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6.季節時


 一つの季節が進んで夏の暑さはなりを潜め、秋の紅葉が近づいてきた。夏はあんなに鬱陶しかった蝉の鳴き声も秋が深まってくると少しだけ恋しく思う。

 あれからも私と先輩たちの交流が続いている。そして風季も先輩達と仲良くなった。その中でも名良橋先輩とはうまが合うらしく、会ったら私の知らないところで盛り上がっている。私たちはそんな2人の様子を見て笑い合う。ここ最近の私の穏やかな時間が確かにそこにはあった。

 だけど私は同時に手を背けて考えないようにしていた。私が2年生で先輩が3年生。

この時間の終わりも、もうすぐ先であると言うこと。


「……御守さん?」


 東谷先輩のこえではっと我に帰る。ボーッとしていたようだ。いけないいけない。

 心配の声をかけてくれたが私は大丈夫ですといって、先ほどまで話していた内容を聞き返した。


「すいません、大丈夫です。あ、何でしたっけ?」


「うん、もうすぐ中間テストがあるよね。だから近くの図書館で勉強会でもどうかなって」


 なるほど、それはとてもありがたいお話だ。私も風季もそこまで頭が良いとは言えないので、先輩達と一緒に勉強するのはいいかもしれない。


「良いですね、風季も誘ってみます。いつからやりますか?」


「詳しくはまだ決められないけど、今日か明日の放課後からなんてどうかな?善は急げ、なんて言うしさ」


 今後の私達の予定を決めていたら昼休み終了のチャイムが鳴った。先輩の提案を了承して、私達は別れた。


「じゃあ、また放課後に」


「はい、また放課後ですね」



6時間目の授業が終わり、HRも終わりを迎えた今、私は風季一緒に玄関まで来ていた。もちろん先輩達と合流するためだ。すると風季が何かに気がついたように声を上げた。


「あ、狐だ。珍しいなー」


 風季の視線を辿っていくと、玄関前に座っている狐がいた。私達を見ているようにも感じるくらい、その場所にじっとしていた。人がここまで近づいても逃げない動物は確かに珍しいなと、ジリジリと近寄っていく風季を止めながらそう思った。


「いやー、ごめんね!遅くなっちゃった」


 と、そこに溌剌(はつらつ)にやって来た名良橋先輩。続いて東谷先輩、錦木先輩たちも来た。先程まで居た狐はいなくなっていた。まぁ、いいかと思うことにして、先輩たちと合流して私たちは図書館へと向かった。



***


 環境というのは大事なもので、環境が変われば効率もガラリと変わる。それに合っているかどうかで。私達は合っていたようでとてもスムーズにテスト勉強に励むことができた。ふと時計に目を向けると2時間近く経っていて、窓の外も少しだけ薄暗くなっていた。


「うーん、そろそろ18時になりそうだし、この辺りで終わりだね」


 伸びをしながらそう切り出す名良橋先輩。確かにもう良い時間である。各々、帰り支度を済ませていく中、私はふと目に付く小説あった。

 『気持ちを伝えて』。

 ドクンと心臓が強く脈打つのがわかった。そんな時、後ろから東谷先輩が声をかけてきた。


「どうしたの?御守さん」


「いっ、いえ……何でもないです。行きましょう」


 小さくヒュッと息が漏れた。気付かれないように早口で言葉を継ぎ、勉強道具を仕舞う。気がつくと皆は帰り支度を済ませていた。急いでカバンを背負い、先輩たちの元へ走った。


 あれから先輩たちと風季と別れて、一人の帰路の中、私は表に出てきた気持ちを飲み下す。その気持ちに蓋をするのだ。でも、蓋をしても溢れて出してしまう。

 分かっている。知っている。気づいてる。……気付かなきゃ良かった。でも、自分は偽れない。ーーあぁ。

 私は先輩がーー。

 東谷朔(あずまやさく)が好きだ。

 でも、告白はしない。告白なんてできない。もう少しで終わってしまうとしても。私は先輩たちのこの関係が好きだ。

 周りをちょっとだけ振り回す名良橋先輩。それに嫌そうに返事をしながらも何処か楽しそうにする錦木先輩。そんな様子を見ながら自分もちゃっかり輪に入る東谷先輩。その関係の中においでと手招きをされた私と風季。

 そんなこの時間がたまらなく愛おしいのだ。だから、私は自分の気持ちに蓋をして残りの時間を過ごすのだ。大丈夫、先輩からは思い出をもらった。だから、大丈夫だ。

 気づけば涙が溢れていた。ごめん、私。やっぱり取り繕うなんて出来ないよね。ごめんね、でも決めたんだ。だから今だけは泣こう。泣き終わったら、いつもの私に戻るのだ。

 家に帰ってから、もう一度だけ泣いた。開けていた窓から吹いてきた風は、とても冷たかった。

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