第9話 百万 一与 ⑨
少しの沈黙の後、開円が胡坐をかきながら、声大きく話始める。
「私も、あのゲートを見た瞬間に、今後我々は情報伝達に制限をかけなければならない。そして、それによる疑心暗鬼から、非常にデンジャーな状況の中を静かに、かつ確実に歩んでいかなきゃならねぇ、クソめんどくせぇと思いましたね」
「その通りじゃ、この状況では国から離れての忠実な行動、および正確な報告を任せられるものを選定するにも、多大な時間を要してしまう。しかし猶予は刻一刻とせまる。イチ、この話の意図が見えてきたかの?」
「 報告の内容に疑いがなく、ここから離れても八つ国の戦力が引かれない者 …… 」
「トットット、勘がいいのぉ」
イチは暫し目線を誰とも合わせずに考えを空に巡らせていたが、ハッと気づいた様子で、ヤチホコの伝えたかった想いを察した。
「僕だ …… 」
「うむ、結果的には我々の問題をも押し付けるようで非常に心苦しいが、今考えられるのはそういう事になる。じゃが、能力者ではない人間が、国外へ出る事は八つ国では禁じておる。実行するにはイチは二週間後の認定試験に合格しなければならなん。カイエン、イチの状況はどうじゃ」
「正直に申し上げます。イチは家族、親族に能力者はおらず、先天的な引き継ぎはまずねぇと考えて間違いないかと思います。後天的な可能性になりますが、現状ではスパイダーチャートでも、能力はもとより肉体的にも基準値以下の成績で、残り二週間という期間ではクソ厳しい結果に終わるものではないかと思われます」
カイエンは偽りなく、手元のデバイスに表示されている資料データを報告する。
「ふむ、イチよ、この状況をどう考えるかの?」
「僕は …… それしかないのであれば、認定試験に合格し、ハレヒメのもとへ行きます」
「切迫している状況に置いて無謀な策略は、時間を失うだけではなく、周りを巻き込み大きな損害を与えるものじゃぞ?」
八千矛はイチに少しだけ焦りを与え、気持ちに揺さぶりをかけている。
「僕は必ずハレヒメのもとへ行く!」
イチはそれらを理解した上で、強い覚悟を八千矛にぶつける。
「負荷を経て高く跳ぶ.......か。よかろう、ワシどもも一つ国の動向は少しでも得たい。一つ約束してくれるか? 仮に無謀な事であれば二週間も時間はさけぬ。一週間後に再度ここへ姿を見せにきなさい。認定試験に挑むに足るかはそこで判断しよう」
八千矛は自らが無謀な願いを伝えている事は充分に認識はしていた。
それは、ここにいる誰もがそれを理解をしており、そして、望みは薄く、儚く散る可能性をも同時に思い描いていた。
ただ、イチだけは晴姫への想いを胸に、覚悟を決めていた。