1-8 ゴブリンで実験1
色々確かめたいことがあったので、早速実験をすることにした。
JAOそっくりの世界といっても、ここは異世界だ。油断は禁物。
どんなゲームをプレイするときにもいえることだが、仕様はきっちり把握しておかなきゃいけない。仕様も把握しないでゲームを始めるなんて、そんなのパンピーがやることだ。それじゃあ、ゲーマー失格だ。
ナナン平野の中にあるダンジョン、ククリクの森へ移動することにした。ナナン平野にはアクティブMobがいないので実験できないからだ。
Mobには、アクティブMobとノンアクティブMobの2種類がいる。
アクティブMobとは、自発的にプレーヤーを攻撃してくるMobだ。一方、ノンアクティブMobとは、攻撃されない限りプレーヤーを攻撃してこないMobだ。
ほとんどのMobがアクティブMobだが、ここナナン平野みたいな序盤のMapはノンアクティブMobが多い。
ククリクの森に到着。
森の中は木々で覆われており、外とは違って、月や星の光が森まで届くことはない。目の前に広がる漆黒の闇は、どこからともなく聞こえてくる枝葉のさざめく音や動物の声と相まって、中に入ることをためらわせるには十分すぎるほど、恐怖心をかきたてるものだった。
だが、そんなことくらいでびびってなんかいられねぇ。森の中へと足を踏み入れた。
森の中は暗い。これじゃあ、どこに何があるのか全く分からねえな。たいまつをつけるか。
アイテムウインドウを開こうとした時、不快なブブブブブーンという騒々しい羽音が耳元で鳴った。
「うわぁぁぁ~~」
突然の出来事にパニックになってしまったが、すぐに落ち着きを取り戻した。アイテムウインドウを操作し、たいまつをつける。これで、自分の周囲だけ明るくなった。目を凝らすと、犬くらいの大きさのカナブンが目の前をよたよた飛んでいるのを発見。
「なんだ、カナブンかよぉ~」
さっきの羽音は、カナブンことドローンビートルというMobの羽音だった。レベル10強の雑魚だ。
くそっ、カナブンみたいな雑魚にびびっちまった。なっさけねぇ~。ま、でも、寝ている時に耳元で蚊の羽音が聞こえたら、パニックになるもんな。仕方ねぇ。
しかし、夜だとこんなに印象が違うんだな。俺の知っているククリクの森は、序盤のMapらしく、雑魚しかいない平和なMapだったんだが。明かり1つ無いだけで、こんなに印象が違うのかよ。夜の森で狩りをしてみるのも面白えかもしれねえな。
3分ほど歩いてMobの種類、湧き具合を確認。プチが1体、ポケット1体、バーチ5体、カナブン3体。ピグミーは姿こそ見えなかったが、鳴き声はそこら中で聞いた。小さいから発見できなかっただけだろう。暗くて見えねえしな。
いずれもゲームではククリクの森に出現する。湧きも具合もあんまり変化はなさそうだ。
だが、俺の本命はそいつらじゃねぇ。そいつらは全部ノンアクティブだ。これじゃ、実験できねえよ。
溜息をつこうとした時、ギギッっという耳障りな鳴き声がした。よしっ、キタ! やっとおでましか。
たいまつを前方に照らすと、1体のMobがいた。人間の肩ぐらいまでの背丈で、腰に粗末な布を巻きつけただけの格好。緑色の肌に尖った耳。子どものようにも老人のようにも見える、不細工だが、どこか愛嬌のある顔。誰がどう見ても分かるだろう、このMobはゴブリンだと。
俺はさっき作ったロングソードの柄を右手で握りしめた。実験開始だ!
ゴブリンはギギギッと不敵に笑うと、手に持った獲物をかざした。暗闇の中で、短い銀の刃がたいまつの光を反射してギラリと光る。短剣カテゴリーの武器、ナイフだ。
ギヒャァと叫びながらナイフを構え、ゴブリンが向かって来た。対する俺は、直立したまま一歩も動かない。
ゴブリンのナイフが一直線の軌道を描いて突き出される。――狙うは心臓。それでも、俺は避ける動作をしない。
ナイフが心臓に届く直前、ゴブリンは顔に下品な笑みを浮かべた。動かない相手を殺すのは簡単だ。ナイフで心臓を一突きするだけでよい。笑いたくもなるだろう。
だが、俺の体にナイフの切っ先が当たった瞬間、ナイフが光り、バラバラに砕けて消滅。
「ギ、ギギギギィィィ~~~!!」
静かな夜の森にゴブリンの絶叫がこだました。
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