表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪役令嬢に転生したらすでに断罪されてた。仕方ないので追放先で魔王を倒して商売繁盛します。

作者: 夏至たると

悪役令嬢モノなんて、もう遅いかもしれないけど書いてみた。

「ヴィオレット、君との婚約を破棄する!」


 シュヴァルツ王子は高らかに宣言した。


 事もあろうに、卒業式のダンスパーティーの最中。

 音楽がやみ、しんと静まり返る会場。


「マリア嬢に対する嫌がらせ、いや、あれはもう犯罪だ。というわけで君を国外追放する」


 シュヴァルツ王子はビシッと私を指した。


 周りの学生たちがざわめく。


 私は強烈な頭痛に襲われた。


 頭を押さえてその場にうずくまると、前世の記憶がよみがえる。



 前世の私は乙女ゲーム「星の学園フリューリンク」が大好きだった。


 主人公マリアはシュヴァルツ王子と恋仲になる。


 学園生活の中、悪役令嬢ヴィオレットの数多の嫌がらせをかいくぐり、シュヴァルツ王子との愛を育むのだ。


 終盤でヴィオレットの断罪イベントが起こり、マリアとシュヴァルツ王子が結ばれてハッピーエンド。




 そして今のこの状況、くだんのゲームのイベントそのままだ。


 シュヴァルツ王子はマリアの肩に手をまわして抱き寄せる。


 ざわめきはどよめきに変わった。


 もうダンスどころではない。


 私は頭を押さえて多少ふらつきながら会場を出た。


 廊下が長くて移動がつらい。



 どうにか控え室に着いた私はソファに斜めに座り、背もたれに突っ伏した。


 この状況、なんなの。


 幼少期からとは言わないけど、せめて入学前までに前世の記憶を取り戻したかったわ。


 そうすれば、破滅につながるイベントを回避できたのに。


 やくたいもないことをウダウダ考えているうちに、誰かがドアをノックしてきた。


 入ってきたのはシュヴァルツ王子。


「先ほどはすまない。言い方がきつかったな。婚約破棄ではなく、婚約解消だ」


「ほぼ同じです」


 謝るところ、そこじゃない。


 婚約解消は仕方ないとして、発表するタイミングがおかしいでしょ。


 楽しいダンスパーティーを台無しにするなんて。


「恨んでも構わない。国家間の友好のためだ。相手国がぜひ君をと申し出ている」


 と、シュヴァルツ王子は続けた。


「追放と言うからには、どこへなりとご自由に、では?」


 私は彼の方に顔を向けた。


 彼は「いいや」と首を振った。


「言い方がひどいな、政略結婚だと思ってくれ。本来、相手国はマリアの方を所望していたんだ」


 なら、そうしなさいよ、意味不明。


「マリア嬢は国内で唯一、光の魔法を使える。国として手放すわけにはいかない」


「デスヨネー。だから邪険にした私の方を追い出す、と」



 そういうわけで、私は追放された。


 追放する国があれば、受け入れる国もあるわけで。


 受け入れるということは、それなり経済が安定しているのだろう。


 貧乏国だとしたらそんな余裕ないはず。



 到着したのは見覚えのある国だった。


 武器屋に道具屋、宿屋、そして冒険者ギルド!?


 道行く人は甲冑姿に魔法使いっぽいローブに獣人、スタイリッシュなロボットも!?


 これ、私の好きなVRMMOゲーム「メタル・スフィア・ファンタジア」にそっくりだ。


 別ゲームの世界も混じってるの?


 ちょっと意味がわからない。


 でもわくわくしてきた。


 悪役令嬢が冒険者に転向ですよ?


 私は、はやる気持ちを抑えてギルドの建物に入った。


 中は外国の居酒屋ふうで、カウンター席があり、テーブル席が多め。


 そこで談笑している人も、壁際のボードを眺めている人も、みんな冒険者。


 ボードに貼ってあるのはクエスト? 魔物の討伐とか薬草の採取とか?


 私はカウンターまで行き、受付嬢らしき人に声をかけた。


「こんにちは。冒険者ギルドに登録したいのですが」


 あああ、ついにテンプレのセリフを言う日が来るなんて!


「はい、お名前をお願いします」


 受付嬢にはこの感動が伝わらなかった。まあこれが仕事だし。


「ヴィオレットです」


 私も事務的に答えた。


 苗字はいる? いらないか。追放されたし。


 受付嬢はハッとして「少々お待ちください」と席を立ち、慌ただしくカウンターから出てきた。


 え、なに? 私、何かした?


 と思ったら、受付嬢は私を無視して、談笑している人たちのいるテーブル席に向かう。


 彼女に声をかけられ、うちひとりが席を立ち、私の方に来た。


 私の作成したアバターにそっくりだ。


「はじめまして、ギルドマスターです。ヴィオレットさんのことはうかがっています」


 意外と礼儀正しい。


 ゲーム内ではタメ口だったから違和感がスゴイ。


 私も「はじめまして」とあいさつした。


「ところで、聖女として活躍すると、どうなると思います?」


 なんだその質問。


「『女だてらに』とか叩かれるんでしょうか」


 と、私は答えてみた。


 ギルドマスターは首を横に振った。


「聖女だから、それはない。答えは、貿易が有利になる」


 えー、マジか。


「君の祖国が『輸入したければ関税もっと払え』と言ったとする。こちらは『追放者を保護したのだからその分、関税安くしろ』ってな具合」


 ギルドマスターの話はわかりやすい。冗談を言ってる表情でもない。


「魔王を倒したら諸外国にマウント取れるよ」


「どこからそんな発想が!?」


「魔王および側近のドロップが高値で輸出できるんだよね」


 この人、すっかり商売人の顔になってるわ。


「これが世界平和の実態か」


 私は、ゲーム内で表現されない事情を知ってしまった。


 もう少し経済も勉強しておけばよかったな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