第百十話 戦闘訓練用としてのゴーレム
一度、開発した技術というものは応用が利く。
ゴーレムを強くしようとした経験は別の形で生かすことができる。
例えば、ゴーレムを新人冒険者たちの訓練用に使うとか。
面白い。
ゴーレムとは開発すればするほど、新しい可能性が開くのだ。
他の魔法生物でも同じことができるだろうが、はるかに簡単に作れる。特に今回のように戦闘訓練用に使う場合は安く、早く作れるのは大切だ。
仮に壊しても、すぐに次のゴーレムを用意できるからだ。
「スキル発動「土操作」」
俺が作った土人形に、ソフィーナが意思を宿していく。
魔法陣が書かれていないため、全ての能力を引き出せていない。だが今回はそれが丁度いい。
ダンジョンの浅い階層で出現するモンスターと同じくらいの強さになる。
弱くとも20体のゴーレムは並ぶとなかなかの迫力である。
「ソフィーナ。体は大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
スキルを発動させるには魔力を使う。使いすぎれば意識を失ってしまう。
ソフィーナはまだ自分の魔力の限界を知らない。俺が注意しなければならない。戦闘中ならばともかく、訓練中に無理はさせられない。
ゴーレムたちに木の棒を渡す。
本当は真剣を使うのがいいのだが、新人冒険者たち対手には不安が残る。
「よし。まずは適当に新人たちと戦ってみてくれ。やられたら、完全に壊れる前に降参してくれ。修理だけならばすぐできるからな」
ゴーレムたちがうなずく。
ソフィーナが与えた意思は本当に優秀だ。少ない言葉で俺の意図を読み取ってくれる。
「私たちはどうすればいいのですか?」
新人冒険者たちの女リーダーが聞いてくる。
こちらは完全武装である。訓練が怖いのは理解できるが、着こみすぎだろう。騎士や兵士じゃあるまいし。冒険者は軽装が基本だ。
肝心の機動力が下がれば、防御力がいくら高かろうが無意味だ。
……まあ、いいか。
訓練していくうちに自ら気がつくだろう。
「まずは君たちも普通に戦ってみてくれ。指導をするのはそれからだ」
「わかりました!!」
はりきる新人冒険者たち。
いや、そんな必死にならなくともいいぞ。
相手は魔法陣の書かれていないゴーレム。そこまで強い相手じゃない。
と、考えていた俺が甘かった。
始まったのは新人冒険者たちのゴーレムとの大乱戦であった。
俺は頭を抱えたくなる。
スキルが乱れ飛び、それぞれが一番近い敵を攻撃している。
戦略も何もあったものじゃない。下手したら同士討ちしかねない。王都の冒険者ギルドはスキルの有効活用とか教えていないのだろうか。
新人冒険者たちとゴーレム、いい勝負をしている。
……いや駄目だろ。
いい勝負をしては。
「あ、あの、私も訓練に参加したいです」
ソフィーナが俺の服を引っ張る。
手から強くなりたいという意思を感じる。その意気は買う、が、無謀すぎる。
「君にはまだ無理だ」
「ええっ!? そんなぁ」
落ち込むソフィーナ。
ソフィーナの場合は、戦いに参加する以前に、まず体力をつけなくては。
そもそもソフィーナは冒険者ではない。戦う必要があるのかすら疑問だ。わざわざ戦わずともスキルを活かす職業などいくらでもある。
俺はソフィーナに木の棒を渡す。
「とりあえずこの木の棒を振って、体力をつけてくれ。数年したら、君もあの訓練に参加できるだろう」
「はい!!」
ソフィーナは元気よく返事をする。
やる気に満ちている。もしかしてソフィーナは冒険者になりたいのだろうか。
冒険者なんて普通の人間がなるものではない。ダンジョン制覇という夢に取りつかれた人間がなるものだ。
さらに俺のズボンが引っ張られる。
目線を下げるとゴーレムちゃん(仮)がいる。
こいつもソフィーナと一緒に棒を振りたいのか?
ゴーレムが運動しても能力はあがらないのだが……。そもそも鍛えるべき筋肉がないからな。ソフィーナと一緒に棒を振りたいだけなのかもしれない。
俺は棒のきれっぱしをゴーレムちゃん(仮)に渡す。
2人は真剣な表情で棒を振りはじめる。
下手だが、どんな達人でも、一度は通らなければならない道である。ソフィーナの人生は始まったばかり、何でもやってみる価値はあるはずだ。
皆が訓練している光景をながめていると、自分が新人だったころを思い出す。
皆、強くなろうとしているのだな。
俺も負けてはいられないな。
新人冒険者たちとゴーレムの訓練が終わった。
人間側の辛勝といったところだ。
正直、辛勝では困る。100回に99回勝ったところで、1回は負けることになる。ダンジョンでは1回の敗北が命取りになる。
それがわかっているからか、勝ったにもかかわらず、新人冒険たちに元気がない。
どうも自信を失っているようだ。
では、どうすれば彼らが強くなれるか。
俺は長年ダンジョンを捜索してきたから、答えを持っている。
「では次にパーティー単位で戦える方法を教えよう。個人がバラバラで戦うよりもずっと強くなる」
個人で戦うのではなく、集団として戦う。
ちゃんとパーティーとしての戦略をねれば、今の数十倍の戦力にはなれるだろう。
彼らは弱い分、伸びしろがたくさんある。
……そういえば。
王都にきてから、教師らしいことするのははじめてだな。
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