悪役令嬢に転生したらすでに断罪されてた。仕方ないので追放先で魔王を倒して商売繁盛します。
悪役令嬢モノなんて、もう遅いかもしれないけど書いてみた。
「ヴィオレット、君との婚約を破棄する!」
シュヴァルツ王子は高らかに宣言した。
事もあろうに、卒業式のダンスパーティーの最中。
音楽がやみ、しんと静まり返る会場。
「マリア嬢に対する嫌がらせ、いや、あれはもう犯罪だ。というわけで君を国外追放する」
シュヴァルツ王子はビシッと私を指した。
周りの学生たちがざわめく。
私は強烈な頭痛に襲われた。
頭を押さえてその場にうずくまると、前世の記憶がよみがえる。
前世の私は乙女ゲーム「星の学園フリューリンク」が大好きだった。
主人公マリアはシュヴァルツ王子と恋仲になる。
学園生活の中、悪役令嬢ヴィオレットの数多の嫌がらせをかいくぐり、シュヴァルツ王子との愛を育むのだ。
終盤でヴィオレットの断罪イベントが起こり、マリアとシュヴァルツ王子が結ばれてハッピーエンド。
そして今のこの状況、くだんのゲームのイベントそのままだ。
シュヴァルツ王子はマリアの肩に手をまわして抱き寄せる。
ざわめきはどよめきに変わった。
もうダンスどころではない。
私は頭を押さえて多少ふらつきながら会場を出た。
廊下が長くて移動がつらい。
どうにか控え室に着いた私はソファに斜めに座り、背もたれに突っ伏した。
この状況、なんなの。
幼少期からとは言わないけど、せめて入学前までに前世の記憶を取り戻したかったわ。
そうすれば、破滅につながるイベントを回避できたのに。
やくたいもないことをウダウダ考えているうちに、誰かがドアをノックしてきた。
入ってきたのはシュヴァルツ王子。
「先ほどはすまない。言い方がきつかったな。婚約破棄ではなく、婚約解消だ」
「ほぼ同じです」
謝るところ、そこじゃない。
婚約解消は仕方ないとして、発表するタイミングがおかしいでしょ。
楽しいダンスパーティーを台無しにするなんて。
「恨んでも構わない。国家間の友好のためだ。相手国がぜひ君をと申し出ている」
と、シュヴァルツ王子は続けた。
「追放と言うからには、どこへなりとご自由に、では?」
私は彼の方に顔を向けた。
彼は「いいや」と首を振った。
「言い方がひどいな、政略結婚だと思ってくれ。本来、相手国はマリアの方を所望していたんだ」
なら、そうしなさいよ、意味不明。
「マリア嬢は国内で唯一、光の魔法を使える。国として手放すわけにはいかない」
「デスヨネー。だから邪険にした私の方を追い出す、と」
そういうわけで、私は追放された。
追放する国があれば、受け入れる国もあるわけで。
受け入れるということは、それなり経済が安定しているのだろう。
貧乏国だとしたらそんな余裕ないはず。
到着したのは見覚えのある国だった。
武器屋に道具屋、宿屋、そして冒険者ギルド!?
道行く人は甲冑姿に魔法使いっぽいローブに獣人、スタイリッシュなロボットも!?
これ、私の好きなVRMMOゲーム「メタル・スフィア・ファンタジア」にそっくりだ。
別ゲームの世界も混じってるの?
ちょっと意味がわからない。
でもわくわくしてきた。
悪役令嬢が冒険者に転向ですよ?
私は、はやる気持ちを抑えてギルドの建物に入った。
中は外国の居酒屋ふうで、カウンター席があり、テーブル席が多め。
そこで談笑している人も、壁際のボードを眺めている人も、みんな冒険者。
ボードに貼ってあるのはクエスト? 魔物の討伐とか薬草の採取とか?
私はカウンターまで行き、受付嬢らしき人に声をかけた。
「こんにちは。冒険者ギルドに登録したいのですが」
あああ、ついにテンプレのセリフを言う日が来るなんて!
「はい、お名前をお願いします」
受付嬢にはこの感動が伝わらなかった。まあこれが仕事だし。
「ヴィオレットです」
私も事務的に答えた。
苗字はいる? いらないか。追放されたし。
受付嬢はハッとして「少々お待ちください」と席を立ち、慌ただしくカウンターから出てきた。
え、なに? 私、何かした?
と思ったら、受付嬢は私を無視して、談笑している人たちのいるテーブル席に向かう。
彼女に声をかけられ、うちひとりが席を立ち、私の方に来た。
私の作成したアバターにそっくりだ。
「はじめまして、ギルドマスターです。ヴィオレットさんのことはうかがっています」
意外と礼儀正しい。
ゲーム内ではタメ口だったから違和感がスゴイ。
私も「はじめまして」とあいさつした。
「ところで、聖女として活躍すると、どうなると思います?」
なんだその質問。
「『女だてらに』とか叩かれるんでしょうか」
と、私は答えてみた。
ギルドマスターは首を横に振った。
「聖女だから、それはない。答えは、貿易が有利になる」
えー、マジか。
「君の祖国が『輸入したければ関税もっと払え』と言ったとする。こちらは『追放者を保護したのだからその分、関税安くしろ』ってな具合」
ギルドマスターの話はわかりやすい。冗談を言ってる表情でもない。
「魔王を倒したら諸外国にマウント取れるよ」
「どこからそんな発想が!?」
「魔王および側近のドロップが高値で輸出できるんだよね」
この人、すっかり商売人の顔になってるわ。
「これが世界平和の実態か」
私は、ゲーム内で表現されない事情を知ってしまった。
もう少し経済も勉強しておけばよかったな。