プロローグ①
『面白さ』とはいったい何なのか分からなくなったので初投稿です。
VRMMORPG<virtual reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game>
『神々の黄昏』
西暦2165年に株式会社ワールドソフトウェアより発売された仮想現実体感型のクラウドゲームであり、15年が経った西暦2180年現在においてもトップセールを記録し続けている。
俗に『未帰還者』と呼ばれる廃人ゲーマーを大量生産したモンスターゲームだ。
プレイヤーはヘッドセットを装着しベッドに寝転ぶだけで、ゲームの世界にて五感を得ることが可能となる。
それが当たり前になって15年。
2100年代に開発された脊椎損傷や神経麻痺となってしまった患者への治療効果を期待され、医療用として開発されたシステム。それを改良したものであり、安全性や安定性は折り紙付きであることが流行の助けとなったのは間違いない。だが、それ以上に神々の黄昏にはこれまでのゲームと一線を画する特徴が多々あった。
視覚、聴覚は当然のこととして、感度は悪いものの味覚、嗅覚、そして触覚まで再現される。
地球の約4分の3程度の面積を誇る広大なオープンワールド。
現実世界が見劣りするほどの美麗なグラフィック。
弄れないところが無いほど自由度の高いクラフト要素。
直感的に操作できる上に奥深い魔法のシステム。
歯ごたえのある戦闘やサバイバル要素。
など、新時代の次世代コンピューターゲームに恥じない売りの数々。
プレイヤーたちは人間、エルフや獣人に代表される亜人種、悪魔や不死族に代表される魔族、魔物に代表される異形種、魔法技術により作られた機人族などの様々な種族から自分の分身を作り出し、創世の三大神であるフルト、ルクス、レインベルド――それぞれ秩序、混沌、繁栄を司る――により創造された世界。『カタフィニア』という海洋性惑星を冒険することができる。
剣と魔法(とたまに重火器)のファンタジーだ。
プレイヤーは三体の神の代理として三つ巴の終末戦争を繰り広げたり、未踏の大地や財宝を求めて冒険をしたり、牧場や農家を経営してみたり、マップの大半を占める海中にロマンを求めたり、未知なる強敵を求めて山脈やダンジョンを旅したりと様々な遊び方をすることができる。
世界には三大神が残したとされる力の結晶 『断片』 < 『欠片』 < 『塊』 が散らばっており、プレイヤーは魔物を狩ったり薬草を採取したりすることによってそれら集め、成長していく。
基本レベルの上限は100だが、現在発見されているだけで800種は下らない技術と魔術も最大10レベルまで上げられ、さらに熟練度もあるなど戦闘関係のやり込み要素は多い。さらには習得したスキルやマジックに応じて習得できる職業などの熟練度などもあり、組み合わせは無限大とも言える。
同時接続数記録が最大時で3000万人にも及ぶ膨大なプレイヤーたちでも探索しきれない広大なマップは、今現在もアップデートにより拡大を続けてられている。発売から五年経った今でも、未発見の町やダンジョンが多数ある膨大さだ。
魔術のシステムはやや複雑で、矩形文字と言うルーン文字をやや角ばらせた独自の音節文字により立体魔方陣を構築し、そこに発動の鍵となる魔力を伴う音声を流し込むことにより魔術を発動させる。
これはこのゲームをしたことのない人間であればかなり難解で、面倒臭いシステムのように思えるだろう。だが、ゲームシステムの補助により一度学習した魔方陣の構築や呪文の詠唱はスムーズに行え、熟練度が上がれば無詠唱でイメージ通りの魔術を発動できるようになる。
また技術に関しても同様で、剣術を例に取れば技を習得した時点でシステムアシストにより容易に型を再現することができるようになる。更に、実際に剣道などを経験した者であればゲームに登録されている型を実際に使うことにより、システム上で容易にスキルを習得することも可能だ。
そんなカタフィニアというゲーム内。
西暦2180年7月1日20時00分。
商工業連合都市共和国『オースプリグナ』の首都にある教会にて、一人の女性キャラクターが燃え尽きたボクサーのようにがっくりと項垂れている。
