3-2 ゲーヲタにファッションは難しい
評価をいただきました!
皆様からのブクマや評価はとても嬉しいです。本当に感謝しています。
これからもどうか応援よろしくお願いいたします♪
ピロリロリロ……ピロリロリロ……。
耳元で鳴り続けるコール音。まだ眠い。
ピロリロリロ……ピロリロリロ……。
耳元で鳴り続けるコール音。まだ眠いっていってんだろ……。
寝起きのぼうっとした頭のまま、通話を繋いだ。
『やっと繋がった』
『なんだ……コプアさんかよ……。俺はまだ眠ぃんだ……』
『ぐっすり寝てたところをごめんなさい』
『逆だ! 逆! 昨日は朝6時まで眠れなかったんだよぉ!』
昨日サエラからデートに誘われた。17年の人生で女子と付き合ったことは、ただの一度もねえ。もちろん、デートもだ。
緊張して心臓がバクバク鳴り続け、何をどうすればいいのか全く分からず頭がぐるぐるしていた。あ、そんなことを思い出したら、また緊張してきたじゃねーか……。
『ふふ……。サエラちゃんのことで寝れなかったんだ。レイ君も案外かわいいところ、あるんだね』
『はぁ!? 狩りだ、狩り。狩りに行ってたんだよ!』
本当は狩りに行くことさえ思いつかなかったくらい、緊張していたんだが。
『サエラちゃんからの連絡はあった?』
デートの待ち合わせ時間は指定されていない。サエラが起きたら連絡するそうだ。
勝手な話だが、時間を決めたところで、その時間にサエラが起きている保証はねえ。むしろ、今日一日寝てくれたほうがデートに行かなくていいのか? いや、それもなぁ……。
通話ウインドウを確認。サエラからのメッセージはなかった。
『ねえよ。まだ夢の中みてぇだな』
『ところでレイ君って、女の子とデートしたことってある?』
『知るかっ』
『だったら、私がデートをプロデュースしよっか?』
『はあああ!! 何でそうなるんだよ!』
『たまにはされるのもいいじゃない』
『うっせぇ、俺は人から指図は受けねえ主義なんだよ』
『私だって、レイ君の夢、応援したいから、デートもうまくいってほしい』
確かに、デートで失敗してサエラとの関係がぎくしゃくしても困る……。
『あぁ、もう、好きにしやがれ!』
『それじゃあ、フォーリーブズで9時に待ち合わせでいいかな』
『ああ』
『ふふ……それじゃあ。また後でね』
通話が終了。
コプアさんは普段は清楚で優しいお姉さんって感じだ。だが、面白そうな話題になると、優しく微笑みながら、ぐいぐい喰いついてくる。悪くいうと世話焼きだ。でも、そんな彼女に何度も助けられてきた。
今回の件は、正直俺一人じゃどうしようもねえ。布団で頭を抱えながら、ごろごろ転がるだけだ。ここは一つ、コプアさんに任せてみようじゃねえか。
9時前にフォーリーブズに到着。『本日臨時休業』と書かれた紙が扉に貼ってあった。気持ちは分かる。俺だって、狩りに行ける気分じゃねえ。
扉を開けて中に入る。
「おはよう、レイ君」
店の奥からコプアさんが出てきた。
今日の服装はいつもと違う。銀髪を下ろし黒のベレー帽をかぶっている。温かそうなグレーのニットに、レースのついた青いスカート。メイクもバッチリ決まっている。俺なんかとは釣り合わないほどの、立派な大人の女性になっている。
「やっぱり、レイ君はいつもの格好なんだね……」
対する俺といえば、初期装備の麻のTシャツに黒のズボンという、いつもの格好だ。
「それがどうしたっていうんだ?」
「どうしたって……今日はデートじゃない。かっこいいコーデでいかないと」
「俺が興味あるのはゲームだけだ」
「もう~、それじゃあダメ~。他に服は無いの?」
「見た目装備はダンジョン攻略に関係ねえ。だから初期装備でいい」
