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2-50 わたしのお兄ちゃん、お姉ちゃん

2-42から今回(2-50)までは3人称メマリー視点で話が進みます。

次回からはレイの1人称視点に戻ります。

「や、やったぁ……」


 ミツナリを倒し、メマリーは極度の緊張感から解放された。土間だということも忘れ、その場にへなへなと腰を下ろす。

 メマリーは剣を握る両手をじっと見る。まだ震えが止まらない。


(本当に、わたし、ボスを倒したんだ……)


 4週間前なら考えもつかなかった。弱い自分がボスに立ち向かう姿、そして、ボスを倒してしまう姿なんて。ボスと戦ったのは自分。ボスを倒したのは自分。諦めなかったのは自分。今でも信じられない。

 それでも、メマリーは信じることにした。自分のしたこと、自分の力、そして、これから自分が成すことを。


 手の震えはいつの間にか治まっていた。



 地面をよく見ると、クエストラインが出現している。クエストラインをたどって母屋の外に出ると、建物から出た所に虹色に光る大きな魔石が出現しているのが見えた。少し小さなメテオジャムといったところか。クエストラインはメテオジャムの前で消えている。

 メマリーはメテオジャムの前に手をかざし、ビニーブ峡谷を後にした。






 テレポート先はワーデンの村のメテオジャム前だった。そのままメテオジャムを使ってレスターンに戻ろう。そう思ってメマリーはメテオジャムに手をかざそうとしたが、隣に立っていた2人の人物を見て、慌てて手を引っ込める。


 レイとサエラがメマリーの側に居た。

 寝ているところを起こされたのだろうか、サエラは紫のパステルカラーのふわもこパジャマに、薄いピンクのカーディガンを羽織った格好だ。枕を脇に抱えている。レイの格好はいつもと同じく麻のTシャツに黒のズボンだ。


 桃色の瞳を潤ませてサエラがメマリーに抱きついてきた。


「メバリーぢゃぁぁぁん~。じんばい、じたよお゛お゛おおお~~」


 わんわん泣いてメマリーの無事を喜ぶサエラ。声が震えて、ほわっとしてかわいらしい声が台無しだ。メマリーが少し苦しいと感じるくらい、強く抱きしめてくる。

 そんなサエラの様子を見て、メマリーは自分のしでかしたことに申し訳なさを感じた。


「ゴメンね。サエラちゃん。心配させちゃったね……」


 メマリーはハンカチをサエラに渡す。それが今メマリーにできる、サエラに対する精一杯の感謝と謝罪の表明だ。



 メマリーは横目でレイを見た。さっきから腕組みしたままじっとメマリーを見つめている。厳しい目つき。勝手にボスと戦ったのだ。きっと怒っているに違いない。


 メマリーが謝ろうと口を開けようとした時――。


「強くなったな」


 レイの短い言葉。でも、いつもより温かいその一言には、レイの色々な想いが詰まっている。メマリーはそう感じた。



 メマリーはバカでドジで泣き虫だ。今でもそれは変わらない。

 そんな自分でもボスを倒すことができた。レイの言う通り、メマリーは強くなったのだ。変わったのだ。

 でも、自分1人ではメマリーは変わることができなかっただろう。強さの意味も勘違いしたままだったに違いない。変わることができたのは――レイとサエラ、2人のおかげだ。


 レイは目つきも悪ければ、口も悪い。メマリーのレイに対する最初の印象は怖い人だった。

 でも、レイに色々な事を教えてもらううちに、それは上辺だけの評価なのだと気付いた。冒険に対しては誰よりも一生懸命で、誰かの力になりたいという想いは人一倍強い。事実レイの武器は、そんなレイの性格を反映した逸品だ。

 レイは誰よりも優しく、誰より頼もしい。いつも悪態をついているのも、その裏返し。

 メマリーはそのことが、だんだん分かるようになってきた。レイのことがだんだん好きにになってきた。



 メマリーは一人っ子だ。ずっと、お兄ちゃんが欲しいと思っていた。いつも一緒に遊んでくれる、優しくて頼もしいお兄ちゃんが――。


「レイさん」


「何だ?」


「わたし、レイさんみたいな、優しくて頼もしいお兄ちゃんがいたらいいなぁって、ずっと思ってた」


 これからもずっと側に居たい。


「だから――、お願い! これから、お兄ちゃんって呼ばせて!」


「はぁぁぁぁぁっっ! ダメに決まってんだろ!」


「う……うぅ……」


 無下に断られてしまった。メマリーとしては以前のような冗談ではなく、本気のお願いだった。思わず涙がこぼれてしまう。


「泣いたって、ダメだからな……」


「私もお姉ちゃんって呼ばれたかったよ……」


「なんでサエラまで、泣くんだよ! もういい! 勝手にしやがれ!」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 メマリーはぱっと顔を輝かせた。そんなメマリーにサエラも続く。


「ありがとう、レイく――お兄ちゃん!」


「サエラ、お前はなしだ」


「がーん」


「わたしがお姉ちゃんって呼んであげる~」


 メマリーはサエラを励ました。


「ありがと~。さすが私の妹だね~。お兄ちゃんと違って優しいな~」


「サエラ、お前は呼ぶな、つってんだろ」


「別にいいよね~」


「うんっ」


 顔を赤くして、悪態をつくレイ。それを見てサエラとメマリーはほっこり笑う。



「んな茶番はいいんだよ。今日はもう遅ぇ。早く帰るぞ。俺も眠ぃんだよ」


「そ~だね~。私も……zzz……」


 サエラは枕を頭につけ、地面に倒れ込んだ。


「しまったNGワード踏んじまった!」


「起きてよぉ~。お姉ちゃん~」


「zzz……zzzzz……」


 メマリーはサエラの体をゆすって起こそうとするが、全く起きる気配がない。たった数秒で深い眠りについたようだ。


「おいメマリー! サエラの妹なら、だめ姉の面倒ぐらい見やがれ。サエラを家に送り返してこい! いいな!」


 そう言い捨てて、レイは逃げるようにメテオジャムでテレポートした。



 あっという間に面倒事だけを押し付けた兄と、周りの苦労も知らないで土の上で幸せそうに眠っている姉。今までと違い、頼りになるとはいえない2人の姿。

 でも、この変化がメマリーにとって、とても嬉しく感じられた。思わず笑みがこぼれてしまう。


(ふふふっ……。なんだか、本物のお兄ちゃん、お姉ちゃんっぽいなぁ~)


 空には満天の星が輝いている。

 メマリーは鼻歌を唄いながらサエラを抱きかかえ、この地を後にした。

次回は3月10日の12時頃に更新の予定です。




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