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Chain Reaction

作者: 芝田 弦也

久方ぶりに君を見かけた気がする。

最後に君の姿を認めたのはいつぶりの事になるんだろう。

今までは交差点の角にある喫茶店に入り込んで、時間を食いつぶしてお店から出てきていたね。

何を頼んでいたのか皆目検討がつかないけど、そこがお気に入りで有ったという事は毎日通っていた姿を見かけていれば分かることだ。それが、ある日を境に忽然と姿を見せなくなってしまったから、心配していたよ。

もしかして何かの持病で倒れ込んでしまって、それきりとか在るかも知れないんだから。

でも、そうでは無いようで安心したよ。

以前と変わらない佇まいからは、持病の何がしかで休んでいたようには見えなかったから。


今までと同じ生活スタイルを今日から解禁したと言う事でいいんだよね。

皺ひとつないピシッと決まったスーツを着こなして、迷いのないハキハキとした歩みは今見ても清々しいくらいだ。

カツカツとヒールの音を鳴らして、横断歩道を踏み歩いて近づいてくる様は、今だに居心地の悪さを感じるものだ。

君は何事も無かったかのように、交差点を渡り歩いて立ち止まることなく通り抜けて行ったね。


もしかして、君はもう無かったことにしたのかい?  あの朝の日の出来事を。

麗らかな朝の柔らかい日差しを浴びながら、微睡みから覚めやまぬ心地の良い時、閉じていた瞳に黒々とした影を感じ、はたと目を開けた時には目前に差し迫る、刺の生えた様な物が見えていた時のおぞましさが分かるかい?

恐怖を感じながら、忽然と意識が遠のく感覚が分かるかい?

分からないだろう? それは当事者にしか分からない感覚なのだろうからね。


だから君だけは、生かしておく訳にはいかない。

折角再び巡り会えた奇跡だ。この機会を逃す訳にはいかないのだ。

朝日に照らされ君の後ろ姿に生えた、もう一人の姿見に取り込ませてもらうとしよう。

君は何も気にせず、歩み続けるだろう。でもそれもいつまで続くかな?

影が動きを止めた時、その辻褄に合わせるように本体も止まることだろう。

いつもの様に交差点を渡り歩く君。 でも、今日はいつもと勝手が違うはずだ。

点滅する横断歩道の中、意思に反して体が言うことをきかなくなる。


そこに照準を合わせたように突っ込んでくる、命を刈り取る為に表れた様な鉄の猪。

君にも分かることだろう。目の間に迫ってくるあのおぞましさが。

惜しむらくは、君がどんな表情を浮かべているのか見えないことだ。

あはははははははははははははははははは。

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