元々俺はファッションに対して全く興味はねえ。服なんて寒さを凌げれば十分だ。さすがに典型的なキモヲタファッションじゃなかったが。
胸を張って答える俺を見て、
「ダンジョンは攻略できても、女の子は攻略できないよ」
コプアさんは額を押さえた。
「よし、今から服を選びに行きましょう!」
コプアさんは俺の手を引っ張って、フォーリーブズを後にした。
着いた先はブリックスストリートにある服屋だった。ブリックスストリートの商店は高い物はあまり扱っていない。その代わり品数が多く店は広い。
JAOでは、鎧やローブといった、いかにもファンタジー風の衣装だけでなく、原始時代の皮服から現代的な服まで幅広く存在している。ナース服や宇宙服なんてものまであった。この店はアパレルショップで売っているような服が中心だ。
「ここでかっこいい服を選んでね。それを私がOKかどうか判定するから」
「分かった」
コプアさんから離れ、1人で店内を散策する。適当に店内に陳列されている服を見てみた。自分に何が似合うかなんて、ファッションに興味がない俺には全く見当がつかない。
でも、待てよ。ゲームの大会も最近はイケメンも多いな。大会参加者っていわれれば、大体イメージはつくぞ。
そうと決まれば、早速カタログを見て服を探そう。
試着室のカーテンを開けて外に出る。
服は決まった。
試着したまま、コプアさんが休憩しているスペースに行く。良く似合っていると店員も言ってくれたし、大丈夫だろう。
椅子に座ってメッセージを見ていたコプアさんに声をかける。
「待たせたな」
「レイ君……その恰好……」
俺のコーデは、黒の皮ズボンに黒のシャツ、黒のジャンパー、そして黒のサングラスだ。
「どうだ。決まってるだろ」
そう言って、サングラスを外す。
有名なプロゲーマーに「ノワール」というやつがいた。冷静で鋭利なプレイスタイルと、殺し屋のようなクールな出で立ちで人気があった。俺もかっこいいと思っていた。これなら――。
「その恰好で行ったら、今日のデートの結果、決まっちゃうよ。別の意味で」
コプアさんの顔は引きつっていた。あれ?
「黒一色って、カラスじゃないんだし……」
「そっか。何かアクセントが必要ってわけだな」
サングラスを掛けなおす。
「あと、サングラス。無茶苦茶ダサいから」
試着室のカーテンを開けて外に出る。
服は決まった。
良く似合っていると店員も言ってくれたし、今度こそ大丈夫だろう。
椅子に座ってメッセージを見ていたコプアさんに声をかける。
「待たせたな」
「レイ君……その恰好……」
俺のコーデは、さっきの服を基にしたものだ。黒一色はまずいということで、シャツを紫にした。アクセントにシルバーアクセを大量につけてみた。後で髪も染めてみようか。
「どうだ。決まってるだろ」
そう言って、腰に着いたチェーンを鳴らす。
ヴィジュアル系のチャラ男は、学校の女子にも人気があった。これなら――。
「うん。やっぱり決まっちゃうよ。別の意味で」
またコプアさんの顔は引きつっていた。あれ?
「もっと真面目な感じで」
衣装チェンジ。
「待たせたな」
今度は真面目にスーツだ。
「真面目すぎるよ……」
あれ?
「年相応な衣装で」
衣装チェンジ。
「待たせたな」
今度は学ランだ。ザ学生ルック。
「イモい……」
あれ?
「ゴメン……。私が悪かった……」
なぜか涙目のコプアさん。
「女子が選ぶのもどうかと思って、選ばなかったんだけど。やっぱり私が選ぶね」
その後、コプアさんは何着か試した後、チェスターコート(黒)とパーカー(グレー)、長袖Tシャツ(白)、スニーカー(赤)に決めた。
次回は3月14日の12時頃に更新の予定です。
この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。




