ボランティアにて、その三
間が開いてしまったので、こそっと。
宜しければ、つじあやの様の「風になる」をBGMとしてお読み頂ければ。
全校集会での校長先生の長ったらしい会話とその次にあったHRの聞く気の起きない話に退屈しながら窓の外に視線をやる。雲ひとつ無い青空が広がっていた。
ついに、夏休みが始まる。
HRを終え、私と風季は校門前に集まった。私達のほかに何人かの生徒もいるようで幾分数が多い気がする。生徒会長からの挨拶と簡単な説明をされ、それぞれに大きな袋と火バサミを渡される。班は決まっているらしく、説明の時に渡されたプリントにそれは書いてあった。
「風季とは違う班になっちゃったね」
「うわぁー、寂しいよー」
そう言って、泣くような真似をしながら私の方に抱きついてくる。なので、よしよしと慰めてあげる。
しばらく抱きしめていたが、パッと離れて「行ってきまーす」と言いながら走り去っていってしまった。……変わり身早いな、おい。
そうして、風季の後ろ姿を見送りながら私も自分の班の場所に行くことにする。
「……えっと、私と同じ班の人は」
「あっ、もしかして同じ班の人ですか?よろしくお願いしますね」
私がキョロキョロと周りを見ていると後ろから声をかけられた。振り返ると男子生徒がそこにいた。しかも先輩だ。
この陣ノ内高等学校は学年ごとにネクタイとタイの色がちがう。一年生は緑色、二年生は赤色で三年生は青色になる。彼のネクタイの色は青なので三年生だ。
お願いしますと言われたので、私も同じように返して彼の後に続いた。
私と彼のほかにはもう既にメンバーは集まっていたらしく、ほのかに雑談していた。私たちも入れて一学年ごとに二人ずつの計算で、計六人。それがこのボランティアでの私の班となる。彼の到着に気づいた三年の女の先輩がこちらに手招きしていた。
「朔!こっちこっち。あんたで最後よ」
「ごめんごめん、遅くなっちゃった。自己紹介はもう終わった?」
女性の先輩はこれから始めるところだった、と言って一年生の方から紹介を促した。私の番もすぐに終わり、先輩の番となった。
「僕は東谷朔です。今日は一緒に頑張りましょう」
「はいはーい!次は私ね。わたしは名良橋皐月ね。よろしく」
優しそうな人と元気な人だなと、私は東谷先輩と名良橋先輩の第一印象はそのように感じた。
私の主観だったのだが、ボランティア活動など広域の清掃活動は個人で手分けして清掃すると思っていたのだが、どうやら私のあては外れたらしい。
今回のこの活動は皆で清掃をし、親睦を深めようというものらしかった。
他の人達が先輩や後輩たちなどと話しているのを遠目で見ながら、私は黙々とごみを拾っていく。風季が居れば良かった、と少しだけ思った。
「わっ、すごい。もうそんなに集めたんだ」
後ろから聞こえた声に驚いて振り返る。するとそこには東谷先輩と名良橋先輩がいた。先程まで違う人達と話していたと思ったのだが、どうしてこちらに来たのだろうか。
疑問には思ったが、仕事ですのでみたいなニュアンスの答えを返して掃除を再開した。……うぅむ、距離感が分からない。今の返答は少し失礼というか何とも素っ気なさ過ぎではなかっただろうか。ちょっとだけモヤモヤしながらも私はごみ拾いの手を止めはしなかった。
「うーん、やっぱりこの辺りはごみが多いね。たばこにペットボトル……うわっ、靴まであるよ」
「要らなくなったのかしら?でもこれ、新しいわよ」
……あの、なんで私の近くなんですかね。いや、別に良いんですよ?ただ近くないですかね、距離が。物理的に。
なんで、こう……ぴったりと後ろを着いて来るのだろうか。あと、よく見つけますね。逆にどこにあったんですか、私が見た時には無かったですよね?先輩たちの手際のよさに驚きながら私はごみを集めていく。
「あっ、こんな所に雑誌が落ちてる」
「おっ、エッチなやつ?」
そんなもん落ちてたら嫌だわ。なんで女性である貴女のほうが食い付きがいいんですか、普通逆でしょ。
東谷先輩は顔を横に振ってファッション誌だよと言い、名良橋先輩に見せる。それに名良橋先輩はつまんねーと呟いた。
「……なんでアニメの人形が落ちてるんだろう。不思議だ」
「どれどれ。……なんだ男か、イラネ」
いらないと言った後、即座にゴミ袋に放り投げた名良橋先輩。そんな様子を見ていてなんだかいい雰囲気の先輩たちだなと感じ、そのやりとりを見て思わず笑ってしまった。2人はなんで私が笑ってるのか解らず首をかしげていたのだが、それもおかしくてまた笑った。
時間にして約1時間と少し経って、そろそろ戻る時間が近づいてきた。手に持ったゴミ袋にはそこそこ量があり重くなっていた。先輩たちは私よりも多くゴミを集めていてこんなにも落ちているのかと改めて驚愕させられた。先輩たちとはさすがに少しは話すようになった。
「へー、じゃぁ今日は友達と一緒にきたんだね」
「はい。特に夏休みはやることがなかったので、せっかくなのでボランティアにでもいいんじゃないかと言う話になりまして」
私が先輩はどうだったのかと聞くと、私とは逆だったらしく東谷先輩の方が友達を誘ったらしい。名良橋先輩とあともう1人を誘ったのだがそのもう1人が予定があってボランティアは来れなかったとのことだ。
「……ところで、御守ちゃん揉ませてもらっても良かですか?」
「は?」
今まで、東谷先輩と名良橋先輩の話を聞いていて猫の話やお弁当の話とかだったのに名良橋先輩はいきなり何を? 私の思考はそこで一旦停止した。
「大丈夫。男がやると完全なセクハラだけど女の私がやればセクハラじゃないから」
そう言いながら私のほうににじり寄ってくる先輩。やめて、手をわきわきさせないで。
「はいはい、皐月も落ち着いて。いくら御守さんが好みの女性だからって犯罪ですよー」
「失敬な、それじゃあ私が女性が好きなやつみたいじゃないか。私が好きなのは男性で、これはラブじゃなくてライクだよ」
そういう話じゃないからとパコンと頭を叩く東谷先輩。先輩が私の前に出てくれたので自然的に私は彼の背に隠れた形になっている。会ったばかりの先輩が頼もしく見える。
それから校門前に着くまで皐月は朔によってガードされ、目的は果たせず、友もまた若干怯えてしまい終始、朔の背に隠れていた。