだろう。
自分を無限に増やせる。
極端な話をすれば、世界中を自分で埋め尽くすことすら可能である。
世界を壊せるといっても過言ではない理由がわかるだろう。
ソフィーナがゴーレムちゃん(仮)を抱き上げる。
「あなたは私自身だったんだね」
そうだ。
単に意思を与えるだけならば、ゴーレムがあれほど協力してくれることはなかった。過酷な訓練に積極的に耐えたり、自分の命を削ってまで戦ったのは、ソフィーナの魂が宿っていたからだ。
ソフィーナだったからこそ、俺たちは対決に勝つことができたのだ。
ソフィーナはゴーレムを友だちだと主張していた。
正しかった。少なくともソフィーナのスキルを使ったゴーレムは道具ではない。本質的には人間と同じ存在である。
ゴーレムちゃんと見つめ合うソフィーナ。
ありきたりな光景なはずなのに、なぜか胸にくるものがある。
「感動的な光景じゃないの。やっぱりこの子がスキルを悪用するとは思えないわ」
リリィがしみじみとつぶやく。
この光景をみて、ソフィーナのことを悪人だと思う人間はいないだろう。
元奴隷ならば世界を恨んでもおかしくない。むしろ恨むのが当たり前だ。
そう思うと、ソフィーナは奇跡のような存在なのかもしれない。
「俺は最初から疑ってはいなかったけどな」
結局、どれほど強大なスキルを与えられようとも、全ては使う人間しだいなのだった。
正しく使うか、悪用するか。ソフィーナ本人の意思に加えて、接する俺たちによって変わってしまう。
ソフィーナは真っ白な紙に等しい。
これからどんな絵が描かれるか、楽しみでもあり、怖くもある。
できれば真っすぐに成長して欲しい。俺のようにひねくれては、いつか道を踏み外すかもしれない。
不思議とソフィーナに対して嫉妬はない。
あれほどレアスキルを望んでいたのに。なぜ嫉妬しないのか、自分でもよくわからない。
ソフィーナに戦闘能力がいっさい存在しないかもしれない。とはいえ、今は無力でも、そう遠くない未来に俺を超える日がくる。
それでも嫉妬しないのは、ソフィーナが本当の仲間だからなのか
仲間の力は自分の力。言葉にすれば簡単だが、心からそう思うのは難しい。宗教家のように全てを受け入れるには、自分はまだ若すぎる。
「2つ目までは強すぎるといえども、なんとかなる範囲だわ、問題は最後の3つ目よ」
リリィもスキルには詳しい、
3つ目の強すぎる点、「レベル1」がもっとも予想がつかない。
これまでの強すぎる点はある程度は効果を予想できる。3つ目は予想できない要素である。
ソフィーナのスキルは成長する。
成長したらどうなるのか、どうやれば成長するのか、誰にもわからない。
スキルにはあらかじめ成長を織り込んでいるものもある。
「レベル1」という部分がそれだ。どこまで成長できるかは本人の修業しだい。一生をかけてもスキルを成長させられない冒険者もいる。
俺の「土操作」スキルは成長しない。
どれだけ訓練を重ねようとも性能は変わらない。簡単に使える分、成長性もない。
ソフィーナのスキルは簡単に使えて、とてもなく強力である。
さらにここから成長する。
今でさえ強力すぎるスキルなのに成長したらどうなってしまうのか。
まさに規格外のスキルである。
「信頼はしていても、やっぱり震えるわ」
恐ろしいことを正しく恐れる。
それもまた、強さの一部である。
「ノエルさん。もしソフィーナちゃんを自由にさせておきたいなら、スキルを世間から隠しておくしかないわよ」
「ああ、わかっている」
俺は自由をもっとも重要なものだと信じている。
間違ってもソフィーナを他の組織に差し出したりはしない。
もしソフィーナを救ったのが、俺じゃなかったらどうなっていたか。
今よりも幸せだったか、不幸になっていたか。
自分の未来を自分で決めさせる。
ある意味、それも残酷なことであると、俺自身も理解してはいる。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




