第百五話 王都の冒険者ギルド
俺たち3人は王都の冒険者ギルドへ向かっていた。
リリィの依頼を実行するためだ。
王都の新人冒険者たちは実際にはどれほどの実力なのだろうか。まあ、実力があったのならば、とっくにダンジョンへと旅立っているはずなのだが。
王都は今日も足の踏み場もないほど混雑している。辺境の街もにぎわっていたが、決定的に違う点もある。夜になっても混雑が収まらないことだ。
治安が良いわけでもないのに、どうして夜も混雑するのか。
この場所が国の中心、王都だからである。他に理由は見当たらない。王がいるところには特別な力が宿るものなのかもしれない。
「ソフィーナちゃんが超レアスキル持っている……ねぇ。全然そんな風にはみえないけど」
歩きながらリリィは疑問をぶつけてくる。
ゴーレムに意思を与えた話をしたが、あまり重大さを理解できていなさそうだ。ゴーレムちゃん(仮)を触ってみても信じないのだから、実際にスキルを鑑定してもらう他はない。
ソフィーナもゴーレムちゃん(仮)を肩に乗せ、微妙な笑みを浮かべている。
こいつ。まだ自分のスキルの希少性を信じていないな。俺が過大評価していると思ってやがる。
魔法生物を開発している研究者にしか、スキルのすごさは理解できないのかもしれない。
……まあいい。ギルドでスキルを判別してもらえばいいことだ。
俺が正しかったか今日中には結果がでるだろう。
「ソフィーナの協力がなければ、今ごろは学園を追放されていたのだぞ」
「だってソフィーナちゃんてさ。いい所のお嬢様にしかみえないし。内気だし。スキルが強いっていう感じじゃないんだよね」
確かに普通の服を着たソフィーナには上品さすら漂っている。
猫耳さえなければ、貴族のお嬢様といわれても違和感はない。元奴隷が変われば変わるものである。最初に会った時の虚無さと比較すると感慨深いものがある。
環境が人間を作る。
奴隷あつかいされれば奴隷に、貴族のあつかいをされれば貴族になる。
「そ、そんな私がお嬢様だなんて……」
顔を両手でおおい、照れるソフィーナ。
もしソフィーナが学校に通っていたら、すごく男にモテるに違いない。
「リリィさんだって、すごく可愛いですよ」
「そんなこと……あるけどね! ヘヘッ」
なんだこの会話は、ついて行けん。
自分たちの可愛さを褒め合ってどうする。
確かに2人ともは可愛いけど。さっきから通行人がチラチラことらをみているけど。
なんだか面倒くさくなってきた。
話を変えなければならんな。この手の会話に加われないことが、俺がモテない原因かもしれない。
「リリィ。王都の冒険者ギルドにはどれくらいの冒険者がいるのだ?」
「えー。もっとソフィーナちゃんと褒め合いたかったのに」
「これから新人冒険者を叩きのめさなくてはならないのだろう? 無駄話をしている暇はない。人数ぐらいは知っておきたい」
冒険者のランクは実力だけはなく、ダンジョン到達階層によっても決まる。
最下層まで行ければ、自動的にSランク冒険者になれる。ダンジョン制覇を達成すれば、最高のSSSランクだ。
王都にはダンジョンがない。
所属している冒険者は最低ランク、Eランクになる。
普通の冒険者ならば、王都へ出てダンジョンのある街へ行こうとするだろう。残っているのは新人くらいだ。
「そうですねぇ。20人くらいかな」
「少なすぎるな」
信じられん。
出ていく条件がそろっているとはいえ、この国で最も栄えている街の冒険者が20人しかいないとは。王都に住んでいる人間は数十万人いるはずなのに。
王都はほぼ全てのものが辺境の街よりも規模が大きい。
冒険者ギルドは数少ない例外だろう。ていうか、小さすぎるだろ。
「新人20人で冒険者ギルドが回せるのか?」
「雑魚モンスターを狩るしかやることがないからね。その雑魚モンスター狩りにしたって、国の軍隊が主で、ギルドはおこぼれをもらっているだけだし」
つらいな。想像以上に王都の冒険者ギルドは悲惨のようだった。
リリィはギルドを立て直そうとしているのだろうか。話を聞く限りでは絶望的である。そもそもギルド上層部にやる気がない気がする。
「なに他人事みたいな態度を取っているの、ノエルさん。あなたも王都の冒険者ギルドに所属しているんだからね!」
「……本当に?」
確かに俺には冒険者としての資格は残っている。
それでも20人の新人しかいない冒険者ギルドは勘弁して欲しい。
競い合って実力を伸ばすという次元ではない。
「本当も本当! ノエルさんはうちの最高実力者ですからね!」
……。
知らない間にギルドの最高実力者にされてしまった……。
冒険者ギルトに到着した。
建物をみるなり、つぶやかざるを得なかった。
「これが冒険者ギルドだって?」
個人の家よりも小さいのではないだろうか。
全体的に古びている。威厳の欠片もない。
これでは新人冒険者たちが出ていきたくなってもしかたがない。
引き止めるのは不可能だな。
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