宵の内の薄暗い教会に人影は二つしかなく、薔薇の花弁を模したステンドグラスから注ぐ月明かりが淡く降り注いでいた。
人が50人は入れそうな礼拝堂には木製の長椅子が両翼に並んでいるが、座る者のいない椅子たちは沈黙を保っている。
人気が無いのは時刻のせいではなく、ここが彼女のプライベートな空間だからだ。
神々の黄昏ではゲーム内通貨や現実の金銭を支払うことにより、様々な形状の拠点を購入することができる。それはごく普通の一軒家であったり、ダンジョンであったり、城であったり、洞窟の一部であったりと様々だ。
機能においても多種多様な用途があるが、基本的な機能として所有者の許可なく入ることができないというものがある。教会の主は今現在、フレンドも含めた全てのプレイヤーの立ち入りを禁止していた。
「もうダメだ、お終いだ……」
「よしよし……オレが傍に居るぜ」
項垂れ愚痴を零している人物は、『セレス』という名の有名プレイヤーだ。愛称はセレス。
レベル100の古参であり、種族は天使の最上級である熾天使。収納可能な三対六枚の羽根を持ち、各種耐性が優秀な人気種族である。
天使の輪が浮かぶかのような輝きを放つ金色の長髪を腰まで伸ばし、満月のように煌く金色の瞳は吸い込まれてしまいそうなほど美しい。起伏の激しいボディラインが浮かび上がる濃紺の修道服に、腰から下のショートエプロンを巻いており、引き締まった腰の括れ、スイカのような二つの豊満な乳房、安産型で柔らかな雌尻が強調されている。スカートには動きやすさを重視したチャイナドレスのような深い切れ込みが左側に入っており、黒いガーターベルトとストッキングの隙間からむっちりとした太ももが覗いていた。
嘆く美女の背を優しく擦っているもう一人は、ヴァイオレットと言う名のNPCの少女だ。レベルは80。NPCとしては上限に到達している。
人間が操作しているキャラクターではなく、学習型AIにより簡単な会話とコミュニケーションを取ることができるプログラムである。
種族は獣人族の人狼。良く焼けた小麦色の肌に深紅の瞳、濃紺のショートヘアの左右には紫色の房が左に二つ、右に一つ入っている。頭頂部には狼の耳がぴょこんと顔を出していた。
釣り目がちな強い意思を感じさせる瞳、母性を感じさせる大きく突き出た乳房。張りがあり、ツンと突き出た生意気な雌尻の上にはふさふさした尻尾が生えている。戦闘時は手足の先が狼化する半人、半獣の戦闘種族である。
職業的には鍛冶などの生産系と戦士などの前衛職を修めており、セレスの商売と戦闘をサポートする長年の相棒だ。今は丈の短いメイド服の上に軽装の鎧を着こんでいる。
美女と美少女は身体の隅々から装備や装飾に至るまで、全てセレスのプレイヤーが自作したものである。セレスというキャラクターに関しては、10年前に開催されたゲーム運営主催の賞にて最優秀3DCGモデル賞を受賞したこともある。彼女の自信作であった。
しかし、その優れた容姿が今の嘆きの原因である。
彼女――セレスはゲームで生計を立てているプレイ動画配信者であり、多数の信者を持つ偶像的存在だった。
そんな彼女に本気で恋をしてしまうプレイヤーも多く、最近ではゲーム内でのハラスメント行為が頻発していることが悩みの種であった。
そして数日前のこと。事件は起こるべくして起こる。
彼女のSNSや会話の些細なヒントから居住を突き止めた一人の熱烈なファンが、現実世界の彼女の部屋に押し入り強姦未遂を行ったのである。
その凶行はすぐに現実世界のニュースになった。
実際の報道の一部はこうである。
――人気ゲームでまたも問題――きょう未明、傷害の容疑で逮捕され――容疑者は「男でも構わない」などと言い、被害者の男性に襲い掛かったと見られ――容疑者の自宅からはビデオゲーム機と男性同士の過激な表現が見られる雑誌が発見され、事件との関連を――
男でも構わない――――
被害者の男性――――
そう――有名ゲームプレイヤーでバーチャルアイドルであるセレスのプレイヤーはバ美肉おじさん――所謂ネカマだったと全国放送で暴露されたのである。