3-6 サエラvsアラビアータ3
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俺のオーダーを受けて、オーナーは渋い顔のまま厨房の奥へ戻る。
「ごめん……。レイ君に迷惑かけちゃって」
「俺のミスはお前がカバーしてくれる。お前のミスは俺がカバーする。そういうもんじゃねえか、パートナーってのは」
「ありがとう……」
サエラが少し涙ぐんで礼を言う。
「泣くんじゃねぇ。罰としてそのピザ没収な」
サエラがピザに加えてスパゲティまで食べるとなると、食べきれない可能性が高い。俺がピザを食べておく必要がある。
「うん。いいよ~」
サエラからピザを受け取って食べる。普通の味だった。やっぱアラビアータ食わなきゃ、ここに来た意味ねーな。
俺がピザを食べていると、サエラが心配そうな顔で話しかけてきた。
「でも、大丈夫かなぁ……。私、あんな辛いパスタ食べられないよ……。普通のペペロンチーノくらいなら大丈夫だけど……」
「もぐもぐ……心配すんな。辛い物でも美味しく食べられる、南家とっておきの裏技がある」
南ってのは、俺の前の世界での苗字だ。
「って、忘れてた」
俺は慌てて、ある物をさらに追加注文した。
しばらくすると、オーナー自らがアラビアータを運んできた。
「お待たせいたしました。アラビアータ・レッドサンスペシャルとミルクでございます」
相変わらず暴力的な香り。辛さはもっと暴力的だ。
「……本当によろしいんですね?」
疑うような視線をこちらに向けるオーナー。JAOではレシピさえ同じなら味は変わらない。サエラが食べられるはずがないと思っているのだろう。
「あんたも職人なら、自分のレシピ信じろよ。見ろ、サエラの顔を」
サエラは真っ直ぐアラビアータ・レッドサンスペシャルを見つめている。その瞳に恐れや迷いは、もはやない。あいつは俺を信じてくれている。
俺とオーナーが見守る中、サエラはフォークにパスタを絡ませ一気に口に運んだ。
一噛み、二噛み。まだサエラに変化はない。
三噛みしたところで、サエラの顔が大きくゆがんだ。辛みが口の中で爆発したのだ。
「んんん~~~!!」
声にならない叫び声をあげるサエラ。顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべて悶えている。サエラは苦しみのあまり、水が入ったグラスに手を伸ばす。
「水を飲むんじゃねえ!」
俺に制されて、サエラは手を伸ばすのを止めた。だが、彼女の腕、いや、体全体が痙攣したように震えている。辛い物には水――これは本能。本能を止めることは難しい。
自分の前に置かれていたグラスを、そっとサエラの前に置く。
「飲め」
水の代わりに勧めた物は牛乳だ。これこそが辛さに対抗する武器。
サエラは一気にグラスの半分まで牛乳を飲んだ。サエラの顔から苦しみの色が引いていく。
「はぁ~……牛乳飲んだら、ましになった~」
南家は俺とオカンとオヤジの3人家族だった。俺とオカンは辛党だったが、オヤジは辛い物が苦手。オカンの好みで辛い物がよく食卓に並んだが、オヤジだけ別メニューというわけにはいかなかった。
そこでオヤジは辛い物を食べるときには必ず牛乳を飲んでいた。なんでも牛乳には辛みを抑える成分が含まれているらしい。
一方、水は辛みを強めてしまう。辛い物好きの俺とオカンは、辛い物を食べるとき水をあえて飲むこともあった。
サエラはグラスを置くと再び食べ始めた。さっきよりも多くフォークにスパゲティを巻きつけている。目の端に涙は残っているものの、顔はさっきよりも楽しそうだ。
「辛~~い。でも、美味し~い~」
涙を流しながら笑っているサエラを見て、
「そうですか……。ありがとうございます」
オーナーの目にも涙がきらりと光った。
結局、サエラはミルクを3杯追加してアラビアータを完食。もちろん、途中で眠ることはなかった。食べ終わった後はサエラとの話も弾んだ。なんとかサエラにいいところを見せられたかな。
会計を済ませてレッドサンを出る。本物の職人がいる、いい店だった。やっぱトマトは人を育てる。
そして、俺のデートをプロデュースしてくれたコプアさんには感謝だ。今度、何か高いメニューでも頼んでやろう。
「ごちそうさまー。レイ君がいなかったら、また寝るところだったよ~」
「ま、いいってことよ」
「あのね、レイ君、今日はお願いがあるの……」
サエラは顔をなぜか赤らめる。
デ、デートって、メシ食ったら終わりじゃねえのか……。こっから、先なんて、どうすればいいのか、分かんねーよ……。
「お、お願いって……」
お、俺だって心の準備ってもんが……。
「レイ君と一緒に行きたいところがあるの……」
デートの終わりに行く場所……!?
「いきなりなんて、やっぱりダメかな……」
顔を少しふせるサエラ。
「ど、どっ、どこだって行ってやらぁ……」
「私を……ジューンガーデンに連れてってくれる……?」
ジューンガーデンとはSSランクのダンジョンだ。
サエラのデートも狩りじゃねーかよ!! コプアさんの馬鹿野郎!!
次回は3月18日の12時頃に更新の予定です。
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