1-9 ゴブリンで実験2
ゲームシステムの説明が多い話です。苦手な方は流し読みしてください。後書きに簡単なまとめを記載しておきます。
これはちょっと予想外だったな。
悲鳴を上げ続けるゴブリンをよそに、俺は実験の結果を検討していた。といっても、それはゴブリンのナイフが砕けたことじゃねえ。そんなことはどうでもいい。当然の結果だからな。
ATKが相手のDEFを下回った場合は大きくDRAが減少する。そして、DEFが大きいほどDRAの減少は大きい。
俺はさっき作ったロングソードを装備していたのでDEFが710ある。対するゴブリンのATKは70程度。話にならない。
そして、JAOではDRAが0になったとき、武器は消滅する。だからナイフが消滅した。それだけの話だ。
このクソ仕様はJAOプレーヤーに「防御は最大の攻撃」と揶揄されている。おかしくね?
俺の最大HPは4370で現在HPは4363。つまり7しか減っていない。
とはいえ、HPが減っている以上痛みを感じるとは思ったんだが、全く痛みを感じていない。
これは予想外の結果だな。最初に転生してきたときに頬をつねったら痛かったから、HPが減ったら痛みを感じると思ったんだが。
もう一度頬をつねってみる。痛ぇ。HPは減っていない。
つまり、HPの減少と痛みは関係ないのか? 異世界の仕様といったらそれまでだがよぉ……、おかしくね?
もう少し痛みについて調べてみてえんだが……。ゴブリンのナイフは砕けちまったしなぁ。武器の再召喚には5分かかるから、ここで待つよりも、新しいゴブリンを探したほうが早え。
そう思って、ここを立ち去ろうとした時、ゴブリンがギィェ~と叫びながら俺の後を付いてきて、俺の行く手を遮ろうとした。
獲物も持っていないので俺を殺るすべはない。ゴブリン自身もそのことを分かっているのか、声は威嚇というよりも悲鳴で、顔は恐怖で泣きそうな顔をしている。なのに、追ってくる。
感情と行動が全くちぐはぐだ。こりゃ、JAOまんまのAIだなぁ……。
JAOでは、Mobは逃走のAIを持っていない限り、どれだけHPが減っていようが武器が無くて攻撃手段がなかろうが、逃走せずに追ってくる。ゴブリンは逃走のAIを持っていないので、どれだけ俺のことを恐れていても追いかけてくるのだろう。
つまりAIはゲームと同じ。このことが分かったことは大きな収穫だ。
MobのAIは狩りをするうえで必ず頭にいれなければならない。
もし、JAOで設定されているAI通りにMobが行動しなかったら、不測の事態が生まれるかもしれない。そうなったら危険だ。JAOはわりとあっさり全滅することもあるゲームなので、狩場ではなるべくリスクを0にしておきたい。
などと俺が物思いにふけっている間もゴブリンはしわくちゃの顔に、さらにしわを作って泣き叫んでいる。
……リ、リアル過ぎんぞ。JAOも、既存のVRゲームとは比べものにならないほどの、リアルな表現、反応、行動をうりにしていたが、ここまでリアルだとゲームにならなかっただろうな。
ちょっとかわいそうだし、一思いに倒してやろう。
片手でロングソードを振るい、ゴブリンを斬りつける。
斬られたところが赤く光り、ゴブリンがワイヤーフレームでレンダリングされたグラフィックに変化。そして、フレームが粉々に砕け散って消滅した。
死に様もゲームまんますぎだろ。
グロテスクな表現のゲームが好きってわけでもねえから、血がどばどば飛び散ったり死体が残ったりしても仕方ない。
この異世界って、細かい表情とかはともかく、リアルっていうよりかはゲームそのものって感じだ。ゲーマーの俺としては、そっちのほうがやり易いけどな。
最初のゴブリンを倒して20秒もたたないうちに、ゴブリンが出現。今度はその数4体。さっきから全然いねえと思っていたら、1カ所にたまっていたのか。
ま、実験する分には悪くねえな。あらためて、実験開始だ!
左手に光源のたいまつを握り、右手にはロングソードではなく拾った枝を握っている。
まずは相手のナイフが届く前に、木の枝を思いっきりゴブリンの右手めがけて振り下ろす。そして、すぐに枝を捨て、怯んだゴブリンの顔面に向かって渾身の拳をめり込ませた。
ゴブリンたちの攻撃をかわしながら、攻撃を与えたゴブリンのHPバーを確認する。
JAOではMobの頭上(大きいMobは自分の視界の上部あたり)に名前とHPバーが表示される。
全力で攻撃したにもかかわらず、バーは1ドットも減少していない。
これは予想通り。
JAOでは武器を装備していないとダメージを与えることはできない。今みたいに、枝や徒手空拳による打撃は武器による攻撃とみなされないので、どんな雑魚相手でも与ダメは0になる。
とはいえ、武器以外による攻撃、特に体術も役に立つ。タックルをかませば相手も押されてよろけるし、相手を組み伏せれば動けなくなる。相手の攻撃が届く前に殴ったり蹴ったりすれば攻撃を逸らしたり止めたりすることもできる。
ダメージは通らないものの、武器が全てのJAOでさえも体術の重要性は他のVRMMOと同じく、やはり大きいといえる。
次の実験にとりかかろう。テーマは、被ダメが大きくなったら痛みも増加するのか?
さっきと違ってSロングソードを装備していないので、DEFは大きく減少している。つまり、被ダメ(受けるダメージ)は増加することになる。
再びわざとゴブリンの攻撃をくらってみた。ちょっとだけ痛えな。胸を爪で軽く引っ掻いたくらいには痛い。
俺のHPは93減少していた。ってことは最大HPの大体2%ぐらいか。こりゃ、即死級のダメージを受けたら悶絶するかもしれねえな。歯を食いしばってでも耐えるか。
さっきはHPが7、最大HPの0.1%程度しかダメージを受けていなかったから、痛みが小さすぎて気がつかなかったんだろうな。
ゴブリンの攻撃を同時にくらってみた。軽く引っ掻かれたほどの痛みが2回しただけだ。
どうやら痛みが増幅するわけじゃないみたいだな。弱い攻撃を重ねられても強い痛みに変わるわけじゃない。
ということは、低ATKの敵を相手するときはゲームと同じように対処すれば問題ないってことだな。
◇今回のJAOのシステム説明まとめ1
ATKが相手のDEFを下回った場合は大きくDRAが減少する。
DRAが0になったとき、武器は消滅する。
◇今回のJAOのシステム説明まとめ2
武器を装備していないとダメージを与えることはできない。
◇今回のJAOのシステム説明まとめ3
異世界でも痛みを感じる。
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