第1話「女神に転生」
(今日は)初投稿です。まだプロローグなのにブクマしてくださった方、本当にありがとうございます。ちょっとやる気出てきました。
暖かい闇の中で、意識が目覚めた。
暗闇の中で、明滅する何かが、前に後ろに、右に左に、上に下に漂っている。
何かが波のように押し寄せてくる。
光が徐々に、瞳の奥から広がる様に溢れだす。
眩しい。
自分が立っているのか、寝転がっているのかも不確かな浮遊感。
赤に、青に、緑に。
七色に煌めき、揺れ動き、定まらない世界。
ぐにゃり、ぐるり、ぐちり。
歪み。混ざり。溶け合い。
まるで眼球に張られた油膜のテクスチャ。
手が無い、足が無い、頭はどこだ。
溶ける。
情報が津波のように俺の身体を滅茶苦茶にする。
塞ぐ耳は無く、耐えがたいほど煩い。
塞ぐ鼻は無く、痛いほど匂う。
塞ぐ瞼は無く、極光が眼球を刺す。
皮膚が剥かれ。
筋肉は削げ落ち。
内臓は溶け。
骨格は砕け。
剥き出しの魂に情報が押し寄せる。
それは酩酊に似ていた。
「げほッ…………!」
咳込み、肺に染み渡る清涼な空気に意識が覚醒する。
感じたのは、ほんの一瞬の喪失感と余韻のような全能感。
空間転移系の魔法を使用した際の感覚に似ているそれは唐突に終わりを告げ、目の前に広がっていたのは日光を反射して煌く一面の銀世界。まるでオーロラが掛かっているかのように、辺りが虹色に光り、うねり、眩暈がしそうなほど美しい景色が広がっていた。
異様に研ぎ澄まされた感覚。
神経が剥き出しになっているかのように感じていた色、音、匂いが遠ざかっていく。
俺は立っても寝転んでもなく、雪原に座っていた。
身体はある、肉の重みを感じる。
今のは一体何だったのか。
見上げた空は青く、太陽の高さから正午前後だろうと予想が付く。
見渡す限りの雪、雪、雪……たまに岩。雪山の山頂だった。
深呼吸をすると、肺に冷たい雪の香りと微かな土の臭いを感じた。
転移酔いから戻ったのか視界が徐々に安定してくると、広大な山岳地帯に飛ばされたのだと理解する。
遥か彼方には、城塞都市のようなものが見えた。
聖法国だろうかと記憶を漁る。
――匂い?
首を傾げる。
ゲーム内で匂いはかなり制限された要素の一つだ。
触覚や嗅覚、味覚というものがゲーム内でハッキリと感じられてしまうと、現実世界へログアウトした際に様々な弊害が発生する可能性がある。
例えば、食事を取った気になりプレイ時間が伸びてしまい、空腹による体調不良になったり。
本来あるはずのない器官――例えば翼や三本目、四本目の腕など――の感覚が抜けず、現実世界で幻肢痛のような症状になったりすることもある――らしい。
今感じたような、微かな匂いまで嗅ぎ分けられるようなことは今まで無かった。
肺に感じる冷たさも新鮮な感覚だ。
周囲に植物はほとんど見当たらず、森林限界の境界線が遥か下に伺えた。
凄い所に飛ばしたな……。
右手を振り、ゲームのシステムコンソールを開くジェスチャーを行う。
見慣れないエフェクト――平面の一次元魔方陣が浮かび上がり、セレスの目の前に見慣れた操作パネルが投影された。
――セレス。
見慣れた画面。
その他のステータスも眺めていく。勝手に技術や加護などが増えている。
<不老不滅><千里眼レベル10><思考加速レベル10><危険予知レベル10><物理耐性レベル10><魔法耐性レベル10><極限環境耐性レベル10><高速再生レベル10><精神攻撃耐性レベル10><毒耐性レベル10>etc...
酷いチートのオンパレードだ。
ゲームマスターでもこんなに盛ってはいなかった気がする。
下方への視界を妨げる、たっぷりと実った乳房は自分のデザインしたキャラクターそのものに見える。
レベルやステータスに大きな変化は見られなかったが、魔法やスキル使用時の消費魔力が大幅に増えていた。
そして今まで見たことのないSP<スペシャルポイント>の表記。量を示す色付きバーの横の数値には0と書かれているが、表示はHPとMPが満タンなのと同様に上限いっぱいまで満ちている。
指先で長く触れることにより、SPに関する説明文が浮かび上がった。
――根源たる力の使用量。一定の数値を超えるとペナルティが発生する。
「……?」
こんな要素は今まで無かった。
別ゲーム?
別バージョン?
思考を巡らせていると徐々に急な転移による動揺が収まっていき、更なる違和感がセレスを襲う。
「ん? んん……?」
全身に冷たい風を感じる。両手を握ったり閉じたりすると、まるで全身に活力が漲っているかのうようだった。身体が軽い――ゲーム内特有の、半分夢の中のような曖昧な感覚が無く、知覚は現実世界よりも鋭敏なように感じた。手の平同士を重ねてみると、現実世界のようにハッキリと柔らかさを感じる。
――おかしい。
明らかに、ゲームとしてリアル過ぎる感覚に冷や汗が出る。
まさか。まさか。まさか。
緊張により鼓動が高鳴り、血管がドクンドクンと脈打つのを感じる。
――脈まで感じるなんて、どう考えてもおかしい。
右手を振ってARコンソールを開き、ログアウトのボタンを探す。
そこにはあるべきはずのものが無かった。
元からそういうデザインであったかのように、ログアウトボタンが消えている。
「…………」
無表情でコンソールを閉じ、黙って自らの股間を撫でる。
ゲーム内では触覚が完全に遮断されている箇所だ。
当然のことながら、かつて自分にあったはずの棒と玉二つは無い。自分の物とは思えない細い指先に感じる確かな膨らみは、ピリリと鋭敏に刺激を感じ取った。
「な、なるほど……」
震える声。これはゲームと同じ、好きな声優の生データからサンプリングして作成した合成音声。しかし、これもいつもよりも滑らかに聞こえる。
両手はゆっくりと、自分でモデリングしたというのに長年お預けを食らっていた豊満な胸元へ伸び――――。
ガッチリと、その両手に勝利をつかみ取る。
悪く無い。
ああ、悪く無い気分だ。
ずっしりとした重さ、弾力がありながら指先を呑み込むような柔らかさ。
これは良いおっぱいだ。
「フッ……なるほどな……」
これはいわゆる異世界転生って奴だ――――たぶん。
活動報告でも書きましたが、一週間分くらいは書き溜めがあるので毎日投稿できたらよいなと思っております。