第7話 百万 一与 ⑦
「ハチモン、4Dプロジェクターにバアル国王の演説内容を写してもらえるかの。後半部分で構わんぞ」
—— BuUn
八千矛がそう伝えると、イチ達の目の前に立体的な書物が浮き上がり、パラパラとめくれていくと同時に自動ナレーションで読み上げていく。
—— 化物とは私が打ち勝ってみせる! 安心せよ! ただし、いつか次元の異なる悪しき世界との争いが起きる。慈愛の欠片も無い、非道極まりないもの達との争いには、我々は必ずしも勝利しなければならない。私一人では太刀打ちがいかぬ。私一人では勝利へ至らぬ。その為には皆の者、国民自らが立ち上がらなければならない。誰しもが特別な力を持っている。ジンを広めアラウザルを集めよ。力を蓄えよ。自らのその手で世界を守り抜いてみせよ。共に歴史に名を刻むのだ。
さぁ、国民よ立ち上がるのだ! そして勝利の嵐を起こそうではないか!——
力強く放たれた言葉の後、その立体的な書物は閉じられ空間に消えた。
「このバアル国王の演説の後、それまで化物への絶望に活力すらなかった国民は、希望を見つけ、目標を定め、ジンの習得、能力者の収集に精を出し始めたのじゃ。次第に一つ国は秘密裏ではなく、公に最優先重要軍事事項として、能力者の収集を始めた。国民も、自分達が世界を救うのだという志の元に、手段を問わず強制的に能力者を収監し始めたのじゃ。その後も数を重ねられた演説の力は国を渡り、隣国諸国ですら、今では最早拐われたとは思ってはおらん。選ばれし者と呼ばれ、その一家は祝福すらされておるのが実情じゃ。」
八千矛は力強い眼差しで話しを続ける。
「イチにも訪ねたいと思うが、ワシは人々を心から救おうと命を捧げている者が、国民を争いに巻き込んでまで勝利しようなどと考えるものなのかと思うておる。八千矛家は、先祖代々、医術を発展させ人々を痛みや不安から救えるよう誠心誠意努めてきた一族じゃ。人を救うという道を歩む者が、どんな形であれ争いを望む事などあってはならんはずじゃ」
気づけは八千矛は、想い高ぶったのか超低空電動立ち乗りスカイボード(電スカ)の上に立ち上がっていた。
「僕は …… まだ受け止め切れてはいませんが、ハレヒメを突然連れ去ったのがバアル国王の意思によるものであるのであれば許せない。選ばれし者なんて関係ない。ハレヒメはそんなの望んでいない」
イチはこれまで刷り込まれてきた聖者への念を少しづつ修正していく。
ヤチホコは電スカから降りると、歩きながら話を続ける。
「一つ国が、収集に狙いをつける日は、多くはジンの認定試験日前後じゃ。近年では生魂神社でも認定試験日付近は特に警戒し、事前に能力者へは神職の担当を設ける事で収監を防いできたが、今回は認定試験日よりも2週間も早く、さらにゲイトを使って拐う事など今まで一度もなかった事じゃ。これは流石に想定外であった。そして更に想定外であった事がもう一つある」
八千矛は歩みを止め、イチに目を向けた。
「もう一つ …… ですか?」
「うむ、確認じゃがハレヒメはジンを扱えるか?」
「いえ、お恥ずかしい話ですが、僕の家族は両親を含め誰もジンが扱えていません」
「うむ、その事からも一つ国は、ハレヒメを収集の対象とした訳ではないと考えておる。」
「 …… どういう事ですか?」
「言い出しにくいがな …… これはゲイトの分析から分かった事なのじゃが、一つ国はおそらくハレヒメではなく、トーレを狙っていたはずじゃ」
「なんだって! …… 」