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2-46 メマリーの決意

2-42から2-50までは3人称メマリー視点で話が進みます。

 雑魚Mobのオチムシャゾンビを退治するクエストだとメマリーは勘違いしていた。

 もちろん、いつかはメマリーもボスに挑むつもりでいた。その覚悟はあった。でも、それがまさか今日だとは思ってもいなかった。

 ボスは雑魚Mobよりもずっと強い。生半可な装備で挑んでも返り討ちに合うだけだ。レイやサエラから、そう言い聞かされてきた。

 ボスと戦うためには、それ相応の準備が必要だ。でも、メマリーはボスとの戦いなど全く想定していなかった。当然、何の準備もない。



 メマリーの心を無力感と恐怖がむしばんでいく。


「う……うえええええん~~~」


 涙を流しながらメマリーは全速力で逃げ出した。走ると床が腐って抜けそうだとか、そんな些細なことは頭になかった。


 土間まで逃げ出したメマリーは、玄関の扉に手をかけて引く。母屋に入るときは力を入れずともすっと扉は開いた。だが、今はまるでそれが壁であるかのように、扉は固く閉ざされたままだった。



 メマリーは後悔した。レイたちの言う通りに狩りをしていれば、こんな目には合わずにすんだはず。何でも見通すレイたちのことだ。きっと、この展開も予想済みだったに違いない。


 レベルが急激に上がって舞い上がっていた。しょせん、自分はドジでバカで泣き虫のメマリーだ。自分なんかじゃ強くなれない。

 クラブを振れども振れどもワーカーに当たらなかったこと。オークのモルゲンステインが脇腹に当たって一目散に逃げたこと。やっとありつけたハニープラントを意地悪な冒険者に倒されて泣いて帰ったこと。メマリーの頭の中をタランバ時代の惨めな思い出が駆け巡る。


「サエラちゃん、レイさんたす――」


 助けを求め、この場にいない2人に向かってメマリーは手を伸ばす。






『この世界に、本気で強くなりたい、変わりたいってやつはいねえのかよ!』






 タランバ丘陵で打ちのめされ、臨時PTを探しに酒場を訪れた、あの日。本気の強い叫びがメマリーの弱気な心を激しく打った。これまでの人生で一番強く心が奮い立った。






 変わりたい――。






「――――んんんっっ!」


 レイの言葉、そして自分の気持ちを思い出し、メマリーは不甲斐ない言葉を飲み込んだ。


(あの頃のままじゃダメ! わたし、――変わらないと!)


 くじけそうな心を押さえ込むべく、メマリーは歯をぎゅっと食いしばった。



 ゾンビたちの足音が大きくなっていく。板がきしむ音から、土と草鞋がこすれ合う音へ。姿は見えなくとも、こちらに近づいてくるのが分かる。

 メマリーは開かない扉から手を離した。そして、通話ウインドウを開いて、レイ=サウスの名前をクリックする。


 かつてレイはボスと戦う上で最も重要な事は情報だと言っていた。メマリーにはボスの情報はない。レイならきっと知っているはずだ。


 だが、なかなか通話が繋がらない。現在時間は夜中の0:24。寝ぼすけのサエラはもちろん、普通の人でも寝静まっている時間。レイが起きているかどうかは疑問だ。


 祈るような気持ちで、メマリーは呼び出し音を聞く。



『狩り中にチャットしてくるんじゃねえ。しかも、こんな夜中によー』


 相変わらずぶっきらぼうでイラついたレイの声。この声を聞くだけでメマリーは安心できる。


「ビニーブのクエストボス、ミツナリの情報を教えてください!」


『何でボス? 俺、そいつ――』


 ドンッ!

 レイとの通話中、突然、メマリーは壁に叩きつけられた。

 ミツナリの姿はうっすらと見えていたが、それに気を取られ他のオチムシャゾンビの存在を忘れていた。サーチングアイをしていなかったメマリーは、クローキングで近づくオチムシャゾンビを発見できなかったのだ。


 オチムシャゾンビに斬られて「痛い!」とメマリーは小さく悲鳴を上げた。

 でも、黙ってやられるわけにはいかない。自分を押さえつけているオチムシャゾンビの腕をなんとか引きはがし、ゾンビの腕にシャムシールを叩きつける。


「負けないもん!」


 メマリーの攻撃が命中し、オチムシャゾンビは消滅する。



『……なるほど、そういうことか』


 どういうことか分からないが、レイは1人で納得している。メマリーは体勢を立て直すべく逃げる途中なので、これに答えることはできない。


『本当に変わりたかったら――――ボスを倒してこい。それだけだ』


 ミツナリについて何も教えることなく、レイは一方的に通話を切ってしまった。



 結局、ミツナリについての情報は何も得られなかった。どんな攻撃をするのかも、HPも、ATKも、全く分からなかった。

 けれども、1つだけ分かったことがある。


 メマリーはシャムシールの持ち手を固く握りしめる。そして、大声で、


「倒してみせるよ! わたし、絶対に変わるんだから!」


 心の底からあふれ出る決意を発した。もうメマリーの目に迷いはない。



 メマリーがミツナリに挑む上で最も重要な情報。それは――


 メマリーはミツナリに勝てる。

次回は3月6日の12時頃に更新の予定です。




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