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第百七話 新人を教育するお話

 冒険者ギルドに入ったら、いきなりもめ事に巻き込まれた。

 ちょっと意味がわからない。なんだ、この展開は。


 言動からして、こいつらがギルドに所属している新人冒険者なのだろう。

 10人くらいいるだろうか。

 なるほど。みんな若いし、生意気な顔をしている。

 


「フフッ。あんたを倒せば、ダンジョンを制覇できると証明されるわけね!」


 特にこのリーダーの少女は自信まんまんである。


 別に俺を倒したところで、ダンジョンを制覇できるはずもないのだが。

 俺だってダンジョン制覇を目指す身。未熟者である。


 そんな俺からみても、彼らは素人に近い。まったく脅威を感じない。



 リリィからはこの新人冒険者たちを叩いて目を覚まさせろと依頼されている。

 やはり気が乗らない。自分よりも弱い人間を戦うのも嫌だし、ましてや女の子を攻撃するのもできればさけたい。

 勝負に男も女もないことは理解している。同じ冒険者なのだから遠慮もいらいない。わかっている。わかっているが。


 結局のところ、新人冒険者たちと戦うことを、俺自身が勝負だと思っていないからだろう。

 遊び……ではないが、真剣勝負だとも思えない。




「ところで、その猫耳の子供はなに? あんたの子供?」


「こ、子供!?」


 ソフィーナが驚いて、怒り出す。

 まあ、見た目は子供にみえなくはない。リリィも同じくらいの身長だが、あちらには長年受付嬢として仕事してきた雰囲気がある。


「え? 違うの? じゃあどうしてここにいるの?」


 俺はソフィーナの頭に手を置く。

 落ち着け。実際に暴力を振るうのは俺の役目だ。

 

「ソフィーナは俺のパーティーの仲間。馬鹿にするとこれからの戦いで、手加減ができなくなるぞ?」


「ふーん。こんな子供が仲間ねぇ」


「冒険者に年など関係ない。実力さえあれば子供でもダンジョン制覇はできる」


 ただ、年齢が上の方が実力もあるというだけのこと。

 この場合の実力とは、単に戦いの強さだけのことではない。強いだけではダンジョンを制覇はできない。モンスターの知識はもちろんのこと、パーティーを組むならば人脈も大切になる。


 総合的な実力が必要になるのだ。

 1つでも欠けては、ダンジョン制覇などできはしない。



「いいこというじゃん! じゃあ私たちにもダンジョン制覇はできるってことね!!」


 嬉しそうに語り合う新人冒険者たち。

 完全にダンジョンをなめているし、自分の実力を勘違いしている。



「なんだか、感じが悪い人たちですね。リリィさんに迷惑をかけて……」


「そうかな? 新人冒険者ならこれくらいは当たり前だと思うが」


 冒険者は無謀な夢を追う生き物。

 これくらい生意気ではなければ、そもそも冒険者になろうとしてはいない。ただでさえダンジョン制覇の途中で心が折れる冒険者は数多いのだ。


 リリィへの迷惑についても、俺自身の意見としては、王都の冒険者ギルドを出るのは当たり前だと思っている。王都にいても冒険者としての未来は存在しない。雑魚モンスターを倒して、かろうじて食っていけているだけだ。


 ならば、いちかばちかダンジョンで勝負するのは当たり前のこと。

 仮に俺が彼らの立場でも同じ選択をしただろう。リリィも冒険者ギルドから出ていくのを引き止めろとは依頼していない。


 

 問題は彼らが実力もなく、調子に乗っている点だ。

 ダンジョンの現実がみえていない。調べようと思えば調べられるはずだが、その気もなさそうだ。


 このままでは半年以内に、半分の人数が死ぬだろう。

 3年後には誰1人冒険者を続けられなくなってもおかしくはない。



 正直、俺はそれでもいいのではないかと思う。

 冒険者は自由と引き換えに危険とともに生きる。誰にも指示されないかわりに、誰も救ってはくれない。そんな職業なのだ。

 ここでの指導は余計なおせっかいかもしれないのだった。



 この点ではリリィとは決定的に違う。

 ギルドの職員として、できるだけ多くの冒険者に生き残って欲しいと願っている。素晴らしいとは思うが、とても俺にはまねできない。そこまで他人に優しくはできない。

 俺自身が未だにさらなる実力を求めている身なのだから。


 

 とはいえ、リリィと取引をした以上、今回ばかりは新人冒険者たちに指導しなければなるまい。



 俺はリリィに目線で合図を送る。


 リリィは小さくうなずく。

 許可は出た。冒険者流の指導を始めようか。



 まずは最低限の実力があるか確かめさせてもらう。



 俺は将来の夢を楽しそうに語り合っている新人冒険者たちの方に近づく。

 拳を握りしめる。挨拶かわりに殴りつけさせてもらおう。完全な不意打ちだが、この程度は冒険者ならば、誰でもかわせるだろう。

 スキルを使わないだけ、ありがたいと思って欲しい。



 ダンジョン内ではほぼ全てのモンスターが不意打ちをしてくる。

 ここが地上でのモンスター狩りとは一番違う点だ。常に周囲に気を配らなくてはならない。



「おい」


 俺は女のリーダーの前に立ち、拳を振るう。

 当然、女はかわすだろう。次はスキルについて習熟度をみせてもらおう。



 と、思ったが。


「ふぎゃ!?」


 リーダーの女はまともに食らって吹っ飛んでいってしまった。

 倒れたまま起き上がってこない。気絶してしまったようだ。


 

 ……。

 うーん。こいつら。あまりにも弱すぎないか?


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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